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キング  作者: かめ屋吉兵衛
国交
13/50

三 外交 

 新たな隣人との交流をモニター越し、テレビ電話だけで続けているのには相手側の事情が有る。

 こちらとは違い、少しづつ記憶を取り戻しているからか、なかなか落ち着かないと言う。

 私達を襲った酷い苦痛を伴う衝撃的な記憶回復よりはましだと思うが、情緒不安に陥ってる者が多いと嘆く代表自身、蘇りつつ有る記憶が整理されなくて戸惑っているそうだ。

 だが、そんな状態でも物事は少しずつ進んでいる。

 その一つは国名。

 今まで王国と呼んだりしていたが、対外的な国名は必要なかった。

 それは彼等も同様なのだが、ある日自分達の国名をスコットランドに決定したと告げられ、端末の画面表示もコロニー26489からScotlandに変更。

 全員がスコットランド出身だと判明したそうだ。

 我々は全員が日本人だが、日本と主張して良いのかどうか微妙だと感じている。

 かつての総人口を考えたら、この人数で日本を名乗るのはおこがましいし、この島が日本だとは思えない。

 仲間達も過去の国籍に囚われず新しい国と考えたいとの意見で一致、様々な協議の結果、和の国とした。

 頭に浮かぶ国名の常識とは少々違うがそんなものは過去の遺物でしかない。

 和を以て貴しとなす、聖徳太子関連のこの言葉から複数の国民が推し、多くの国民が賛同がした。

 国名の由来を子ども達に話す時、この国が永遠に平和で有り続ける事を願って決めた名だと伝えよう。


 暦に関してはこちらで使っていたものをスコットランドでも使用する事ですんなり決まった、先方がこれまで暦を意識して来なかったからだ。

 そして新暦六年五月十六日午前十時に先方の外交団八名を国を挙げて迎える事が決定した。

 もう一度ゲートの機能を確認。

 国家間を繋ぐゲートは双方のキーを解除しないと通れない仕組みになっている。

 相手国の承認なしに足を踏み入れる事は出来ない。


「ゲートのマニュアルによると双方の合意が有れば通行の条件は変えられるという事だね。」

「但し、音楽村のメンバーと私達は、相手の承認が有れば自由に行き来出来るけど他の国民にはやはり時間制限が有る。」

「特権階級という事か…、他の国民は良い気がしないだろうね。」

「マリアさまの方針だから仕方ないが、一般の国民が夜に他国を訪問したくなる様な状況はまだ思い浮かばないし、二丁目以外の人達は当たり前のことと受け止めてくれると思うよ。」

「それもそうだな、さて、歓迎会の準備を進めるか。」


 外交団来訪の日、予定時刻通りに八人の隣人たちがゲートから現れた。

 まずは車で島を案内、その後、城の大広間での歓迎会。

 麗子が中心になって用意した食事と音楽村メンバーの演奏でもてなす。

 彼等は七時間ほど滞在の後帰国。

 帰国時間は滞在時間に関する自分達の特権を国民に感じさせないことを意識して決めたそうで、我々もそれに倣うつもりだ。


 その夜。


「革製品のお土産は嬉しかったわね。」

「作り方を教えて貰うか物々交換という事だな。」

「車に驚いてたな、ジョージは車を管理者にお願いする事など考えもしなかったそうだ。」

「その代わりの馬ってのは悪くないと思う、本当の自給自足に近いからな、誰か乗馬経験有る?」

「私はちょっとだけ、でも三丁目の連中なら喜んで乗り回しそうじゃない、うちでもマリアさまにお願いして出して貰おうよ、キング。」

「いや、スコットランドで手に入る物はもう出さないと言われた、ちなみにマリア達のテクノロジーを使った産物もこれからは提供されないそうだ、自給自足のレベルが上がったという事だな。」

「そっか…、でも木曽馬とか指定したらどうかしら、種の保存とかを理由にして。」

「それは試してみる価値が有る、今度コンタクトが取れた時に頼んでみよう、ただ物に関してマリアを頼る事は出来なくなって行くと思う、蘇った記憶から頼んだ物はほとんど断られた。」

