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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
4/50

四 共同生活

 八人での共同生活は、この島での仕事を全員に教える事から始まった。

 七人の自給自足生活は野菜だけだったとの事で、まずは鶏の飼育について。

 と言っても、鶏は放し飼いで特別難しい事はなく、慣れないと大変なのは鶏肉にする作業。

 そちらは私が担当するつもりだ。


「キング、鶏は随分多いのね。」

「一花もそう思うか。」

「えっ?」

「さっき気付いたのだが、八人が卵や鶏肉を食べて行くには不足しない数だと思うんだ。」

「さりげなくこうなる事を見越して管理されてたとか?」

「どこまでが管理なのか分からない、鶏の数だって偶然かもしれない。

 うちはマリアさまだが、一花の所は何て名乗った?」

「バラモンよ、男らしくて良い声の持ち主。」

「管理者に共通するのは声が良いって事みたいね、うちの草薙も口調はともかく声は良かったわ。」

「八重は、声でこちらの心を落ち着かせていたと思うか?」

「あっ、そうかも、こんなとんでもない状況下、今日までパニックにならずに暮らしてこられたのは草薙の声のお陰かもしれないわね。」

「まだ感謝の対象なのか恨む対象なのか分からないぞ、なんせ俺達は試験体なのだからな。」

「だな、キング、畑の方は随分色んな種類の野菜を育てているんだね。

自分が育てていた野菜は、こちらに転送する必要は無いと言われたが納得したよ。」

「野菜も八人に増えたからと言って全く問題はなさそうだ、でも食べたい野菜の希望が有ったら言ってくれ。」

「それより早くボートに乗りたいな。」

「三之助、遊びじゃないんだぞ。」

「なあ、三之助のままで良いのか? 可愛い女の子に三之助とは呼びづらいから変えても良いんじゃないのか。」

「はは、そうね、呼び方聞かれた時はこんな日が来るとは思ってなかったから。」

「俺達には何て呼んで欲しい?」

「う~ん、分かんない、ずっと三之助と呼ばれてたから。」

「まあ本人がそれで良いのなら構わないじゃないか。」

「三之助だけじゃなく、変えたくなったら何時でも変えて良いとは思うが、安易に決めた自分のセブンでも愛着が有るというか。」

「そうなのか、私はキングでなくても王様、殿様、大将、など適当に呼んでくれて構わないのだが。」

「はは、偉そうなのばっかだ。」

「ははは。」


 その後、共同生活を始めるに当たっての役割分担を決める事に。

 それと共に、私はペアを形成しようと考えた。

 四人の女性に対して特別な感情はなかった、ただ、このグループを平和的に維持して行くには四つのカップルにすべきだと思ったのだ。


「私は麗子と組んで食事を担当しようと思うがどうだろう。」

「良いわよ料理は得意だから。」

「やっぱり男女のペアにするのか?」

「ああ、別に結婚する訳ではない、性格が合わなかったら別の人と組んだり単独でも良い、でも今はお互いの事を知らなさ過ぎる。」

「自分の事さえ知らないわよ。」

「じゃあ俺達は適当に組むか?」

「役割は分担するが、手の空いてる時は協力し合おうな。」

「そうね。」


 話し合いの結果、漁は三郎と三之助、鶏の世話はセブンと一花、畑はロックと八重になった。

 その後しばらくは何の争いもなく、だが若い男女が共同生活している割には恋愛系の雰囲気もなく、リーダーとしては楽なのだが何か違和感を感じる。

麗子と初めて会った時に感じた違和感もそのままだ。

 だが、共同生活が二か月ほど経過した頃から変化が有り…。


「麗子、最近不安そうな顔をするけど大丈夫か?」

「キング、今頃になって自分の置かれている状況を考えてしまって、記憶は抜け落ちたままでしょ。」

「君だけじゃない、皆、時折不安そうな顔をする、管理者の影響が弱まっているのではないだろうか。」

「キングは今もマリアと会話してるの?」

「回数は随分減ったがね。」

「他の七人はここでの生活を始めてから一切コンタクトが取れなくなったのよね、どう、回数が減って何か変わった?」

「ああ、忘れていた何か、でも自分の記憶というより人間の本質的部分に変化をもたらしている気がする。」

「何となく分かるわ、ねえキング、ぎゅってしてくれないかしら。」


 彼女は柔らかだった。


 麗子はとてつもなく魅力的だと最近になって気付いた。

