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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
2/50

二 城

「キング、部屋は満足か?」

「檻にしても、ちと殺風景過ぎやしないか、せめて鉄格子でも見えないと雰囲気が出ないぞ。」

「それが望みか?」

「い、いや…、広い窓から海が見渡せる部屋が理想だな。」

「広い窓というのは抽象的だ。」

「適当で良いよ。」


 その瞬間…。

 マリアはほんとに適当にやってくれた。

 私のささやかな王国となったばかりの灰色の部屋は、周りを海に囲まれた小さな島となったのだ。

 三百六十度広い海を見渡せるが、窓どころか部屋と思える物もなく、島と海しかない。

 寝具も消えたので、本当に殺風景だ。

 でも、空は青く白い雲が流れて行く。

 水に手を入れ、なめてみると塩の味がした。


「これは泳いだら別の島にたどり着けるのか?」

「試みない事を推奨する。」

「だろうな。」


 これは映像なのだろうか?

 だが海水は本物だ。

 風も感じる。

 随分手が込んでるというか、それでも陸地は元の部屋と同じぐらいの広さしかない。

 満ち潮になって溺れる、引き潮になって陸地が広くなるとかするのだろうか。


「キング、満足したか?」

「前よりは随分良いが陸地が狭すぎる、もう少し広く出来ないか。」


 言ってみるものだ、その瞬間、陸地はあっさり野球が出来る程の広さになった。

 王国の領土が戦争をする事無く広がったのだ。

 実際に歩いて回る事も出来るがこれは部屋なのだろうか。

 自分にはグレーの空間から移動したという感覚が全くなかった。


 それから、この島での生活が始まる。

 名前という概念はしっかり持っているのに自分の名前を思い出せないままでだ。

 まあ記憶喪失というのは、こういうものなのだろうと深く考えない事にした。

 こんな時に、楽観的といった言葉が浮かのが面白い。

 記憶している事を自覚していなかった言葉が、何かを意識した瞬間に関連して出て来る。

 切っ掛けが無いと自分が何を記憶しているのか分からないのだ。


 ここでの生活は至って規則正しい。

 朝になると目が覚める。

 マリアの用意してくれた朝食を摂る

 そして、マリアと島の改造や城の建設。

 城は、ここが自分にとっての王国ならば城が欲しい、と言ってみたら、あっさり受け入れられて建設が始まった。

 勿論、私は我儘を言うだけで作業はマリアがしてくれる。

 ただ、これはなかなか難しい作業だ。

 城に関する知識は浮かんで来るが、マリアに対して抽象的な説明をしても思うものは出て来ない。

 イメージを言葉で表す難しさを思い知らされた。

 それでもマリアは根気よく応じてくれ、一人で住むには大き過ぎるゴシック様式を意識したオリジナルデザインの城が小高い丘の上にほぼ完成、今は装飾を施している最中。

ここまでにはマリアの魔法をしても随分な日数が掛かった。


「マリア、結構手間だと思うが、どうして私の思い通りにしようとしてくれるんだ?」

「それは解答出来ない。」

「そうか、ずっと声だけだが姿は見せてくれないのか。」

「それは不可能だ。」

「ここには私だけなのか?」

「教えられない。」

「私は何も知る事が出来ないのか?」

「キングの質問の内、解答出来るものには解答している。」

「成程、とりあえず質問してみるしかないという事か。」

「そうだ。」

「じゃあ私はここでずっと一人なのか、マリアがいるから寂しくはないが。」

「時期が来たら変化する。」

「それまで待てと?」

「第一段階、住居の整備に手間取っている。」

「あっ、もうほとんど完成だ、新しい城には満足してるよ。」

「ならば第二段階への移行となる、自給自足に関して希望を。」

「私に自給自足をしろと、今までの様においしい食事が目の前に現れる事はなくなるのか?」

「勿論だ、自給自足とはそういうものだと認識している。」

「第二段階へ移行しなかったら、ずっと自給自足しなくても良いのか?」

「それは推奨できない、第二段階の次には、第三段階が存在する。」

「そうか、まあ、する事が無いよりは余程ましだろう、自給自足について考えさせてくれ、準備段階は手伝ってくれるのだろ。」

「当然だ。」


 頭の中に有る自給自足の知識を引っ張り出してみる。

 農作物の場合、種を蒔いてから実を結ぶまでに時間が掛かる。

 マリアがどこまで許してくれるか分からないが食料の備蓄が必要だ。

 それでは自給自足と認めて貰えないのだろうか。

 待てよ、農作業の手引書とかは出して貰えるのか?

 今までは…、しまった、紙とペンを要求していたらもっと早く城が完成したのではないか。

 まあ、次の段階が有る事を知らなかったから急いではいなかったのだが、単純な事に気付けなかった自分が嫌になる。

 さて、肉はどうする、牛を飼うなんて大変だし、一人で牛を一頭食うのか?

 繁殖をさせないと自給自足とは言えないだろうし。

 冷凍庫は用意して貰うとして、その電力も自給か?

 漁業は?

 そもそも怪しげな海にマグロとか生息しているのだろうか?

 疑問は山積み、何にしてもマリアと相談するしかない。

 第三段階に興味が有り、急ぎたい欲求が自分の中に芽生えている。


「マリア、自給自足に向けてだが…。」


 結果、マリアさまはかなり甘くしてくれた。

 今は自給自足しようという気持ちが試されているのかもしれない。

 牛肉豚肉は断念、鶏を飼い漁に出て畑を耕すという生活がマリアに助けられながら始まった、だがマリアに頼り過ぎるのは良くないと何となく感じる。

 自分に出来る事と言えば、データベースを頼りに作業の知識を手に入れること。

 マリアが出してくれた、パソコンと何ら変わりない端末、それを使ってアクセスするデータベースの使い勝手は良い。

 自給自足に必要な情報にしかアクセス出来ないのが残念では有るが。

 初めて漁に出た時は、マリアのテクノロジーを直に見せつけられた。

 マリアが用意してくれた船は至ってシンプル、操縦も簡単、エンジン音は静かで燃料は海水だ。

 取り立てて点検整備の必要はない。

 マリアはかなり高い文明の持ち主、魔法使いレベルの彼女が、なぜ私をここに連れて来たのかは今もって謎のままだ。

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