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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
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三 出会い

 私の自給自足生活は失敗する事も有ったが少しづつ形になって行った。

 始めは少し気負っていたが、漁と言っても一人で食べる量が獲れれば良く、農作物もまた似た様なものだと気付いた後は気が楽になった。

 それは、マリアが道具や調味料だけでなく、時々牛肉を出してくれることも有りと、かなり甘かったからでもある。

 自分で工夫したりマリアと相談したりしながらの自給自足生活は、自分にとって新鮮であり楽しい。


 鶏が新鮮な卵を私に提供しつつ数を増やし、チキンとなって食卓に彩りを添える頃…。


「キング、今日から第三段階に移行する。」

「お遊び程度の自給自足だが構わないのか?」

「問題ない、今日は別の試験体がここに来る。」

「おお、仲間と言う事か。」

「多分初めて出会う個体だろうから仲間かどうかは不明だ。」

「えっと、人間か?」

「そうだ、今日から日替わりでここに来る。」

「日替わり?」

「七つの個体だ。」

「その連中とは、何をしても良いのか?」

「問題ない、但し禁止事項は有る。」

「何だ?」

「殺すな。」

「はは、了解したよ、貴重な同胞だ、少々嫌な奴だったとしてもすぐに殺意を抱く事はないだろう。」

「そうなのか、本当ならば良いが。」

「あっ、相手に言葉は通じるのか?」

「同じ言語を使用する者だ。」

「それを聞いて安心した、言葉が通じないと誤解を招く恐れが有るからな。」

「しばらくしたら相手はここに現れる、しばし待て。」

「分かった。」


 他の試験体という事は、私と同じ様な体験をして来た者という事なのだろうか。

 今まで一人で暮らして来たが、声だけでもマリアがいたからか特に寂しさは感じて来なかった。

 だが、今、唐突に仲間が欲しいと感じ、そんな心境の変化を不思議に感じている自分がいた。


 城の庭で待つ事数分、目の前に突然現れたのは男性。

 見た目から判断するに私と同じぐらいの年齢なのだろうかと思いつつ、自分の年齢を知らない事に気付く。


「初めまして、ここではキングと名乗ってます。」

「よろしく、自分はセブンです。」

「やはり記憶は。」

「ええ、本名は思い出せません、ジーザスから、あなたは自分と同じ境遇だと教えられてここに…、転送と言えば良いのでしょうか。」

「そうか、私のはマリアだから管理者は一人ではないのだな。」

「それにしてもここは随分広いのですね。」

「ああ、マリアに頼んだら広くしてくれた。」

「自分も頼んだら少し広くして貰えたのですが、ここには遠く及びません。」

「最初に寿司とビールを出して貰えたので、その勢いで遠慮せずに頼んだ結果だ。」

「成程、自分は遠慮し過ぎたのかな。」

「ここを案内しましょうか?」

「是非お願いします。」


 案内しながら色々な話をした。

 セブンと名乗るのは試験体番号の末尾が7だったからという事、彼の部屋の様子、自分達の境遇についてなど。

 彼は城にも漁船にも驚いた様子。

 しばらく前に頼んだ部屋の模様替えすら断られたので、今から広く出来る可能性は低いだろうと落ち込んでいた。

 私は、今でも気軽に領土を拡大して貰っているので、明らかに彼と私とでは扱いが違う様だ。

 マリアとジーザス、管理者の違いによるのか、他に理由があるのか、勿論私には分からない。

 食事を共にし色々羨ましがられた所で時間切れ。

 彼は突然消えた。


 翌日登場したのは女性、若くて美人。

 ただ、美しい女性と対面して、自分の反応に違和感を覚える。

 具体的にどうとは言えないのだが、以前の自分はこんな時、違う何かを感じていた様な気が漠然とする。

 抜け落ちている記憶に関係する事なのだろうか。

 一瞬、そんなことが頭をよぎったが…。

 

