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キング  作者: かめ屋吉兵衛
孤児
35/50

五 希望

 言葉の通じない相手に、記憶が蘇る過程をどう説明するか、翔は、その答えとしてショートドラマ仕立ての映像作品を即席で用意することにした。

 台本は大人達が経験を元に書き、演技は各国の有志による。

 過去のシーンは絵描きが協力してくれた。

 言語は相手にとって耳慣れない共通語、言葉で伝わらないというハンディが有るが、そこは俳優達の熱演でカバー。

 とは言え、今回は時間を掛けられなかったので、このチームは次回以降のコンタクトを意識し、すでに次の作品に取り掛かっている。


「なぜショートドラマを見せたのか分かってくれれば良いけど、愛、どうだろう。」

「翔、ただの娯楽番組を見せられているとは普通考えないわよ。

 それよりモニター越しでない生の巴に向こうの大人達がどう反応するかに興味が有るわ、香が子ども達を引き付ける力の強さは、もう疑いようが無いけど、大人は事情が違うと思うの。

 この世界では私達が特別な存在だと知られている、でも彼等はそれを知らない、その状況で巴にどんな態度をとるのかによって、今後の作業が違って来ると思うわ。」

「確かにそうだな、巴は尊の様に表立った仕事をあまりして無いにも関わらず、大人達の間で人気が…、可愛さでは愛と大差ないと思うのだけどな。」

「ふふ、有難う。

 あらっ、尊からだわ。」

『愛、翔、予定通りに行くよ、訪問の最終調整に入って貰えるか。』

「分かった、リハーサルは何度もして有る、ゲートの部屋まですぐ行くよ。」


 単独居住コロニーの大人達との対面はファーストコンタクトから四日目に。

 決断を下したのは尊、皆がそれに従う。

 向こうのモニターで城の子達の様子を流し、それを見る大人達の表情から三之助も大丈夫だと判断した。

 ミッションのスタートにあたり…。


「向こうへは、僕と巴、必要ないと思いますが心配する人がいますので護衛役として六人の方にお願いしました。」

「相手方の大人は八人だが大丈夫なのか?」

「多過ぎると警戒されてしまうでしょう。

 見掛けは小柄な女性達ですが武術同好会のメンバーです。

 今も彼らは僕らの様子をモニターで見ていますから、八人がゲートを越える事を理解してくれていると思います。」

「巴は大丈夫なのか。」

「はい、お兄さまと一緒ですから。」

「尊、我々大人の役割は?」

「元々問題の少ないコロニーです、今回は見守っていて下さるだけで充分です。」


 コロニーを訪問する準備は整った。

 作戦開始の時は世界中の人が注目している。

 コンタクトの様子は翔が撮影し編集、テレビの試験放送として配信して来た。

 今はライブ放送中。

 ライブ映像は直接係わらない者にとって、良い娯楽になるのだろうが、映像を通してこれから仲間が増えて行くと実感して欲しいものだ。

 麗子は不安を隠さなかったが、それでも子ども達を見送る。

 城の大人達は非常時に備え待機しつつ子ども達を見守る。


「護衛、しっかり頼むな。」

「はいキング、任せて下さい。」

「静子さんは小柄で可愛らしいから、相手に余計なプレッシャーを与えないと思っています。」

「はは、尊さまったら。」

「おい、静子、浮かれるなよ。」

「分かってるわよ、相手にプレッシャーを与え過ぎそうな親衛隊長の出番が無いように気を付けるわ。」

「映像で常に確認しているが、いざという時は先頭で入る静子に掛かっているからな。」

「そんなに心配しなくて大丈夫だよ、じゃあ皆行くよ。」

「尊さま! 私の後ろに!」


 先頭に静子、尊と巴、後ろに五人の護衛を従えゲートを越える。

 尊達、その訪問の瞬間は、全く予想していない展開となった。

 彼等は尊と巴を跪いて迎え入れたのだ。


「これは驚いたな、翔の映像効果か、麗子の食事が効いたのか、何にしても上手く行きそうだな、翔。」

「はい、僕らが観察してる中でも危険は感じませんでしたが、こうなるとは思っていなかったです。」

「手土産も押し戴くという感じね。」

「この形でスムーズにコミュニケーションは取れるのかな。」

「彼等は身振りを交えながら共通語に挑戦していますね。」

「記憶の蘇りは静子さんと対面してスイッチが入り数分後に始まるという予定だったでしょ。」

「その筈だが、未だに冷静だな。」

「彼らは輪を作って話し始めた、愛、何を話してるのか分かるか?」

「だめです、初めて聞く単語が多過ぎて。」

