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キング  作者: かめ屋吉兵衛
開拓者
42/50

二 宇宙船

 惑星への移住に向けて、我々は動き出した。

 まず、和の国で私達が担って来た仕事は三丁目住人と、第一、第二コロニーの人達に委ねる事に。

 和の国の体制強化を理由に納得して貰う。

 それまでも雑事は自分達で行うからと、彼等がサポートしてくれていたので、組織の指揮系統を明確にするだけで済んだ。

 国連会議への出席も彼らと交代。

 しばらく隠しカメラ映像で見ていたが、我が国の新代表達はその任を卒なくこなしていると判断、今は完全に任せた。

 私達への報告は最低限で構わないと話したが、報告書は何時もきっちりした形で届けられている。

 私達は今後の移住に関する事をどう人々に伝えて行くか考えていた。


「翔、これが宇宙船なの?」

「うん、母さん、高速船でも外観は単独居住コロニーと同じなんだよ。」

「そうか、空気抵抗とか関係ないから外観はどうでも良いのね。」

「普段、人の目に触れることはないからね、見て貰えるのならもっとデザインを考えるのだけど。」

「今回は特別?」

「発進したら、この船を撮影出来る存在はないからね。

 さあ、中へどうぞ。」


「これって…、住み易く改修した居住コロニーとあまり変わらないわね。」

「変える必要はないでしょ、でも十二人分の研究室と長距離移動用ゲートは特別なんだ。」

「えっと、操縦はどこでするの?」

「聡の研究室、と言っても全自動で、聡が時々座標のチェックをするだけさ。」


 翔が高速宇宙船を紹介する様子は昇が撮影している。

 映像は、編集されテレビで公開する予定。


「尊、そろそろ、この船を何の為に作ったのか、テレビをご覧の方々にお話ししても良いのでは無いかしら。」

「そうですね、この高速宇宙船はある恒星の第四惑星を目指して、明日、僕たちの暮らす箱舟宇宙船団を離れます。

 その目的地で有る惑星は…。」


 尊は、我々が目指す惑星の話と共に、大人達にとっての母なる地球についてマリアから教えられた話をして行く。

 この世界の人達はこの番組を通し、初めて自分達の置かれている状況を認識し多くの事を考える事になるだろう。


 編集された映像は、国連会議の場で各国の代表に見せた後、テレビで放送。

 代表に前もって見せはしたが、マリアさまから城の子への指示で有り、我々も含めた大人は意見を述べる立場にないと、皆、理解している。

 テレビ放送時から、私達は手分けして人々の反応を観察した。


「受け止め方は様々だな。」

「ああ、だが、それも時間の経過と共に変化して行くだろうし、翔、明日は高速宇宙船の発進映像と合わせて、箱舟船団を外から見た様子もライブ映像で伝えるのだろ。」

「ええ、漆黒の空間を進む箱舟船団、と言っても動いている様には見えないのですけどね。」

「今は戸惑っていて心の整理中みたいだ、移住に関する議論が始まるのは少しずつなのかな。」

「我々でさえ現実味を感じられていないのだから、一般市民は尚更だろう。

 今後の情報公開次第になるのではないか。」

「尊、今後はどうして行くの?」

「目指す惑星まで、高速船がどれだけ近づいたとか、箱舟船団の到達予測とかを知らせて行こうと思っています。

 僕らもまだ、マリアさまから教えられた事を整理中だと説明しつつです。」

「惑星に箱舟船団が到着するまで四年ぐらい掛かるのだから、それまでには議論も深まって行くだろう。」

「マリアさまからの借り物で有る、ここでの暮らし、それがマリアさまから与えられる大地での暮らしへと、それを第一世代がどう受け止めるのか、今後を見守り続ける必要が有りそうね。」

「状況によっては、他の箱舟船団の末路を伝え、この船団の役割を深く考えて貰っても良いが、今の所は箱舟という言葉に納得している様だな。」

「それでも、新たな大地への期待と不安が入り混じっているわ、翔、惑星の様子は何時頃見られる様になるの?」

「順調に行けば三か月後ぐらいかな。」

「随分早いのね。」

「高速船が早いと言うより、箱舟船団が遅いそうだよ、色々運んでいるから。」

「特殊保存状態の生き物とか?」

「うん、和の国の地下は巨大な倉庫だからね。」

「マリアさまの科学力なら、DNAを保管するだけで何とか出来そうだけど。」

「なるべく、そのままにというのがマリアさま達の方針だよ。

 大人達も、えっと…、肉体年齢を調整し記憶にプロテクトを掛けたぐらいで、後は殆どそのままだとか。」

「はは、それだけでも充分いじられ過ぎていると思うがな。」

「城は一般人が一夜を過ごさない方が良い特別な場所なのも、その…、改造に関係しているの?」

「マリアさまは、城の大人達が特別な存在だと分かってから、城を八人の為に最も良い環境に作り替えたと話してた。

 だから、惑星に到着しても、寝るのは城にして欲しいそうだよ。」

「う~ん、若さの秘訣が城に有るのなら守るしかないわね、でも惑星には降りてみたいわ。」

「ゲートを置くから大丈夫、僕らも城で過ごすからね、箱舟船団は一旦惑星の衛星にして改修して行くつもりなんだ。」

「どう改修して行くの?」

「和の国は大型高速船、他は箱舟としての倉庫かな。」

「大型高速船ということは、惑星の開拓が進んだら他の惑星を目指したりするのか?」

「その方が楽しそうでしょ?

 宇宙は凄く広いのに生き物の住んでる星はとっても少ない、将来に向けて人が住める惑星を増やして行くけど、人の住まない惑星に色々な生態系を造って行くのも面白いと思わない?」

「ええ、興味深いわね、カメラを設置して城で見られる様にしてくれるの?」

「勿論さ、条件の異なる惑星で生物がどんな進化をして行くのかを観察、マリアさまは大賛成してくれたよ。」

「マリアさまは傍観者と話してたそうだけど、城の子は違うのよね。」

「えっとね、試みる存在、人類も色々試して来たけど地球から広がることなく終わってやり直しでしょ。

 僕らは、マリアさまが眺めていて楽しくなる様な、多様な生態系を地球に存在した生物から創り出すと共に、僕ら自身のことを考えて行く。

 でもね、答えは無いんだ。

 どんなに失敗したと思っても、それは、そう思った人の価値観でしかないでしょ。」

「ええ、でも、人類移住の成功を共に祝える価値観は共有していたいわね。」

「うん、どうせなら楽しい未来の方が良いよ。」

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