「いよいよ本格的な自給自足になって行くのか。」

「代わりに貿易が始まるのね。」

「スコットランドから革製品や馬を輸入するとしたら、こちらからは何が出せるかな。」

「美味しい料理と音楽村メンバーの演奏、最高の料理人も音楽家も向こうには居ないそうだ、演劇集団は居るらしいが。」

「交流出来る国が増えれば文化面が充実して行くという事かしら。」

「その可能性は有るね。」

「物と物、もしくはサービスと物との交換を考えると、交換レートをどうするかが問題になるわね。

 今は物に余裕が有るから気にならないけど、先々を考えたら何らかの基準が必要にならないかしら。」

「労働時間を基準ってどうかな、細かく計算すると難しくなるけど。」


 今の体制ならスコッランドの住人全員を養う事も可能、マリアがどこかへ転送している量が減るだけだ。

 我々は将来を見据えて、そう、人口が増えた時の事を考えて討論している。

 スコットランドと良き関係を築き上げ協力して行けたらと思う。

 もちろん争い事は問題外。

 スコットランドとの貿易は大きな課題で有り、先を見据え世界のシステムを構築して行く事を検討中。


「今後、他の国家とも係わっていくのなら物々交換ではなく金銭による取引を考える必要が有ると思わないか。」

「そうね、問題は紙幣も貨幣も簡単には作れないという事かしら。」

「今の環境下に於ける通貨の理想は、その物にも利用価値が有って持ち運びが容易、且つ保存に困らない物かな。」

「そんな都合の良い物が有るのか?」

「昔なら米という選択肢も有ったのだろうが、先方は米を作っていない。」

「麦ならどうかしら。」

「すべての価値を麦を基準に置き換えての取引か。」

「相手を信用しての国家間取引なら伝票で良いと思うが、う~ん、この先国家間に貧富の差は生まれるのだろうか。」

「国内では住環境に関しての差は有るが他は平等だよな。」

「国家間でも貧富の差が起きない様にして行きたいわ、争いを避ける意味でも。」

「そうなると共産主義的な形になるのか。」

「現状は私達が特権階級だという事以外、共産主義の理想社会じゃないのかしら。」

「子ども達が、この環境下できちんと上を見て行けるのか、性善説を信じるか否か。」

「過去の世界では大きな失敗を経験していただろ、自由競争による偏った発展や、全てを共有した筈の独裁国家が破綻したりとかさ。

競争で後れを取った人の救済処置や、共有の中で不正対策が充分機能しなかった。

この世界では両国の産物を全員の共有物と出来れば共産主義の理想かも知れないが、それによって労働意欲が低下する恐れが出て来かねない、今は問題なくても将来的にはね。」

「一つのポイントとして国家の規模、他国を含めた世界の規模がどこまで大きくなるのかという事が有るわね、住める所に限りが有るのなら産児制限をしてでも人口を抑制する必要が出て来る代わりに、村落共同体的な社会体制のままで問題ない。

 でも、もっと広い世界が有るのなら、人は本能的に集団の拡大を目指すと思うわ。

 マリアさまの方針はどうなの、キング?」

「記憶のプロテクトが外れてから、少しずつ将来に向けての話はしている、ただスコットランドとの関係がどうなるのかによって流動的だとしか教えて貰っていない。」

「理想はうちとスコットランドとが一つの国になる事ではないかしら。」

「今ならスコットランド地方と和の国地方みたいに出来るかもな、まあ、方言は東北と沖縄以上に違うけど。」

「外交担当と将来設計とかの担当が必要になって来るわね。」

「外交は三之助、国家計画はセブンにお願いしたい、今までの担当はサブリーダーにお任せしても問題ないと思う。」

「うん、俺は賛成、二人はどうだ?」

「良いわよ、経過報告を夕食会でして行くから意見を返してね。」

「国家計画に関しては国民から広く意見を求めるべきだな。」

「ああ、今なら建設的な意見が主になると思う。」


 社会の基盤作り、今の段階であれば試行錯誤がし易いと考えている。

 国の規模が大きくなったり、交易相手国が増える前により良い形にしておきたい。

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