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キング  作者: かめ屋吉兵衛
国交
17/50

七 スオミ

 スコットランドとの交流が始まってから半年程が過ぎ、両国の有志による混成の混声合唱団がアニーローリーや赤とんぼを城のホールで初披露する頃、マリアから告知が有った。


「順調に行けば来月、新たな国との交流が始まるそうだ。」

「いよいよか、具体的には?」

「確定ではないとの事でまだ詳しくは分からない、ただ、その後、立て続けに条件をクリアする国が現れる可能性が高いと言われた。」

「スコットランド側は?」

「同様の告知を受けたそうだ、協力して国交樹立プログラムを策定する必要が有るという事で一致している。」

「記憶の蘇りから、しばらくの間は国内の安定に力を注がざるを得なくなるというプロセスがスコットランドと同じなら、本格的な交流を始めるまでに、じっくり準備する時間が有るよな。」

「そうね、でも立て続けという事だと落ち着かないかも。」

「国民とも相談して我々が外交に多くの時間をさける環境を整えておきたいと思うがどうだろう。」

「ああ、二丁目の問題も落ち着いてきたから大丈夫だと思う、教育や外交に力を注いで欲しいと話してくれる人もいるからね。」

「スコットランドからは麗子の予約制レストランについて、手伝うから席を増やして欲しいとの要望が有った、今後交流する国の人も招かなくてはいけないし、我が国の民からはもっとレストランの雰囲気を味わいたいとの声が届いている。」

「それには応えて行きたいね。」

「そこで、国内のゲートに関して時間ルールを変更しようと思う。」

「キングの自由に出来るのはどこまでなの?」

「零時から六時の間以外はフリーに出来る、時間制限の理由は分からないのだが。」

「どんな風に変更?」

「音楽村が完全にフリーなのと二丁目の制限は今まで通り、他は夜十一時までの滞在を認めようと思っている。」

「喜んで貰えると思うが、何か交換条件を出すのか?」

「当番制でレストラン夜間営業の手伝いだ。」

「そうか、各国の特権階級は夜におもてなしという事なのね。」

「国民も夜のレストランを利用出来る体制にしたい、昼はスコットランドに手伝って貰って主に外国の一般客を受け入れて行く。」

「私達の会議はどうするの、時間に余裕がなくなりそうだけど。」

「基本、今まで通りダイニングルームで八人揃って開く、レストランは麗子がいなくても充分なものが出せるから問題ない、料理教室は大きな成果を上げている。」

「問題は国際的な会議だね、今後は他の客に聞かれたくない話も出て来るだろう。」

「ケースバイケースで良い、部屋は有るのだからレストランにこだわる必要はないと思う。」

「確かにな、空いてる部屋に国際会議室とか名前を付けるか。」

「木工チームはスコットランドの職人と共同で装飾にも拘り始めたでしょ、国際会議室用に特注で椅子と机を依頼したら喜んでくれるのではないかしら。」

「そうだな、二か国になって効率が良くなり余裕が出て来た、彼らにとって木工は趣味の範疇だそうだ。

 次の国とも良好な関係を築き、更なる余裕を生み出したいね、趣味の時間を増やせる様に。」


 国民達は島に滞在できる時間延長を素直に喜んでくれ、二丁目以外の国民はほとんどの時間を島で過ごし、寝る為だけに自分のコロニーへ帰る様になった。

 そのおかげでレストランの新体制は新たな客人を招くまでに余裕を持って完成。

 そして趣味、木工だけでなく、手芸、歌や踊りといった時間を多く持てる様になったのは、共同保育体制を強化出来たことにもよる。

 子どもに歌や踊りを教えたり、お話を聞かせることを趣味としている人が少なからずいるのだ。

 

 レストランの新たな客人候補、次なる隣人のデータはスコットランドの時より少し詳しくなっていた。


「フィンランド語か、だったらフィンランドの人達だろうな。」

「言語を明示してくれたのは、私達の時に失敗したからでしょうね。」

「フィンランドは四か国語とかを話せる人が多いと記憶している。

 英語で会話出来そうだが、マリアからは、あえて日本語で話し、翻訳機を使って英語の存在に気付かせない様にして欲しいそうだ。」

「英語では私達の時と同じ様な状態になる可能性が有るのかしら。」

「ああ、彼等が落ち着くまでスコットランドに出番はなく、我々だけがコンタクトを取る事になる。

 もう一つ、マリアは言語に対して興味を持ったそうだ、子ども同士の会話を見てね。」

「キングはマリアさまとそんな話もしているのか?」

「一時期ほとんど会話がなかったが最近になって色々質問される事が多くなった、時には意見交換もしている、異なる言語を使う子ども達が言語の融合を試みる事は想定外だったそうだ。」

「私達も想定していなかったわ、こんな特殊な環境がなかったら起こらなかったでしょう。」

「この機会に翻訳機を使って知らない言葉を習得するのも面白いかな、でもこの先、幾つの言語と出会うのかしら。」

「マリアさま達が単一の言語で生活して来たのなら、複数の言語を理解し複数の言語で思考するという人間の存在は新鮮でしょうね。」

「誰かフィンランド語話せるか?」

「さすがにいないだろ、それよりデータを見ると子どもが二十人となっている、スコットランドの時との共通点だな。」

「大人は五十八名、六人死亡、データを総合的に判断すると国の規模もスコットランドと大きく違わないという感じね。」

「このデータはスコットランドでも見てるのか。」

「ああ、特に気付いた事が有ったら知らせて貰う事になっている。」

「フィンランドとのファーストコンタクトは何時?」

「画面右上でカウントダウント中だよ。」

「まだお茶する時間は充分有るのね、皆さんご希望は?」


 新たな隣人とも良好な関係を築かなくてはならない、麗子の入れてくれたお茶でも皆の緊張をほぐすには充分ではなかった。


 それでも始まってしまえば…、モニター越しのファーストコンタクトから、対面、それが彼等の記憶を呼び覚ますスイッチとなり、モニター越しの交流へ、といった流れは当初の不安をすっかり忘れさせる程スムーズに進んだ。

