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キング  作者: かめ屋吉兵衛
孤児
40/50

十 世界

 夢たちが一年生になる頃、私達の世界は六十七の単独居住コロニーと八つの国の保護を終えていた。

 新たに我々の社会と繋がった人達は、城の子達から共通語を教えられながら、彼らの過去を城の子に語ったりしている。

 ただ、その話は私達の記憶同様、断片的過ぎて、そこから全体像を掴む事は出来ない。

 私達が暮らしていた世界がどうなったのか、今も気にはなっているのだが。

 自分達の記憶プロテクトが外れた頃、マリアに尋ねた事が有るがその時は教えて貰えなかった。

 そのまま再度問いかける事を控えていたのだが、翔が…。


「マリアさま、大人達が暮らしていたという世界はどうなったのですか?」

『子ども達、そしてキング、この世界の人達はその答えを知るべき時が来ました。

 今から話す事は…、そうですね、翔、テレビを通してで構いませんから、この世界の人達に伝えてくれますか?』

「はい。」


 知るべき時、マリアはタイミングを考えていたのだろうか。

 マリアは翔の質問に対し、質問以上の事を話してくれた。

 マリア達は傍観者として、私達が地球と呼ぶ惑星に生命の欠片が誕生した頃から観察して来たこと。

 そして、気が遠くなりそうな年月を経て、人類が文明社会を築き上げ、自らの手で滅びの時を迎えたと。

 今の地球には過酷過ぎる環境でも生き続けられる微小な生命しか残っていないという。

 核シェルターで生き延びた人もいたが、彼らの住環境は快適と言えなかったそうで…。

 人類の指導者は終末戦争という、あまりにも馬鹿げた事を実行に移した。

 いや、地球を破壊する兵器は指導者の手を離れていたのかも知れない、頭の悪い指導者の裏をかく事の出来る、頭のおかしな科学者がいたとしても不思議ではない。

 情報を遮断し混乱させ…。

 マリアの話を信じるのなら、我々の母なる地球は…。

 孤児…、そんな言葉が頭をよぎる。


『私達は傍観者であり、人間が絶滅しようと構わなかったのですが、実験をしてみたいという話が出ました。

 消えて無くなる種族なら、私達の…、あなた方の言葉で言う所の暇つぶしにしても構わないだろうと。

 それが、我々の箱舟プロジェクトなのです。』

「箱舟?」

『どうしてその名が付いたのかはキングが知っているでしょう。』

「ああ、教えてくれた事は我々が予測していた範囲、子ども達には私達の役割を含めて話すよ。

 それで…、マリア、地球がそういう状態になってしまったという事は、我々が今暮らしているのは、違う星と言う事なのか?」

『いや、キング達の言葉で言うならば、巨大な宇宙船だ。』

「そうか、ゲートの存在から、その可能性も考えてはいたが…、では、どこかに目的地が有るのか?」

『ある惑星を目的地としている。』

「我々はそこへ移住するということに?」

『そうとも言えるし、そうでは無いとも、子ども達には選択肢が有る。

 この世界には大きく三つの種族が存在していることは理解しているだろうか?』

「それは…、城の子とそれ以外と言う様な意味でか?」

『ええ、私の大好きな城の子、この子達を産み育ててくれた城のコロニーメンバーには感謝している。

 そして、キング、あなた達は偶然が重なって誕生した八人だけの種族、その子である城の子という種族は大きな可能性を秘めている。

 おろかな人間の血だけを引き継ぐ種族、彼等には新たな惑星を与えるというのが私達の計画。

 彼等は、類として成長するだろうが、やはり自らの手で滅びの道を選ぶのかどうかを、私達は観察して行く事になる。

 城の子には選択肢が有る、その惑星に留まるも良し、新たな惑星を開拓するも良し、人間を降ろした後のこの宇宙船団は、子ども達が自由に使えば良い。

 ただ、人間達に住まわせる惑星は、城の子の手で環境を整える必要が有る。』

「人が住めない様な惑星なのか?」

『今はそうでも、地球を再生するよりは遥かに簡単に改造出来る、城の子の力が有れば。』

「そうか…、マリアは私達以外の世界について少し話してくれたが、彼らも同様に惑星を目指しているのか?」

『当初はその様にプログラムが組まれていたが、幾つかはすでに廃棄した、残っている船団も我々が惑星を改造しても無駄になりそうで、この船団だけが新たな大地を踏みしめる可能性が高い。』

