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キング  作者: かめ屋吉兵衛
孤児
34/50

四 コンタクト

 これから保護し受け入れて行くコロニーの情報を城の子達と共にマリアから教えて貰い整理する。

 単独居住コロニーは大小様々で六十七、それぞれ大人は三名から八名、子どもは一名から十二名。

 一つの単独コロニーでさえ子どもを十二名儲ける事が出来たと考えると、八つのコロニーが集まっても子どもが二十名に満たないという国というのはやはり何かしらの問題が有るのだと思う。

 そんな国が八つ、大人の人数は三十名から五十名程度。

 先回の様な孤児を生み出す事態は何としても避けたいが、それぞれにどんな問題を抱えているのか分からず、我々にとって大きな試練と言える。

 作業を進めるにあたり、マリアは各コロニーの隠しカメラ映像を見られる様にしてくれた。

 その映像を元にコンタクトの優先順位を決める。


「子ども達の作ったスケジュールはどうだ?」

「妥当な所ね、映像からの判断で優先順位を決めたそうだけど、まずは二つの楽そうなコロニーで手順を確認してから、単独居住コロニーはキングと子ども達で。

 国の方は今までの経験を生かして私達が担当。

 子ども達の案では、サンフランシスコの時と同様、対面までに時間を掛けて準備し、対面時には見守る。

 サンフランシスコの様な特別な集められ方はしていないとは言え、どんな問題が有って国の発展に失敗したのか分からないのだから、子ども達が考えた通り慎重に取り組むべきでしょうね。」

「サンフランシスコを経験した私達だ、油断さえしなければ大丈夫だとは思うが、八回も続くのだからな。

 出来れば単独居住コロニー保護のフォローもしたいが、我々に出来るのは要所要所で見守るぐらいか。」

「翻訳機が使えないと、私達に出来る事は限られるものね、子ども達はすでに準備を進めているそうだけど任せるしかない…、でも、先回と違って大人相手でしょ、難しくないかしら?」

「あっ、キングからだ。」

『試験的に一つの単独コロニーとコンタクトを取ってみようと思う、来てくれるか?』

「分かった、すぐ行くよ。」


 城の十六人が集まった。


「今回の問題点は向こうに端末どころかテレビ電話さえ存在しないという事と言葉が通じないという事だ、愛と巴が映像から言語の解析を進めてくれてはいるが、相手は大人、先回の様には行かないと思う、そこで今回の作戦だ、尊から説明して貰う。」

「はい、今回一番重要になるのはファーストコンタクトです、向こうの大人がこちらの人と対面してしまうと記憶の蘇りが何の予備知識もないまま始まってしまいます、出来れば時間を掛けて準備したいのですが、時間を掛け過ぎていては残っているコロニーを長期間放置する事になってしまいます。

 今回は翔中心に作成して貰っている映像を見て貰う所から始めます。

 その第一段階として、まずゲートを置き、モニターを背中に括り付けたウサギを越えさせます。

 モニターでは共通語と身振り手振りで、こちらの情報を、この世界の映像と共に流して行きます。

 このゲートは子どもだけが行き来出来る設定にして始めます。

 そのことを、子どもが通れて大人は通れないという場面を撮影した映像で説明し、その反応を見ながら彼らがどの程度理解したかを判断して行きます。」

『尊、ゲートとウサギの準備は出来たよ。』

「おっけい、翔、こちらは隠しカメラ映像をモニターで確認して行くよ。」


 その映像では、まずコロニー内にゲートが出現。

 それに気付いた一人の大人が慌てた様子で他の人を呼びに行く。

 八人の大人が十二人の子どもを連れてゲート前に集合。

 まずは楽そうなコロニーで手順を検討したいと考え、このコロニーを選んだのは大人が八人揃っていて比較的落ち着いた感じだったから、死者が出ていないという事で少し安心感が有る。

 コロニーが広めなので、今後の作業拠点としての利用も視野に入れてのこと。

 向こうの人達がゲートについて話し合っている所へモニターを背負ったウサギがゲートから現れる。

 当然、驚いているが、無害なのは一目瞭然で近づいて来る。

 この役目をウサギにしたのは、犬が吠えたら子どもが怯える、猫が引掻いたら、機械仕掛けより生物の方が警戒されにくいとか考えてのこと。

 ウサギは逃げようとするが、モニターを背負っていては素早く動けない。

 そのモニターには城の子達が笑顔で手を振る映像が流されていて、こちらに敵意は無いと…、どうやら気付いて貰えた様だ。

 ウサギが食用になる可能性も考えてはいたが、取り敢えずペット的な扱いを受けている。

 それから大人達はモニター映像にくぎ付けとなり、その意味を考えている様だ。

 城の子は相手の反応に応じて、色々な映像を用意していたが、大人達が比較的落ち着いていると判断したのだろう、子どもだけがゲートを通れ、通るとお土産を持たされて帰されるという映像を選んだ。

