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キング  作者: かめ屋吉兵衛
城の子
21/50

一 難民

 新たな隣人達は、彼等の国に残っている八人を居住コロニーに閉じ込めたまま、十五人の大人と二十人の子どもが難民として城下町で暮らし始める。

 彼らの住まいは子ども達のお泊り保育用に建てられた家。

 城でも良かったのだがマリアは、それを許さなかった。

 避難して来た人の一部は、昼の間だけ畑仕事をしに自国へ戻っているが、その手伝いにと同行した者は、我々にとって魅力に乏しい国土だと話す。

 国のメインエリアに有る四軒の家はひどく荒らされ住める状況には無く彼らが落ち着くまで放置することにした。


「麗子、食事は彼等の口に合ってるのか?」

「分からないわ、あの人達がかつて口にしていた味付けが分からないもの。」

「ふふ、大きな声では言えないけど、おいしすぎて怖いそうよ、背徳の味覚なのかも、皆さんにとってはね。」

「えっ。」

「日本食よ、彼等にとって因縁の有る西洋の食事でなく、材料に乏しい自国で食べ飽きた食事でもないでしょ。」

「そうか…、よし、日本食マニアを増やそう。」

「はは、麗子は腕が鳴るのだな、でも、そろそろ自炊の環境も整えてあげないと。」

「食材とかの相談はしてるのよ、でも今は蘇って来る記憶の整理に追われている段階で余裕が無いみたいなの。」

「そうだったな、しばらくは見守るしかないのか。

 まあ、英語を知らない人ばかりだから、英語を耳にしても問題はない、ゆっくり過去と向き合う時間を作ってあげられるね。」

「この平和で豊かな社会を見て、何が真実なのか分からないって人もいるのよ、この世界でのスタートやその後の展開も基本は自分達と同じだったと知ってね。」

「国民性の違いとかリーダーの力量とかに差が有ったのだな。

 彼らの子ども達はどうしてる?」

「三歳以上の十人は一年生が相手をしてくれてるわ、翻訳機は向こうから持ってきた内の二台を子ども専用に、うちの子達は私達が何を期待してるのか理解していて先方の子達の不安を和らげているわよ。」

「初めての言語に対する反応はどうなんだ?」

「もちろん好奇心の塊だから、四人で分析を始めている、私達が思っていた以上に天才かもしれないわね。」

「キング、残る八人はどうする?」

「記憶の蘇りが落ち着くまではだめかもしれないが、モハメドを手伝ってみようと思う、ヨーロッパとは関係のない第三者だから説得し易いだろう。」

「確かにキングが適任かもしれないな。」


 その翌日からリーダーのモハメドに同行、テレビ電話を通して一人ずつ話を聞く。

 三日目には八人全員とモハメド抜きで個別に直接会い話をした。

 翻訳機が有るとは言え、その表情から判断できることも有る。


「キング、彼等はどう? 少しは落ち着いたの?」

「ああ、問題点も整理されつつ有る。

 彼等は母国が受けた大きな攻撃を欧米諸国によるものだと信じているのだが、当時経済制裁を受けていたそうで、簡単には否定出来ない。

 もう一つは攻撃を受けた後の混乱の中で、モハメドのグループと対立し殺し合っていた人達は、今更モハメドの下という立場は耐え難いということだ。

 だが、私の話は聞いてくれているので、モハメド抜きで一人ずつ和の国へ招待して行こうと思う。」

「危険は無さそうか?」

「ああ、麗子からの差し入れを気に入ったそうで、レストランへ招待すると話したら一様に嬉しそうだった。

 個別に会ったのに反応は皆同じだったよ。」


 和の国に一人ずつ招待された彼らの反応も全員が同じ。

 彼らの中にはモハメドをトラップで殺そうとした人物もいたが、和の国を見てすっかり変わったのは、城の子と遊ぶ我が子の姿を見たからかも知れない。

 全員が私の指示に従うと約束してくれた。

 それからは人に危害を加えないと誓い、避難していた人達と共に三つのグループに分かれ話し合いの場を持つ。


「どう、彼らは何かしらの結論を出せたの、ロック?」

「ああ、私が見守ったグループは、キングに忠誠を誓うから和の国の一員にして欲しいと。

 過去の宗教を忘れて新しくやり直したい、それが子ども達にとって一番良い事だともね。

 大人も子どもも優しく接してくれる和の国の一員になれるので有れば、きつい仕事でも率先して引き受けるからと。

 今の状態で、自分達が独立した国家を形成して行くのは難しいし、他の五か国と馴染むには時間が必要だが、和の国の人となら何の問題も感じられないと話してくれたよ、グループ八人の総意としてね。」

「そうか…、セブンが見守ったグループはどうだ?」

「人数が減り、リーダーがモハメドでは…、大人が二十三人にまで減った原因はモハメドに有ると話す人がいてね、ただ、モハメドのリーダーとして資質は兎も角、管理者との関係から大きな権限を持っている訳で、そこをキングにすがれないのかと聞かれたよ。

