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キング  作者: かめ屋吉兵衛
国交
20/50

十 新たな隣人

 新しい娯楽施設としての競馬場が城下町に完成した頃、私達の世界は新たな国を迎える事となる。


「なあキング、データを見ると今までの国と随分違うが、それについてマリアさまは何か話していたか?」

「ああ、私への告知からファーストコンタクトまで期間を置いてくれたのは、その違いが故とのことだ。」

「一応気を遣って下さった訳か、しかしだな、大人が三十一人子どもが二十人、三十三人も死亡している国って国民性に問題が有るのかリーダーに問題が有ったのか、二丁目みたいなブラックコロニーが強すぎたのか、今までの国と同じ様には行かないかもな。」

「アラビア語という事は記憶が蘇った後、他国と宗教上のトラブルが予想されるわね、今までとは違った意味で和の国がコンタクトを取った方が良さそうだわ、他の国が担当したら記憶プロテクトの解除が始まった瞬間からトラブルになる可能性が有るでしょ。」

「国土が狭く、この生産量では、人数が少なくても余裕が有るとは思えない、それが精神面に影響している可能性が有るね。

 我々からの支援物資が罰を理由に充分届いてないかも知れないし。」

「初めて会う時に食料を渡せたら渡しましょうか。」

「そうだな、ただ、食生活が違うだろうから向こうでも生産している作物にしておこうか。」


 国連の会議でも慎重にという話ばかり。

 英語問題とは関係なく歴史的観点から和の国が適任だとなり、まずは我々八人で様子を見る事に決まった。


 ファーストコンタクト。

 挨拶の後、お互いの国情を説明し合う。

 記憶のプロテクトが外れるという話は向こうも管理者から聞かされていて、どんな記憶が蘇るか教えて欲しいと言われたが、それは出来ないと断った。

 実際問題、我々と同じなのかどうかも分からず説明しづらい。

 我々最大の関心事、死者の多さについては、一つのコロニーが不満を爆発させ殺人に及んだとの事。

 そのコロニーの大人は全員亡くなり、残された子どもは皆で面倒見ているという。

 初対面の場で食料の支援をするという申し出には喜んでくれ、最後にリーダー格三人を翌日招待するという事を決めてテレビ電話による会談を終えた。

 今回、初顔合わせまでに時間を取ったのはファーストコンタクトの結果を話し合う時間を取るためだったが、結局は対面してみないと何も掴めないという結論に至る。


 翌日、緊張の対面、だが、スオミなどとの時と変わらず、しばらくはモニター越しに定時連絡を取り合う事などを確認し、彼らが少し表情をこわばらせ始めたのに合わせて見送る、という流れは無事に済んだ。

 拍子抜けするぐらい簡単に。


「ちょっと心配し過ぎだったのかしら。」

「安心するのはまだ早いと思う、問題はこれからだろ。」

「そうよね、彼等が記憶を蘇らせ、戸惑う中で今後の話をして行く、今までの五カ国とは基本条件が違い過ぎるから、今まで私達が経験して来なかったトラブルが起こるかも知れない、油断は禁物だわ。」

