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キング  作者: かめ屋吉兵衛
城の子
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三 マリア

 マリアの授業二日目。

 質問に答えるというマリアの言葉に、まず口を開いたのは翔だ。


「この端末を通してマリアさまと話す事は出来ないの?」

『そうね、私達の方針で今はキングとあなた達四人にだけ、こうして私の声を聞かせることが出来るのだけど、端末を使うと他の人に聞かれてしまうかも知れないでしょ。』

「弟や妹でもだめなのかな?」

『あなた達の本当の弟や妹が七歳ぐらいになるまではね。』

「お城に住んでる子は特別なの?」

『そうよ、この世界で特別な存在。』

「他の国のリーダー達の子達もでしょ?」

『いいえ、他の国は和の国ほど成功しなかった、色々な意味でね。』

「でもスコットランドのメアリーやジョージは五歳だけど優秀だわ。」

『実はそれ程でもないと、しばらくしたらあなた達も気付くでしょう。』

「特別って、喜んで良いのかな、良い事ばかりじゃない気がする、三之助おばちゃんは良くバランスについて話してくれる、特別な存在はバランスを崩しかねないって。」

『尊は良く分かってるわね、その通り良い事ばかりじゃない、あなた達はこの先大変な思いをする事になるでしょう、でもキングがこの世界をまとめている事は理解出来てるわね。』

「はい。」

『これからも人が増える、大人を束ねるのはキングの役目、子ども達を導くのはあなた達の役目、だから城の子は特別なの。』


 子ども達と目が合う、だが私も初めて聞いた話だ、彼等の期待には応えられない。

 しばらく沈黙。

 その沈黙は望が破った。


「人が増えるというのが…、この世界に子どもが生まるという意味なら、そんなに大変じゃない気がするわ。」

『いいえ、これから新たな出会いが有って人が増えるの。』

「マリア、子ども達にいきなり重荷を背負わせるのはどうかと思うが。」

『キング、私は心配していない、それはこの子達が証明してくれるでしょう。』

「ならば…、これからの予定を教えてくれるか。」

『そうね、まず、この子達には工作の時間を。』

「工作は好きだよ、何を作るの?」

『まずは難民たちのコロニーを考えてるのだけど、どう?』

「うわっ、面白そうだね!」

「難しくないのか?」

『キングには出来ないが、この子達なら大丈夫。』

「それが試したかった事なのだな。」

『タイミング良く教材が手に入ったということ。』

「九丁目から十一丁目のコロニーということだよね…、ワクワクするな。」

『ふふ、それと和の国の海にあなた達の島を作ると言うのはどうかしら。』

「僕らの島?」

『城の子が自由にして良いわ、和の国をキング達が管理している様にあなた達で管理出来るかしら?』

「で、できるよな。」

「うん、秘密基地にしよう。」

「でも、秘密にはできないのでしょ。」

「島は秘密でなくても、ねえ、マリアさま、色々な仕掛けを作って良いのでしょ?」

『もちろんよ、私達を楽しませてくれる仕掛けを考えて欲しいわ。』

「島と言う事は船が必要ね、船の作り方も教えてくれるの?」

『ええ、材料に問題ないからね。』

「材料って何?」

『難民たちのエリアを消滅させることは知ってるでしょ。』

「そうか、ゲートを使って行くあのエリアを和の国の海に移動するんだ。」

『そういうこと、あのエリアを見てどうだった?』

「はい、あまり行きたくないと言うか、あの人たちが和の国で暮らすのなら必要ないかな。

 案内してくれた人は、キングに保護して貰え和の国の一員となれたことに感謝していました。」

『そのキングが大切にして来たあなた達は、多くを学んでくれるかしら?』

「もちろんです、マリアさまから色々教えて貰えるなんて、ね、望。」

「うん、えっと、私達の妹や弟たちに教えて良いですか?」

『もちろんよ、でも、城の子だけにしてね、他の子達は理解する事も作業する事も出来ないのだから。』

「僕たちは、それぐらい特別なんだね。」

『特別で有っても他者に対する優しさが有る、あなた達の様な人ばかりだったら、キングは故郷を失わなかったでしょう。』

 

 子ども達は少し考え込んだ。

 この四人には私達の過去を少しずつ話している。

 子どもなりに故郷を失うことの意味は理解していると思う。


「マリアさまはずっと僕たちを見守ってくれてた、僕たちが沢山学んでこの世界をもっと素敵に出来たら、マリアさまは嬉しい?」

『もちろんよ、でも、そうね、あなた達と共にいられるだけでも私は嬉しいのよ。』


 マリアが、嬉しいと口にするのを聴くのは初めてのことだ。

 子どもに合わせてくれているだけなのかも知れないが、それでも…。

 根拠は無きに等しいが、マリアという存在は、管理者の中でも特別な存在なのかも知れないと思う。

 私達は他国と比べると、すごく甘やかされて来た。

 城の子達はこれから更に甘やかされそうだと思っている所で、愛が口を開く。


「私もとても嬉しいわ、ねえマリアさま、島はともかく九丁目からのコロニーは住み心地良くして上げたいのだけど、二丁目とかも、お母さんは二丁目の人が悪かったのではなくて、たまたま能力が他のコロニーの人より少し低かっただけだって話してたの。

 色々な事を上手に出来なかっただけなのよって。

 それでね、コロニーが綺麗になったら気持ちが明るくなると思うの。」

『それは二丁目コロニーを見て思ったことなの?』

「はい、罰を受けコロニーが暗くなったことで、気持ちが沈み…、もっと人から嫌われる様になってしまったのかもって。」

『そうか…、愛の視点は我々にはなかった、キングはどう考えているのだ?』

「社会生活を上手くこなせない社会的弱者、能力的に問題が無いのに我儘を言ってるという訳では無く、明らかに能力が低いのだが、それは本人の責任ではない。

 私達も二丁目に対してこの結論に達したのは最近の事なのだが、本人達の責任能力が低いのなら、他者に迷惑が及ばぬ様、配慮し保護して行く、それが今の方針なのだ。

 行動を制限させて貰ってるが、それ以外は極力普通の生活に。

 教育は試みたが、和の国の一員として他の国民と同等の扱いは難しく、今の状態が精一杯だがな。」

『そうか、価値観の多様さは私の思っていた以上だ、愛は二丁目の環境改善を望んでいるようだが。』

「大人達が積極的に取り組むのは難しい状況だが、子ども達が取り組めば大人達の気持ちも変わると思う。」

『では、愛と共に取り組み観察してみたいが、愛はそれで良いか?』

「はい、マリアさま、私に出来るのであれば。」

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