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キング  作者: かめ屋吉兵衛
孤児
38/50

八 希望の島

 第三コロニーを予定外の手順で保護したことから、ファーストコンタクト以降の流れを大きく見直すことに。

 今後もファーストコンタクト時の反応が第三コロニーと同じで有れば、即席パーティーを開き、どさくさに紛れて馴染んで貰うというスタイルを取ることは悪くないと判断。

 モニター越しの交流より遥かに効率が良いからだ。

 ただ、ここでポイントになるのは、記憶のプロテクト解除。

 私達は保護される側のストレスを考えた上で、事前情報のないままに突然プロテクト解除が始まる事は避けるべきだと考えて来た。

 ただ、尊の判断でその過程を飛ばした第三コロニーの女性達を見ていると、今まで気にし過ぎていたのかも知れないと思う。

 英語を耳にすることにより、プロテクトを一気に解除してしまうという絶対避けるべきと考えていた事でさえ、例え激しい頭痛を伴い大きな苦痛を受けたとしても、見方を変えれば短時間で落ち着くというメリットが有る。

 尊は、事前情報のないまま酷い状態を体験させてしまったカタリナが、どう感じたのか気に掛けていた。


「カタリナ、僕の判断で辛い思いをさせてしまってごめんね。」

「いいえ、尊、確かにいきなり頭が激しく割れそうになり、私は大きな罰を受けているのだと感じました。

 そこで蘇った記憶が示す過去は地獄。

 また、四人だけの生活も社会から見放された孤児の様で辛い状態でした。

 でも今は…、ねえ尊、私、本当は死んでいて天国にいるのでしょ。

 この世界の食事はとても美味しく、この世のものとは思えないわ。」

「う~ん、僕は天国という所へ行ったことがないからね。」

「ふふ、天国で暮らしている方にとって、ここでの生活は当たり前なのですね。」

「良く分からないです、でね、カタリナは僕たちのチームが取り組んでいる事は教えて貰ったのでしょ。」

「はい、神に見捨てられた人達がまだいるのですね。

 それを救うのが尊の役割なら、私はそのお手伝いをさせて下さい。」

「有難う、是非お願いします、カタリナが手伝ってくれたらとても心強いです。

 それで…、僕らが英語を使わなかったら、カタリナも他の二人の様に…、その…、大きな試練を受けずに済んだのですが…。」

「お気になさらないで、大きな罰を頂いた事で…、そうね…、過去を吹っ切れたというか…。

 今は色々教えて頂いて、私はもう一度やり直せるという気持ちになりました。

 あの時、英語で話し掛けてくれなかったら、それはそれで別の不安が芽生えたと思うのです。

 モニターで皆さんの姿を見せて頂いた時は、あの子に可愛らしいお友達が出来るかもと興奮気味でしたが、英語で話し掛けて貰って更に、モニターでは始め共通語だったので何を話しているのか分からなかったのですから。」

「そうですか、明日は第二コロニーと対面、近い内に第四コロニーとのファーストコンタクトを予定しています。

 カタリナも同席して、気付いた事があれば教えて欲しいのですがお願いできますか?」

「勿論です。」


 カタリナは名家の出身、英語が堪能なだけでなく理知的な人、苦しい試練を乗り越えた後は、すぐに二人の仲間の為、通訳をし手助けをしていた。

 落ち着いてからは、この世界の事を学んでくれている。


 カタリナと共に臨んだ、第二コロニーとの対面は第一コロニーの時と同様スムーズに、今回は試しに、英語で話し掛けたりドイツ語などで話し掛けたりもしてみたが通じなかった。