「その…、廃棄された船団を我々の保護下にすることは出来なかったのか?」

『距離的な問題が有る、遠く離れるまではここから食料支援をしていたが、すでにそれもかなわないほど距離が離れた、我々の技術をもってしても限界は有る。』

「この世界の安定に対して私達は大した努力をしたとは考えていないのだが…、人選には実験的な偏りがあったのだろうか?」

『いや、船団間の相違は僅かな物だ。

 ただ、国を繋ぎ始めた段階で、和の国の様な突出した存在は生まれなかった。

 我々は、この世界の国々が和の国に対してもっと攻撃的になると考えていたのだが、予想に反し和の国を中心にまとまった。

 他のコロニー船団では、他より優位に立ちたいと考える複数の国家間で折り合いが付かず、国家間の協力体制を築き上げる事が出来ないまま非効率な生産体制を維持するのが精一杯、そんな状態でも如何にして他国を出し抜くかを考える様な普通の人間達だった。』

「私達は、マリア達のテクノロジーで守られて来たから効率の良い生産体制を構築出来たと考えているのだが。」

『他の世界も初期段階は同じ、同じ様な条件からスタートした。

 八人の単独居住コロニーは沢山作られたが、キングを中心とした八人のグループほど、奇跡的なことを成し遂げるまでに成長したコロニーは無い。』

「それはマリアの力なのだろ?」

『同様の事を、スコットランドやコペンハーゲンでも行って来たが、彼らの子は普通の人間に過ぎない。』

「そうか…。」

『子ども達、あなた達の親もまた、特別な存在だということを忘れないで下さい。

 そして、これからのことですが…。』


 マリアはこれから先の計画を子ども達に説明した。

 この世界の住人、おそらく人類として生き残る最後の集団の移住先について。

 その移住までのプロセスについて。

 多くの人を保護して来た城の子に新たな課題が与えられたが、子ども達の目は輝いている。

 それが新たな使命に対してなのか、新たな遊びを与えられてなのかは、問わないでおこう。

 子ども達を交えての時間が終わった後、私はマリアと…。


「なあ、マリア、私達の事を高く評価してくれた事は嬉しいが、我々と他国の指導者との違いが今一つ理解出来ない。」

『子ども達には話さなかったが、我々の箱舟プロジェクトには多くの意思、意識が関わっている。

 だが、その誰にも分からない事が起きた。

 この世界の者達がしばしば語る所の、神という存在がなした事かも知れないと言い出す者がいるぐらいの謎だ。』

「マリア達が神ではないのか?」

『違う、我々は傍観者に過ぎない。

 今回は研究と称して暇つぶし的な事に取り組みはしているが。

 キングは、我々が意図的にブラックコロニーと呼ばれている存在を、国の要素として入れた事は理解しているだろうか?』

「そうだな、貴重な存在、集団の中に弱者がいることで集団はより強固なものになる。

 私達も始めは戸惑い、上手く導くことが出来ず、二名の死者を出してしまったことは残念に思っているのだが。」

『その考え方をする者は他の箱舟にはほとんどいなかった、この世界のリーダー達も城の住人と出会っていなかったら保護の対象とは考えもせず、厄介者、だが、罰が怖くて殺す事も出来ない存在だと捉えていただろう。

 彼らの信仰心は観察していて面白い、言ってる事とやってる事が異なっていても平気だ。

 だが、信仰心をあまり持ち合わせていないと言う城の者達は、強い思いやりの心を持ち、弱者の為にも力を合わせて取り組んだ。

 破棄した国が、社会的弱者の排除方法に頭を巡らせている頃にだ。

 それが理由なのかどうかは分からないが、我々は未知なる意思の存在を感じている。』

「それは…、マリア達とは違う存在がいるという事なのか?」

『この広い宇宙に、意志有る存在、文明を築き上げた生命体は極めて少ない。

 だが我々と同様に、人類の滅亡を見ていた存在が、我々とは違う力を使った可能性が有る。

 これは我々にとって重大な出来事だ。』

「そうか…、マリア達とは違う意思の存在には私も興味が有る、良かったら教えてくれないか?」

『そうだな、キングが大きく関係しているので、何か気付いた事が有ったら指摘して欲しい。

 私にとってのキングは、当初、ただの観察対象、研究材料の一人でしかなかった。』

「だろうな。」

『だが、私は何故か計画に全くなかった城の建造に多くの労力を費やした、そして海を含む広大な面積を、ただの実験体で有る筈のキングに言われるがままに用意した、何の疑いもなく。

 地球に近い頃で転送が楽だったとは言えおかしな事、それを私自身が指摘されるまで気付かなかったと言うのはもっとおかしな事。

 あの時点で、そこまで試験体に差を付ける予定は全く無かった。』

「えっ、海は…、広い窓から海が見渡せる部屋が理想、とか話した瞬間に現れたと記憶しているが。」

『普通では絶対やらない事を無意識の内に行っていた。

 だが、城も海も、コロニーが発展し和の国がこの世界の中心となって行く過程で、とても重要な役割を果たしたと思わないか?』

「ああ、だからマリアには感謝しているよ。」

『私のしたことは我々にとっても私にとっても完全にイレギュラーな事だったとしたら、キングはどう思う?

 私が私の意識に全く無かった城と海を作った事、それが箱舟プロジェクト最大の謎だと我々は捉えているのだ。』

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