 モハメドは黙ったままだった。」

「キング、どうする?」

「そうだな、私が見ていたグループでは、過去の世界も、ここでの暮らしも嫌な事ばかりだったという女性が、和の国で優しくされて、もうモハメドの指示には従えないと話していた。

 モハメドがどう考えているのか確認した上でマリアと相談だ。」


 それから城のメンバーで彼らから個別に聞きとり調査をし、それらを踏まえてマリアと相談した。


「キング、どうだった?」

「何とか上手く行きそう、子どもを守った事が大きく評価されたそうで、マリアは和の国に於ける新たな人間関係という視点で研究を進めるみたいだ。」

「彼らの国はどうなる?」

「和の国に併合する。」

「だとすると、あの国の農地を…、生産体制の見直しか…。」

「いや、あのエリアは消滅する、もう農地を放棄して構わない。」

「そうか、まあ無くても食料に困る事はないな、では彼らの住居は?」

「今有るコロニーを三つに作り替え、九丁目、十丁目、十一丁目とする。」

「そ、そういう事が可能なのか…。」

「ただ、一旦、今のコロニーへグループを再編した状態で戻って貰い、今のは様々な作業が済んでからの話だ。」

「マリアさまも準備に時間が掛かるのだろうな。」

「いや、マリアの力なら直ぐにでも可能なのだが、試したい事が有るそうだ。」

「我々が試されるのか?」

「そういう感覚では無いのだが…、憶測だけで話すのは控えたいので、マリアからの話を待って欲しい。」

「ふふ、キングは前向きな憶測をしているのね。

 では、それを楽しみにして、どうなって行くのか待ちましょう。」

「う~ん、麗子がそう言うのであれば…、キングを追求する事は控えるよ。」


 和の国に関して大きな改造が示されたが、物理的な変更の前に、全く異なる文化を持つ二つの民族が一つの国家を形成するという問題が有る。

 だが、かつての北海道と沖縄では言語も生活習慣も違った、とは三之助の言葉、彼女がバランスを重視しつつ両者の間に入って調整してくれた。

 状況を考えれば、和の国の日本人が優位に立つであろう事でも、新たな国民の立場を尊重し極力平等になるよう働きかける。

 国民達は、互いに戸惑いは有りつつも、両者の壁と向き合う。

 だが、子ども達の壁は高くなかった。


「子どもはやはり柔軟だな。」

「柔軟どころでは無いわ、アラビア語で話しながら、日本語教師の役割を始めているのでしょ。」

「ああ、それで小学校の体制を考え直すことになった、今後は城の子と他の子を分けて考え、二つの小学校みたいな形にする。

 これまで調べて来た結果、各国の子達も能力が低い訳では無いのだが、城の子とは理解力などに大きな差が有る。

 一年生たちが弟や妹に教えてることも有り、この先その差が広がると推測されているのだ。」

「でしょうね、お姉ちゃんに教えて貰ったとか言って、私が高校で学習した様な事も知っているし、随分前から頭を使うゲームで真剣に勝とうとしても勝てたためしがないのよ。

 二歳児になら勝てるなんて、恥ずかしながら思っていたら、上の子達がコツを教えてしまってね…。

 ほとんど運任せのゲームでも、何故か勝てないし。」

「運の部分も計算してるのだろうな。

 それで、子ども達が新しい言葉を教え始めたのは知ってるか?」

「ええ、各国の子達にでしょ。」

「今はまだ原始的な言語だが共通語にするそうだ。」

「きっかけは何か有ったの?」

「そりゃあ同じ物に七通りの呼び方が有っては不便極まりないだろう、翻訳機の数には限りが有るからな、で、どうしてキャベツの事をキャベツって呼ぶのか訊かれたから、昔の人がそう呼び始めたからだと話したのさ、そしたら自分達で勝手に決めても良いよねって。

それから四人で相談して共通語を作り始めた訳だ。」

「私達も覚えるべきかしら。」

「今なら簡単だよ、文法がシンプルだからな、徐々に単語が増えて行くから、言語として完成するのは先の事だろう、今は試作の段階で、試しながら単語を変更するかもしれないってさ。」

「それに対してマリアが関心を示していてな、四人の子と話したいそうだ。」

「えっ、キング以外今まで誰とも話してないマリアさまが、う~ん、四人をキングの後継者と考えているのかな。」

「学校はしばらく休ませて良いだろうか。」

「教える方が追いつかないペースで学習が進んでるから好都合なぐらいだ。」

「私が子ども達に付き添う、担当している業務から外れたいと思うがフォローしてくれるか。」

「了解だ、キングは雑用なんて気にしなくて良いよ。

 新たな国民達も慣れて来て大きな問題は無いからね。」

「では、明日九時から城の六階、一番東の部屋に集合と伝えて欲しい。」

「食事は?」

「運んで貰う事になるかもしれない、その時は連絡する。」

「わかったわ。」


 マリアが子ども達と話すというのは大事件だ。

 今、管理者と話せるのは六人のリーダーのみ、モハメドの管理者は併合が確定して以来、現れなくなっている。

 他の国の管理者も現れる回数が極端に減ったと聞くが、マリアだけは頻繁に私と会話している。

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