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キング  作者: かめ屋吉兵衛
国交
14/50

四 研究

スコットランドとの交流は大きなトラブルもなく進んでいる。

彼の地を訪れた日の夜には…。


「改めてキングのずうずうしさに乾杯したくなったな。」

「セブン、それは褒め言葉なのか?」

「もちろんさ、ジョージは土地を広げるお願いをする時におよその面積を指定したそうだが、キングは?」

「もちろん可能な範囲で最大と言い続けてきた。」

「この無駄に広い城は?」

「キングと名乗るからにはでかい城に住んでやろうと。」

「マリアさまは呆れてなかったの?」

「特にはね、あの頃は他にする事がなかったし。」

「ここでのスタート時、二か国合計百二十八人いた大人達の中で、そう考えたのはキングだけだったのよね。」

「マリアさまは研究と話していたそうだけど、ここまでする必要はなかったよな、スコットランドの規模でも充分暮らして行けるのだから。」

「研究か…。」

「精神状態まで管理されてるから微妙だね、昔の俺はこんなに良い奴じゃなかったよ。」

「いや、ロック、そうでもないらしい、記憶が少しずつではなく一気に戻った事をマリアに尋ねたところ、我々が英語を理解出来るという事が見落とされていたとかで、珍しく謝ってくれた。

 英語が鍵になって記憶が一気に解放されてしまうとは彼らも想定していなかったそうだ。

 で、その時に我々を落ち着かせてくれたのか、と問うたら、そういった事は一人暮らしの時に少ししていただけだと。

 私の記憶に残る昔の自分と今の自分とでは性格すら違うと話したら、環境の変化によるものだろうと話していた。」

「そう言われると、昔はこんなに幸福ではなかった、愛する妻と子ども、そして仲間達、性格が自然に良くなっても不思議ではないのか。」

「老化が進んで死亡した者の事も教えてくれた。」

「なんて?」

「彼等の役割が終わったからだと。」

「役割か、二人ともこの国にはあまり貢献してくれなかったよな。」

「二人は居なくなったけど、その遺伝子は残ったわ。」

「そうか、元々、本人がこのコミュニティに必要だった訳ではなくその遺伝子が研究上必要だったのかもしれないね。」

「実際の所は分からないが、その可能性は否定出来ない。」

「自分がマリアさまの立場だったら当たり前の様に、同じことをしたかもな。

小さな村を作ってあげました、あなた方はどんな村にして行きますか、但し大人しい人ばかりでなく変数としての遺伝子が入っています。」

「大人しい人ばかりなら弱くなるだろう、人格にバリエーションが有ってこそ強いコミュニティーになると思う。」

「それを狙っての事なのか、というより、そんな遺伝子を持った人物をきちんと管理できる体制に出来るかどうかを試されてる一面が有るな。」

「遺伝的要因より環境的要因の方が大きくないかしら。」

「だな、子ども達の環境には最大限の配慮をして行こう。」

「一つの村レベルから二か国に増えたとは言え規模はたかだか村二つよね、でも国家という発想でシミュレーションしながら、外交交渉をして行く事になったのよね。」

「自分達の記憶に残る国家形態、社会経済、その他諸々を見直してみろという状態だよな。」

「私達はマリアさまの研究材料、実験動物かもしれないけど、より理想的な社会環境ってのを人類のDNAで実現出来るのかって、私も研究者として実験に参加している気分だわ。」

「とにもかくにも子ども達に良い環境を…、だがこの問題って難しいと思わないか、理想的に平和な世の中で、さらなる進歩が望めるのかどうか、否、進歩する事が本当に良い事なのかどうかも分からないだろ。」

「物質的進歩ではなく、精神的な進化の道という考え方もあるな。

 普通の生物はただ生存して子孫を残す、本能のまま生きていれば良いが、我々はそれだけでは満足しきれない。」

「人が人として生きる根源的な命題、答えは出そうにないわね。」

「だな、でもまずは集団の形成、言語も習慣も異なる人達と良好な関係を築き上げるという課題が目の前に有る。」

「そうね、まずはそこから考えますか。」


 我々に与えられた特殊な環境はマリア達の研究の為に形成されたものだろう。

 だが、この場は私達にとっても実験研究の場だと言える。

 そう思わせるのは城の住人達の冷静な考察による所だ。


「マリア達の研究は我々の社会が一つのテーマなのだろうな。」

「そうね、まずは個、一人で始まったここでの生活、殺し合わない事を確認した後に八人のコミュニティを形成、この段階でコミュニティによる差が生じた。」

「三丁目と私達とでは雲泥の差だったわね。」

「人選は意図的だったと思うな、二丁目は今ひとつ分からないが、他は得意分野の近い人達が集められている。」

「そう考えると自給自足の苦手な人ばかりで、三丁目はきつかったでしょうね。」

「はは、確かにそうだ、俺達は同じ様な価値観を持っていたから楽だったな。」

「私達の会議って…、私が昔経験した会議は利害関係が複雑だった事も有ってか、すぐ上げ足の取り合いみたいな事になっていたけど、ここのメンバーは常に反対の考え方も意識しているし、相手の意見を尊重してるよね。」

「俺達は意図的に集められた、そして俺達の考え方が、国民にも理解されて国内は運命共同体としてまとまった。」

「それぞれが自分の役割を果たそうと考えてくれる様になったわね、私達はマリアさまの意に沿った考え方をしてる? させられている?」

「マリアさまに認めて貰えたという感じはするかな。」

「さて、ここにスコットランドが関わって来た、どうする? どうなる?」

「基本的には相手を尊重しつつ仲良くするって事でしょ。」

「それには?」

「相手を知る事よね、たかだか数十人の事だから全員と対話出来る、幸い私達は彼等の言葉が分かる。」

「家族単位で昼食会にご招待ってどうかしら、一度に二家族ぐらいなら、こちらの負担も少なくて済むかな、音楽村のメンバーと私達で分担し、おもてなししながら色々教えて頂ければ、今後の対応が楽になると思うわ。」

「麗子の料理を食べながらなら、少し踏み込んだ事まで聞き出せそうだね。」

「その情報を元に人間関係を築いて行けば、より良い社会が構築出来るかもな。」

「特に不満の部分を聞き出したいね、三丁目の連中から不満を聞き出せた事によって今の関係が有る、だが二丁目の連中は未だに微妙な部分が残っているだろ。」

「二丁目の謎はいずれ解明しないと足元をすくわれそうな気がするわね。」

「この際だから、スコットランドの人達をもてなす時には二丁目住人に手伝って貰うか。」

「そうだな、何かの弾みで謎が解けるとまでは行かなくても…、現時点で彼等が不可欠な作業はないし…。」

「再編後の作業効率アップで二丁目住人の責任作業は著しく減ったわね。」

「ロック、二丁目の調査を担当してくれないか。」

「ああ、キングに言われなくてもほっとけない、マリアさまによる大きなトラップだとしたら、スコットランドにも同様の罠が隠されている可能性が有るだろ、ちょっと作戦を練ってみるよ。」


 一人で考えていても気付かない事が、この仲間達から出て来る。

スコットランドの人達との交流と謎が残る二丁目住人の見極めを同時に進める事となった。

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