「キング、担当者はどうするの?」

「なあ…、あの国の大人は三十一人じゃなかったか?」

「ええ。」

「データ画面を見てみろ、三十人に…、減った。」

「このタイミングで一人死んだってか?」

「彼等に蘇りつつ有る記憶が人の死に繋がるって事?」

「向こうのリーダーとの連絡は?」

「コールしてみるよ。」

「予測していた宗派の違いによる対立だと厳しいかも、しかし死者が出るとはな…。」

「セブン、対面時にガードをお願いしていたメンバーを念の為、ゲート前に集め直してくれるか。」

「了解。」

「ロック、向こうから避難してくる可能性が有る、受け入れ準備を頼む。」

「分かった、別で人を集めるよ。」

「あっ、大人が二十九人になったわ。」

「三之助、他の国へ緊急連絡、状況を説明して応援を要請してくれるか。」

「ええ、すぐに。」

「キング、向こうのリーダーが出たわよ。」


 彼の国のリーダーは顔をこわばらせながら、過去に対立していた三つのグループメンバーが殺し合いを始めたと、そして子ども達だけでもゲートを通してくれないかと話した。

 それに対して、リーダーを含め殺し合いに参加する意思の無い者全員を受け入れると伝え、ゲートの操作を始める。

 向こう側は全開放にし、こちらで受け入れ制限を調整する、子ども全員を通行可にした後、大人に関してはリーダーの指示に沿って名簿から選択して行く。

 後は待つしかない。


 ゲートから最初に現れたのは、片手で乳飲み子を抱え、子どもの手を引いた女性。

 八重が翻訳機を使って声を掛ける。

 その後、何人か駆け込んで来たが、次々にとは行かず気を揉んだ。

 避難は大変だったという。

 子どもでさえも容赦なく襲おうとした者がいたそうだ。

 半端に蘇って来る記憶に苛立ってもいたのだろう、暴力的な連中に見つからない様にゲートへ向かう途中捕まった者もいたそうだ。

 リーダーがゲートから現れ、結果十三人の子どもと十二人の大人が和の国へ逃れる事に成功した。

 怪我人が出たが、命に係わる程ではない。


「データ上子どもの人数は変わってないから、残ってる子ども達はまだ無事みたいね、大人は二十三人に減ったわ。」

「そこまで憎しみ合ってた人達がここで同じ国になったのは…。」

「管理者は対立を知らずに同じ人種だと判断したのでしょうね。」

「向こうに残ってる大人の内、特権階級ではない八人は、十八時になったら自分のコロニーに強制送還されて罰を受ける事になるのよね。」

「その前に自分で戻るだろう、だがこちらに来た大人達はどうなる?」

「今、十七時十八分か…。」

「時間がないな、すぐにマリアと相談してみるよ。」


 マリアとは他の国民のいる所では会話出来ない。

 自室に戻り呼び出して相談。

 七人の子ども達はこちらに転送してくれる事になり、こちらに避難した全員が罰を受ける事無く滞在する事を特例として認めてくれた。

 皆の所へ戻ると、子ども達はすでに転送されて来ていて抱きしめ合う姿が。

 問題は向こうに残っている十一人の大人達だ。


「キングどうする?」

「檻を利用しよう、ロック、ゲート前に檻を設置出来るか?」

「ああ、牛用のを持って来るよ。」

「人を殺したらすぐに死ぬという事だから、この十一人はまだ人を殺していないし、殺せば死ぬと分っていると思う。

 向こう側のゲート設定は開放状態にして有るそうだから、こちらの操作だけで調整出来る。

 まあ、彼等の言い分を聞こうじゃないか、もちろん檻の用意が済んでからね。

 一花、難民の皆さんは空いてる住宅へ、麗子は食事の手配を頼む。

 おっと、こちらに来た大人達が殺し合う事はないだろうな?」

「それは大丈夫だ、念の為三つのグループに分かれて貰ってガードを付けた、プロテクトが外れ始めたばかりで戸惑っている様だが、大人しくはしている。

 女性達は泣くばかり、男性達からは三之助が三丁目の連中にガードされながら、聞き取りを始めているよ。」

「セブン、他国からの応援は?」

「もう直ぐやって来る、檻を設置する話はしてあるよ。」

「その後、人数に変化は?」

「大人二十三人から変わらないわ、自分のコロニーに戻ったのかもね。


 ゲート前に檻を設置した後、ゲートを開放し石を投げ込んだ。

 その合図に対し三人が檻に入って来た。

 各国からの応援も含め大勢に取り囲まれ困惑の表情。


「君達はこの世界でどうしたい、殺し合って死にたいのか?」

『い、いや、俺達は殺し合いの場から逃げた。』

「この檻の意味は分かっているのか?」

『ああ、こんな狭い世界で殺し合ってる連中と同類だと思われても仕方のない状況だからな。』

「子どもは?」

『消えてしまった、だからもう何の希望もない。』

「子どもが生きていたら、子どもの為に過去を忘れて働けるか?」

『過去のろくでもない記憶なんていらなかったよ。』

「分かった、今日はここで子と過ごせ。」


 子どもと再会し食事を振る舞われた男達から危険を感じる事はなかった。

 元々、城の住人同様特権階級の三人、かつては対立していたが、この世界では協力していたと、蘇る記憶と向き合いながら、少しずつ話してくれた。

 彼らの記憶は急激に蘇った訳では無い、ただ偶然対立していた記憶が…。

 運が無かったと言えるのは、かつて、まさしく互いに食料を奪い合い殺し合っていた三グループが、それと知らずに一つの国家を形成していたという事だ。

 プロテクト解除に伴う不安定な精神状態でそれを思い出した結果、八人の死者が出た。

 当面の問題は向こうに残る八人。


「残ってる連中はもう全員居住コロニーに戻ってる筈だから、向こうのリーダーとコロニーゲートの設定を変更しに行く。」

「向こうの管理者は動いてくれないのか?」

「マリアは本来静観すべき所を特別にと話していた。

 管理者としては殺し合った所で研究的に構わないのだろう。」

「冷たいのだな、なあ、キング、向こうへ足を踏み入れて危険はないのか?」

「大丈夫だろう、直接会う訳ではない、今から行くエリアに人は残っていないからな。」

「そうか、だが念のためにガードとしてついて行くよ。」


 他のガード役を含め六人でゲートをくぐる。

 夕日に照らされる風景は随分殺風景で、食料が不足気味とのデータも納得出来る。

 残る住人は全員居住コロニーに戻った様で静かだ。

 リーダーの家までは三分と掛からなかった。

 家主がドアを開けようとした瞬間、ガード役として来てくれたスコットランドの元兵士が止める。


「待て、トラップの可能性を否定出来るか。

 残っているのは、リーダーと敵対していたグループなのだろ、トラップによる殺人の罰が仕掛けた人物に振り掛かるかどうかは分からない。」


 彼の判断は正しかった。

 彼が慎重にドアを開けると、吊るしてあった農具が落ちて来る。

 一旦和の国に戻り、彼の指示で道具を揃え十名のガード役と共に再びリーダーの家へ。

 三つの幼稚なトラップは難なく無力化され、当初の目的、残る八名を居住コロニーから出られない様ゲート設定を変更する事が出来た。

 こういった操作が出来る事は一般の国民が知る所ではないと思っていたら、この地のリーダーですら知らなかった。

 閉じ込められた事に気付きもしていない連中とは、リーダーがテレビ電話を通して連絡を取ったが良い結果は得られず、我々は、翌日以降の課題を残した状態で和の国へと戻った。

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