「あら、なかなかの男前ね、麗子よ、よろしく。」

「こちらこそ、私はキングと名乗ってる、麗子というと試験体番号の末尾が0だったのか?」

「そうよ、あなたはどうしてキングにしたの?」

「どうせ知らない奴に呼ばれるのなら、呼ばれて気分の良い名称の方がましだと思ってね。」

「確かにそうね、私も女王様と呼ばせりゃ良かったかしら。」

「はは、そっち系の人?」

「全然平凡、と言っても何をしてたのかは覚えていないのだけど。」


 話を聞くと昨日のセブンとそんなに変わらない生活をして来た様だ。

 ただ、うちの食材を使い簡単に作ってくれた昼食には感動を覚えた。

 卵や鶏肉を使った料理は初めてだと言いながら、私の料理とは比べ物にならないぐらい美味しい。

 料理の知識、そういった記憶が残っているのだろう。

 彼女にはセブンの話もしたが。


「あなたは二人目なのに私はあなたが初めてで、明日以降の事は聞いてないの、キングは特別なのかしら。」

「さあな、でもまた会えると良いね。」

「ええ。」


 そして彼女も唐突に消えた。


 その後も日替わりで来客を迎え、結局男性三人と女性四人がこの島を訪れ、去って行った。

 七人とも暮らしぶりに大差はなかったみたいで一様に羨ましがられた、そして、誰もが私以外の人には会っていないという。

 マリアにどんな考えが有るのか不明だったが…。


「キング、殺したくなる相手はいたか?」

「いや、皆、そんな人ではない。」

「そうか、では共に暮らしたいと思うか。」

「ああ、マリアと二人も悪くないが、君は姿を見せてくれないからね。」

「ではその様にしよう。」


 翌日七人が唐突に現れた。

 彼らは互いに声を交わす、皆、私以外とは初対面だそうだ。

 広過ぎたダイニングルームが、八人でゆったりテーブルを囲むのに調度良かったのは偶然だと思う。

 だが今にして思えば、一人暮らしにしては随分贅沢なお願いをマリアにして来たものだ。

 お茶を用意し…、因みに一人暮らしなのに一ダース有る食器セットは私がデザインした物をマリアに作って貰った、城に相応しいアイテムとして。

お茶はTeaと呼べるレベルにするまで随分苦労したのだが、その苦労は彼らからの賛辞となって報われた。

お茶を飲みながら、マリアのメッセージを伝える。


「ここに住むのなら家を建てても良いし、この建物の部屋を増やしても良いそうだ、増やすまでもなく全員分の部屋は有るのだがね。」

「なあ、その部屋は城を建てる時点で必要なかったのだよな?」

「ああ、何となく城に拘っていたらマリアが快く作ってくれた、無駄な部屋と分かっていたのかどうかは謎だ。」

「そんなお願い、しようとも思わなかったわ。」

「この島に住みたいけど、住居に関してすぐに決めなくちゃいけないのかな。」

「いや、セブン、急ぐ必要はない、まだお互いの距離感も掴めて無いのだから。」

「私はキングの近くが良いかな、安心感有るし。」

「はは麗子、知り合って間がないのだから簡単に人物評価をするのは間違いの元だと思うぞ。」

「でも、キングだけがこの広さの空間を手に入れた、それだけでも私より能力がうんと上だと感じるわ。」

「焦って欲しくないのはこの男女の構成比だ、男女四名ずつという事に意味が有るのなら、余計な先入観を持っての共同生活スタートは好ましくないと思う。」

「でも、ここはキングの国な訳だし、リーダーはキングにお願いしたいと思う、どうかな、必要だろリーダーは。」

「ロックに賛成だ、何時どうなるか分からない俺達だが、キングならましな方向へ導いてくれそうな気がする。」


 三郎の意見に皆がうなずく、表情から見て取るに反対の者はいない様だ。


「正直に言うと、今まではマリアの存在も有り寂しさを感じてはいなかった。

 でもセブンと会う事が分かった頃から心境に変化が有る、人間は集団で暮らす生物なのではないだろうか。

 良かったらこの城に八人で暮らしたい。」


 反対する者はいなかった。

 各自の居住地に有った物は、それぞれの管理者が転送してくれ、引っ越しに時間は掛からなかった。

 彼らに割り振った部屋は、彼らが今まで生活していた部屋よりうんと広いそうで、引っ越しの荷物を置いても、まだまだ余裕が有る。

一人一部屋としたが、全員が一室で暮らしたとしても余裕が有るのは、城を立派にするという目的が有ったからに他ならない。


 リーダーとして、問題は四人の女性に有ると思う、四人とも外見は平均以上、しかも私に好意的、先々のトラブルに繋がる可能性が有ると思う。

具体的な女性の記憶は皆無だが、女性という存在については普通に覚えていた。

そして人間関係という事も。

 男性四名の中で今の自分は一歩抜きん出た状態に有る、生物の本能として優秀な子孫を残す事を考えたら現時点で私は一番の配偶者候補だろう。

 このグループをまとめて行くには、その辺りのバランスをどう取って行くか考える必要が有ると思う。

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