 これには大人達が戸惑った様子を見せた。

 子どもを危険な目に合わせる訳には行かないと考えているのだろう。

 それも予定に入っていたので、次はゲートから、袋に入れたお菓子を投げ入れる。

 ここでモニターの映像はライブに切り替え、投げ入れたお菓子と同じ物を城の子が食べてる映像に。

 その意図を好意的に受け止めた一人がお菓子を拾い上げ口にする。

 麗子特製のクッキーを口にし、おそらく久しぶり、いやこのコロニーで暮らし始めて初めての味だろう、直ぐに他の人に勧める。

 恐る恐る口にした人の表情は、その美味しさを見事に表現していた。

 今度はぬいぐるみを投げ入れる。

 これには子どもが反応した。

 六歳ぐらいの男の子がゲートへ向かう、それを止めるかどうか、大人達が迷っている間に彼は好奇心のままゲートを越えてくれた。

 その彼のライブ映像を向こうのモニターに送り大人達を安心させる。

 香を見てにっこり笑う子の頭を撫でた香は、その子を抱きしめてから、おもちゃと果物を持たせ共通語でお母さんに上げて来て、と話した。

 言葉の意味は分からなくても、手振りから香の意図したことを理解出来た様で、直ぐさま自分のコロニーへ戻る。

 大人達はほっとした表情で果物を子どもから受け取る。

 次に映像を語学教育初級編に切り替え、共通語の文字と発音を絵や写真動画と組み合わせながら流した後、写真を使ったメニューを見せ昼食を選んで貰う。

 彼らは写真からカレーライスを選択した。

 そこからは、望が城の説明をしながらレストランに向かい厨房へと向かう映像、翔が撮影し向こうのモニターへ送っている。

 望は時折、指で指しながら椅子や机を共通語で発音して見せた。

 調理場ではカレーライスを望が味見した後、食器と共にゲートまでは誠が運ぶ。

 その間、望はずっと語学講師として、様々な物の名称を発音して行く。

 一連の流れを見せたので、ゲートから昇の自信作、歩くテーブルに乗せられて運び込まれたカレーは安心して食べてくれた。

 食べた後食器はそのまま歩くテーブルに乗せる様に絵を使って説明したが、彼らは洗いに行き、綺麗にして返してくれた。

 その後、こちらの情報を伝える映像を流し、また明日と絵を使って説明し今日のコンタクトを終える。


 その夜は四年生の四人と。


「尊、感触は良さそうだったな。」

「はい、カレーを美味しそうに食べ、食器を洗って返してくれましたからね。

 やはりお母さんの料理は僕ら最大の武器ですよ。」

「はは、胃袋を掴むのは外交の基礎になりそうだな。

 しかし、今日の様な過程を、これから六十六回繰り返すと言うのは大変だ、これで終わりでもなく、これから大変な作業が待っている訳で。」

「ですね、でも今日の映像を編集して次からのコロニーで使います。

 自分達と同じ様な境遇のコロニーと和の国のコンタクト風景を見せて行く事によって、理解が早まると思うのです。」

「それでも、大きな労力を必要とすると思うが、今日のコロニーとは明日からどう向き合って行くのだ?」

「昼食と食材を提供しつつ語学教育と、こちらの世界の紹介を続けますが、記憶のプロテクトに関する説明は難しくて。」

「そうだな…。」

「尊、あまり完璧を考えなくて良いと思うぞ、彼らを迎える時は英語禁止にするのだから、私達の時の様な苦しさはない代わりに、じわじわとプロテクトが外れて行く、その時に和の国の豊かさを実感して貰えれば、それが彼らにとっての希望になると思うよ。」

「そうね、多少の戸惑いと苦しさは避けて通れないこと、八人の大人に対し二十四人ぐらいの大人をフォローに付けることも可能だわ、子どもに対しては各国の子ども達も手伝ってくれるのでしょ。」

「はい、但し、こちらは状況を把握出来ますが、彼らにとっては全てが突然の出来事、突発的に想定外の事が起こりかねないと考えています。

 そんな時は父さんに頼るしかないのですが。」

「そうだな、私でも判断を誤るかも知れないが最善を尽くす、尊、のんびりしてる時間はない、今回は大胆に行こう、時間を掛け過ぎる方がリスクが高いと思うのだ。」

「そうでしたね、孤児を生み出したコロニーと同じ道をたどりそうなコロニーも有ります。

そこに対応するにはもう少し準備が必要ですが、より効率的な手法を考え、躊躇せず前に進んで行きたいです。」


 尊と話していると、成人した息子と話しているかの様な錯覚を覚える。

 かつての部下、その誰よりも頼りになる息子だ。

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