 スコットランドとの経験が活かされている。

 ここまでの交流にスコットランドが関係しなかったのも良かった、私達の判断だけで物事を進める事が出来たからだ。

 外交担当の三之助は、今までスコットランドと二国間で進めて来た国家間の約束事などを説明をしている。

 但し、英語を思い出させる事の無いよう、慎重に言葉を選んでだ。


「三之助、フィンランドの人達はどう?」

「皆さんフレンドリーよ、相談の結果、国名はスオミ、Suomiに決めたって。」

「じゃあこれからはスオミと呼ばないとな。

 マリアさまがシステムを変更してくれた新型翻訳機の使い勝手はどうだい?」

「良いわよ、フィンランド語を聞きながら訳を確認してるから良く出て来る単語は何となく分かり始めてる。

 国際電話とか使える様になって一気に多機能になったけど、これはキングがリクエストしたの?」

「ああ、このタイプは三之助が使って問題がなければ、この八人に専用の端末を用意してくれる。

 今まで我々が使って来た電話機は国際通話が出来ないので、現場リーダーに渡してくれて構わない。

 従来の携帯型翻訳機にはフィンランド語が追加されるが、台数は八台のままだ。」

「念の為フィンランド語と日本語しか表示されない様にキングが調整してくれたから安心して使えてるけど、スオミが英語解禁になったら、和訳から英訳に出来るのでしょ。

 その方がフィンランド語の習得が楽だと思うのよ、英語解禁が待ち遠しいわ。」

「スコットランドの時を考えるとまだまだ先のことだろうな。」

「そうでもないの、まだ混乱は残ってるそうだけど、来週にはリーダーグループ八人に来て貰えそうで、その時の感触が良ければ英語も解禁出来ないかな。」

「随分早いが大丈夫なのか?」

「スコットランドの人達から、経験したことを教えて貰ってアドバイスしているのよ。

 私にカウンセリングの才能が有るとは思って無かったから新鮮な驚き、もう記憶のプロテクトとか関係無い筈でしょ。」

「はは、これまでの経験からスキルアップしたのかな。」

「かもね、キング、英語解禁に関してはマリアさまが判断して下さるのかしら?」

「そうだな、相談しておく、マリアも気にしていた。

 我々としてもプロテクト解除の負担が少ない状態で早く交流を進めたい、次に交流する国の事も有るだろ。」

「あっ、そうそう、次の国はドイツ語が公用語みたいよ、端末に予告が出てるわ。」

「ファーストコンタクトは何時頃?」

「一週間後の予定、私が担当しても良いけど。」

「タイミング的に三之助はスオミに集中して貰ってた方が良いと思うわ。」

「ドイツ語が公用語なら私が担当しようか、こちらが少しぐらいドイツ語を理解できても問題ないだろ。」

「そうだな、ドイツ語と日本語しか表示されない新型端末を三郎専用に用意しよう。

 たぶん英語を理解できる人が多いだろうから、スコットランドの出番は先送り、先々を考えたら三郎に頼むのがベストだろう。」

「今後、スコットランドには先方の国情が落ち着いてから動いて貰う事になりそうね。」

「三之助、スコットランドと役割分担の調整が必要だな。」

「ええ、進めておくわ。」


 スオミの人達と英語で会話出来る様になるまでの時間が早くなりそうなのは三之助の功績だと言える。

 先方のリーダーは、慣れないフィンランド語を積極的に使おうとする彼女の好感度が高く信頼に繋がっていると、翻訳機を通して伝えてくれた。

 こちらに来て貰う日程が決まり…。


「私達が改めての自己紹介で過去の職業を公表し合ったと伝えておいたら、スオミのリーダーが彼らの職業を一覧にしてくれたわ、過去のね。」

「えっと…、フィンランド語なのか?」

「あっ、御免、英語バージョンはこれよ。」

「ふむ、我々ともスコットランドとも構成に類似点が見られるね。」

「その様だな…、八重の幼児教育に対してスオミには小学校の教育に携わっていた人がいる。

 管理者はやはり意識的に人を選んで国家を形成したのか…、なあ、彼から学校設立に向けて助言を貰えるのかな。」

「ロック、フィンランドって教育システムがしっかりしてると聞いた事が有るの、始めは人数も少ないのだから協力し合って開校することを目標にして良いと思うわ。」

「そうだな、国同士で補い合って行けると良いね、すでに革製品に関してはスコットランドの職人技に随分助けられているのだから。」

「では、三之助、先方に小学校設立の計画が有る事を伝えておいてくれるか。」

「うん、明日の定時連絡で伝えておくね。」


 学校で何をどう教えて行くかは大きな問題だ。

 保育の専門家は居ても学校教育となると話は違って来る。

 素人なりに考えてはいるが専門家の意見は貴重だろう。

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