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キング  作者: かめ屋吉兵衛
孤児
32/50

二 緊急招集

 サンフランシスコの人達がすっかり世界の一員として溶け込んだ頃、ブラックコロニーの連中は作家集団としての実力を認められ始めた。

 尊がマリアと交渉、許可を得て自ら製造した八台のワープロ、彼らはそれを気に入り、今は作家活動を生業としている。

 その小説には古い作品からの盗作も有ったが、この世界に法は無く、禁ずる理由が浮かばなかったので黙認。

 我々は自前の製紙技術を持ち合わせていなかったが、城の子に甘いマリアは、彼女達のテクノロジーを使っての製紙と印刷を許し指導してくれた。

 製本はその技術を覚えていた人が担当してくれ、彼の指示で必要な道具をロック達が用意。

 大量に発行する必要は無いので手作業で充分間に合う。

 本が発行され始めると、人々はかつての娯楽を思い出し、テレビを懐かしむ様に。

 人々は城の子にテレビの事を話したが、その心中に城の子なら何とかしてくれるだろうとの思いが有ったのは間違いなく、娯楽としてだけで無く情報伝達の手段としての有効性を訴えていた。

 その結果…。

 

「翔、今度の工作は何なの?」

「動画撮影用のカメラだよ。」

「使い道は?」

「母さん、昔テレビってのが有ったのでしょ、そんなのを始めようと思うんだ、端末でも撮影出来るけど使える人が限られるから、誰でも撮影出来る様にね。」

「放送はテレビ電話のモニターを使うの?」

「始めの内はね、でもモニターは簡単だから専用のを作るよ。」

「マリアさまが許して下さったのね。」

「うん、台数は控えめだけど、尊がね、昔、自分達の力で作れていた物を目にする事で、テレビ製造を一つの目標に、それが技術開発に取り組む気持ちにプラスになるからと、尊はマリアさまの心を動かすのが得意なんだ。」

「ふふ、マリアさまは城の子に甘いものね。

 それで、どんな番組が見られるのかしら?」

「望が中心になって考えてる、簡単なのは音楽村の演奏だけど色々有った方が楽しいでしょ、データベースを構築して選べる録画番組と、こちらから定時に放送する情報番組になると思う。」