 それでも、共通語を覚える意欲の強い人ばかり、不安定な精神状態を押し殺す為にも必死で共通語を覚えようとしている様にも感じられる。

 ファーストコンタクト以降、ゲートの行き来を楽しんでいた子ども達とも共通語の練習をしていて、時に子どもから教えられる事が楽しいと片言の共通語で話してくれた。


 次は第四コロニー。


「第四コロニーで話されているのがスペイン語だって分かったのはラッキーだったね。」

「テレビの試験放送で第四コロニーの映像を使ったのは正解だったわ。

 試験放送を見て指摘してくれたスオミの人はどう?」

「協力を要請したら快く引き受けてくれたよ。

 今回は共通語を教える前に一気に説明できて、文字通り話が早くなりそうだな。」

「でも、セブンおじさんの心配はどうかしら?」

「私達がこの世界の人達のことをマリアさまの隠しカメラを通して監視している事に気付かれる可能性が有るのよね。

 今の所、それに関しては何の反応もないけど。」

「僕はそんなに心配していない、プロテクトを掛ける様な事にはならないと思うよ。」


 一早くその可能性に気付き指摘して来たのはコロニーDの連中、自分達も監視されていたのではないかと。

 それに対して、心配していないと話した尊が対応、マリアから特別にコロニーDを見張る様指示が有ったと回答した。

 それは真実ではない、だが尊は必要な嘘ということを、すでに学びつつある。

 今回は城の住人以外に知る由の無い事であり、問題ないと考えての判断、でも事前に話してくれ、私はその判断を支持した。

 マリアを持ち出されたらコロニーDの連中は何も言えない、負い目も有る。

 更に尊から、マリアさまは何時もあなた方を見守って下さっていると言われては…。

 他の人達が気付いたのかどうかは分からないが、マリアさまに見守られているとの考え方は城の子が子ども達に広め、そこから大人達へも。

 監視の可能性を問題視する以前に、この世界で悪事を企てる人は見当たらず、監視されていたとしても平気なのではないかとも思う。

 尊はそう言ったことを総合的に考え、保護して行く単独居住コロニー映像のテレビ放送を進めていた。

 第四コロニーとのファーストコンタクトは、その予想していなかった成果のお蔭で…。


「もう、対面なのね、第一、第二コロニーの時には随分時間が掛かったのに…、言葉が通じる意味の大きさを改めて実感させられるわね。」

「スオミからの応援者も張り切っていたからな、自分のスペイン語が役に立って嬉しいと話していたよ。」

「改めての自己紹介が済んだみたいだな。」

「今回は男性一名女性三名と男の子が二名なのね、尊と巴は説明をスオミの人に任せ、自分達は見守っているというスタンスだけど、向こうの人達は、どう感じているのでしょう。」

「今は、プロテクトが外れ始めてるだろうし、彼の話に夢中なのでは、指示が有れば翔がモニター映像を切り替えて行く事になっているが、誰もモニターを見ていないからな。」

「子どもは、三歳と五歳ぐらいかしら、香は共通語で話しかけてるけど、何となく理解してるみたいね。」

「ふふ、香はお菓子の魔法を使って共通語を教えると話してたけど、あの子は根気良く教えるのよ。」

「相手の子達の笑顔からすると、彼らはもう香に心を奪われている様だな。」


 しばらくしてお茶の時間、そして食事。

 食事に関して、麗子は、かつてスペイン語を話していた国を幾つか想定しメニューを用意していた。

 それが正解だったようで、彼らの胃袋を掴む事に成功。

 第四コロニーの人達も大きな問題なく我々の仲間となって行く。


 当初、単独居住コロニーの保護は、その数の多さも有り大変な作業だと考えていた。

 実際にそのスタート時は、試行錯誤の連続だったと言える。

 だが、第七コロニーとファーストコンタクトを取る頃には、思っていた程では無いと感じる様に。

 城の子達もだ。

 どのコロニーも、少人数で先の見えない生活を送っていた所へ、可愛らしい城の子と頼れる大人が現れた訳で、それは記憶のプロテクトが外れる戸惑いや苦しさを遥かに超える喜びとなった。

 また、大人の人数が少なくなっていたコロニーは、暴力的とか問題の有った人がすでにいなくなっていた訳で。

 残ったのは互いに支え合い励まし合って生きて来た人達。

 彼らはプロテクト解除に伴う諸々のマイナス要素が、新たな出会いの喜びにかき消されたと話す。

 それだけに保護された人は次に保護される人達の事を思い協力的。

 保護のペースを上げても問題はなかった。

 保護したコロニーは住環境を改善し希望の島に接続。

 そこで共通語に慣れつつ、世界各地を訪問、時に作業を手伝いながら交流を深めて行くが、テレビで紹介していることも有り馴染むのは早い。

 何と言っても少人数で暮らして来た人達にとって、慣れない言語を使ってでも多くの人達と語らう事は新鮮な喜びだ。

 この訪問によって、これまであまり共通語学習に熱心ではなかった人達が刺激を受け、共通語を使う人が増えた事も国際交流を進める事に繋がり良かったと思う。

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