「尊達はにこにこしながら聞いているが。」

「たぶん分かって無いと思います、でも巴たちがいるだけで心が軽くなるのかな。」

「泣き始めた人がいますね。」

「それでも表情が穏やかに感じる。」

「尊が端末に手を伸ばしたぞ。」

『愛、お茶を頼めるかな。』

「ええ、すぐに用意するわ。」

『香、大丈夫の様だから子どもと遊ぶ用意をしてくれるか。』

「はい、誠たちとそちらへ行きます。」

『翔、予定より早いがテレビ電話を設置したいと思う。』

「ああ、すぐ持ってくよ。」

「キング、この状況はどういう事でしょう?」

「親衛隊隊長、彼等はコロニーでの生活に苦労していた、蘇りつつ有る過去の記憶も良いものだとは思えない、だが、翔の映像や実際に尊や巴と会い、彼等に希望が芽生えたとは考えられないか。」

「あっ、そういう事ですね。」

「その希望をさらに強く感じさせる為に、尊はテレビ電話を使うのだろう。」

「なるほど、ここの住人とは早く仲間に成れそうです。」

「ああ、そうして行かないと、先は長いからな。」


 その後は交代で食事を差し入れたり、テレビ電話の使い方を説明し、城の子達と少しの共通語と身振り手振りでの対話を試みたりしたが、そう言った交流が精神状態に良い影響を与えた様で、巴が戻った後も穏やかに進行した。

 蘇る記憶より、共通語を早く覚えたいという気持ちや、狭いコロニーでの先の見えない生活から解放される喜びの方が大きかったのかも知れない。

 今回の事で我々が保護して行く人達の気持ちが分かった気がする。

 子ども達も、これから出会う人達へ一刻も早く希望の光を届けたいと話してくれた。


 翌日以降は、和の国の大人も含め交代で訪問し、言葉を教えたり農作業を手伝ったり、レストランから届けられた食事を一緒に味わったりしながら、交流を深めて行く。


「なあキング、あのコロニーの人達に問題を感じないのだが、どうして単独のままだったのだろうな。」

「ああ、私も疑問に思いマリアに尋ねてみたよ。」

「マリアさまは何て?」

「彼らに問題が有ったのでは無く、繋がる筈のコロニーに問題が有ったのだとか。

 サンフランシスコ以外は同じ人種で国を構成しているだろ。」

「えっ、単に運の無かった人達なのか…。」

「だと思う、人間性は悪くないと感じられるし、学習能力が高いと感じられる。

 子どもが十二人いるのも…、正常に国家を形成出来ていたら、子ども二十人の国家という条件は簡単にクリアしていただろうな。

 この先保護して行くコロニーとはデータ上もかなりの差が有る。

 尊は、予想以上なので、これから保護して行くコロニーをまとめて行く時の中心になって貰いたいと、語学学習が進んだらお願いするつもりで、彼らの為にリーダークラスが持つ端末の製造を昇に指示していた。

 三之助も農作業より城の子をサポートして貰うことを考えて良いとね。」

「そうだな、保護される側の気持ちも分かるだろうし。

 大人達には次の保護作業を見て貰っても良いのではないか。」

「そうだな、尊にも伝えておくよ。」


 一つ目のコロニーとのコンタクトには成功したが修正の余地は有り、次の保護に向けて新たな仲間となってくれたら心強い、そう感じさせてくれる人達。

 城の子も…。


「翔、あの人達、共通語の理解が早いと思わないか?」

「ああ、必要性を強く感じてるのだろうけど、熱心なだけでなく能力の高さを感じさせてくれるよな。

 この言語は覚えやすいと話してくれて、僕らが作ってると伝えたら驚いていた。

 分かり易く、が成功したみたいで嬉しかったよ。」

「どうだろう、もしかして英語が話せるとは思わないか?」

「あっ、可能性は有る。

 もう試して良いかマリアさまに確認しよう。」


 尊がマリアに確認を取り英語で話しかけた所、彼らは驚いた表情をした。

 英語の事をすっかり忘れていたというが、二人にはアメリカ留学経験が有り一気に話が進む。

 他の六人は得意では無いものの有る程度理解出来る。

 それからは、こちらの事情を伝え彼らの事を教えて貰う。

 我々の事情を把握してくれた彼らは、是非尊たちのチームで働かせて欲しいと。

 そして、英語は楽だが、共通語は興味深くマスターしたいと話してくれた。

 英語の得意でない人達も、英語の学習をするより楽しいと笑いながら、子ども達と共に学んで行くと。

 次のコロニーとの接触は彼等への説明の為、少し遅らせる事にし、その分三つ目からはスピードアップする方向で相談を始めた。

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