 どうして、こんなにも素敵な女性だと言う事を初めから認識出来なかったのだろうと思うが、それこそが、麗子と初めて会った時から感じていた違和感だったのだ。

 マリア達管理者の影響が弱まり本能が静かによみがえって来た私達には、不安な気持ちを共有する者が必要だったのかもしれない。

 結局、役割分担とともに作られた四組のペアは正解、偶然だったのか必然だったのは分からないが。

 自然な形でカップルが成立した事により、食事時の話題にも変化が…。


「やはり、我々の役目は子孫を残す事じゃないのかな。」

「そうだなロック、管理者の考えは分からないが、人としての本能に従うのならそういう事になる。」

「でも、産婦人科もないし。」

「いや、ここへ来てから誰か体調を崩したこと有るか。」

「至って健康ね。」

「健康も管理されているのかな。」

「なあ、出産や子育てのマニュアルもデータベースに入れて貰えるかもしれない、我々の手でも自然分娩なら可能じゃないのか。」

「確かに大変な事とはいえ動物にとっての出産は自分で出来る筈の事よね。」

「う~ん、もしそうなったら…。」

「服はここへ来る時に持って来た物だけ、子どもの服とかは…、ねえキング、最近マリアに出して貰ったのは何?」

「ここの所はない、一括で出して貰った蓄えで問題なく済んでいるからな。」

「子どもの服をお願いしたら出してくれるのかしら?」

「今度、相談してみるよ、ただ、マリアはここになるべく干渉したくないと話していた。」

「自給自足が理想なんだろうな。」

「服を手に入れようと思ったら糸から生産しなくちゃいけないって事ね。」

「食料は問題ないか、なあキング、消費する以上に生産されているけど残ったのは捨てているのか?」

「いや、マリアがどこかへ、多分転送している。」

「何処かの誰かの食料になっているのかな。」

「なあ、もしもだけどさ。」

「三郎、どうした。」

「子どもが出来てその子達がまた子を産んでとなったら、今は充分過ぎるこの島も手狭になるのじゃないか。」

「その時にマリアが土地を広げてくれるのかどうかという事か、随分先の話だな。」

「でも子や孫の心配をするのは私達の役目よね。」

「色々マリアに相談する事が出来てしまったな。」


 残念ながらマリアはほとんど答えてくれなかった。

 代わりに、次の段階に進む準備を始めると告げられ、幾つかの指示を受けた。

 それを皆に伝えるのが私の役目だ。


「マリアは次の段階へ進むに当たって生産量を上げる様に指示して来た。」

「必要以上にという事は、私達以外の人と交易とかするのかしら。」

「可能であれば、牛や豚の飼育、綿花などの生産、今有る森以上に植林する事を打診された。

 これだけの提案をされたのは初めてだ。」

「マリアの態度にも変化有り、いよいよ本格的に自給自足を目指せという事なのね。」

「植林と言っても大した本数は植えられないよな。」

「きちんと管理する気持ちが有るのなら、この国は平和的に領土を広げる事になる。」

「でも、この人数でどれだけの事が出来るのかしら。」

「データベースにアクセスして調べるしかないと思うが、まず一人がどの程度働くのかという前提が必要だと思う。」

「そうか、それを元に…、だが、もし出産となったら人手は減るよな。」

「その時は生産量を減らせば良いんじゃないのかな、充分な生産量の有る状況で生産量を上げて行くのだから。」

「そうか、生産調整も考えて置くか。」


 調べ始めて大きな盲点に気付いた。

 牛の飼育だ、飼った事はないから大変だろうと決めつけていた、否、多分大変なんだろうと思う。

しかし広大な放牧地をマリアに出して貰えばどうだ、ここは気候が良い、放牧を基本とすれば大した手間はかからない。

 乳搾りは慣れないと大変だろう、ましてや食肉にする作業は…。

 だが、それは時間を掛けて習得して行けば良い。

 そして…。


 広大な放牧地が牧草で覆われる頃、マリアは数頭の牛を何処からか転送してくれた。

 新たな挑戦に八人は力を合わせる。

 初めての道具を使っての初めての作業、戸惑いも失敗も有ったがマリアが用意してくれた素敵な道具に助けられ私達は仕事を楽しんだ。

 仲間と共に汗する喜び。

 いつしか皆の表情も明るくなり充実した日々を送る。


 生産量が増え、子牛の誕生に感動といった頃、マリアから久しぶりの呼びかけが有った。

四組のカップル


キングと麗子

三郎と三之助

セブンと一花

ロックと八重


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