「それは楽しみだわ、ねえ、昇もちゃんとやってるの?」

「大丈夫だよ、昇は僕らの中で一番工作が得意なんだ。」

「へ~、あなたたちは皆同じぐらいに何でも出来ると思っていたけど、得意な事とか有るんだ、まあ性格が違うから当たり前なのかしら。」

「そうだね、もう直ぐ四年生の四人は何でも出来ちゃうタイプ、昇、香、誠、巴は得意な事が有る代わりに苦手な事も有るかな、でも苦手でもやれない訳じゃないんだ。」

「他の子達は何が得意なの?」

「香はちっちゃい子の相手、巴は大人の相手、誠はプログラム管理、香と巴は分かり易いから、ちょっと見て上げてよ。」

「分かったわ。」


 一花から話を聞いて私達は改めて子ども達の観察を始めた。


「香が近づくだけで、ぐずってた子がにこにこし始めるのか、尊達も小さい子の相手は得意だと思っていたがここまでではなかったな。」

「そう言えば、サンフランシスコの時も、香を子ども相手の中心にしてたわね。

 香は特に何もしてない様に見えたのだけど。」

「目じゃない?」

「そうか、アイコンタクトだけで…。」

「こっちのモニター見てみろよ、巴が城下町を歩いているが。」

「城の子を見かけると皆さん何時も嬉しそうだけど、ちょっとレベルが違うかな、ルックスだけなら城の子達はタイプが違っても皆可愛いのに。」

「これは能力なのか?」

「翔は、得意な事って言ってたけど。」

「これで大人になったらどうなるんだ?」

「楽しみな様な怖い様な。」

「神の子としてか…、平八なんか拝んでるぞ。」

「これはこれで平和だから良いだろう。」


 今まで子ども達は各国の人達と良好な関係を築いて来た、ただ、それを特殊な能力によるものとは考えていなかった。

 だが、城の子は神の子とも呼ばれ始め特別な存在になりつつある。


 そんな城の子達の中でも、この世界全ての子のトップリーダー的存在となっているのが尊。

 彼が四年生になって直ぐのある日、尊にしては珍しく私の部屋へ駆け込んで来た。

 日頃から私の立場や仕事に気を配り、落ち着いて行動する子なので、本当に珍しい事だ。


「父さん、子どもだけが五人残っている居住コロニーを和の国に接続して良いかな?」

「えっ、どんな状況なんだ?」

「第一世代が残っていないから僕らが導かなくてはいけないと、マリアさまから言われた。」

「そうか、ここに迎える事に何らかの問題を感じているか?」

「問題は向こうの子ども達が泣いていること以外には何も。」

「和の国成立以来、初めての形だという事は理解してるな。」

「もちろんさ、だから父さんの許しが必要だと思った。」

「接続に問題は無いが。」

「ほんとは時間を掛けて準備するべきだと思う、でも、マリアさまから見せられた映像からは…、気持ち良くないイメージが沢山流れて来る、それを僕たちは軽く出来ると思う。」

「分かった、城の住人を居住コロニーとの接続予定地点に集めて子ども達を出迎えよう、大人を迎えるのでなければ大きな問題はない、ただ大勢で取り囲んでは恐怖心を与えてしまうかも知れない、私は三之助に説明するから、尊は香に事情を説明してくれるか。」

「はい、全員への連絡は?」

「今、緊急招集をかけた、子ども達は初めてで戸惑ってるかもしれないからフォローしてくれ。」

「はい、場所は?」

「ひとまず城のホールにした、ゲートの位置は後で変えれば良いのだろ。」

「はい。」


 とりあえず急いだのは尊が気持ち良くないイメージと話したからだ。


「父さん、繋げる準備は出来たよ。」

「分かった、香は大丈夫か?」

「はい、尊から聞きました。」

「麗子がお菓子の用意をしに行ってるからな。

 まず尊と香が入って状況判断してから指示をくれ、ここにいる全員が尊の指示で動く。」

「分かりました、香、手を繋いで行こう。」


 二人がゲートを越える。


「翔は翻訳機の確認をしてくれるか。」

「はい、まだ言語は増えていません。」

「今まで出会った言語なのかな。」

「望、今までとは出会い方が違う、言葉が通じない事を想定して対策をとれないか?」

「はい、ぬいぐるみは用意してあります、愛は誠達とペットを取りに行っています。」


 尊から連絡が入る。


『三郎おじさん、すぐ来て! 怪我してる子がいるんだ!』

「怪我の程度はどうだ?」

『出血していて…。』

「分かった、すぐ行く。

 三之助、救急箱を取って来てくれ、私は取り敢えず止血しに行く。」

「分かったわ。」

「八重は、こちらでの受け入れ態勢を整えておいてくれるか。」

「ええ。

 尊、取り敢えず何が必要?」

『食事、お風呂と着替えが必要な事は間違いないです。』

「了解、ゲストルームで受け入れるから、直ぐでも大丈夫よ。」

「尊、クッキーと飲み物は暖かいのと冷たいのを用意したわ、巴に持たせるわね。

 食事は好みが分からないから何種類か用意しておくわ。」

『うん、母さんのなら何でも良いと思うよ。』

「尊、言葉は通じているのか?」

『父さん、全くだめです、聞いた事のない言語で、翔、別チャンネルで送るから分析してくれるか。』

「了解した。」

「子ども達の年齢は?」

『二歳から六歳ぐらいだと思います。』

「落ち着いているのか?」

『香の顔を見て、さっきまで泣いてた子が泣き止みました、今、巴からクッキーを受け取った所です。

 怪我してる子も大丈夫そうです。

 三郎おじさんの処置が終わったら、移動します。』


 しばらくして。


『父さん、もう少ししたら移動します。』

「そのコロニーの状況はどうだ?」

『怪我をした子のではないと思われる、沢山の血が残っています。

 コロニー内の状況から、絶望した大人が子どもと共に死のうと…、そういう考えに至る可能性は有りますか?』

「そうだな、有り得ない話ではない、何にしても心身のケアが必要だろう。

 こちらの受け入れは何時でも大丈夫だから、三郎と相談してくれ。」

『分かりました、五人の子達を一緒に連れて行きます…。

 あ~ん、よせって…。』

「どうした?」

『抱っこしてる子が、ほっぺを突いて来まして…。』

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