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キング  作者: かめ屋吉兵衛
記憶
10/50

十 記憶

 次のゲートを開ける話はなかなか来なかった。

 私でさえマリアの存在を忘れてしまう程、特別な事のなかったこの期間は、子育ての為にマリアが与えてくれたのかもしれない。

 各コロニーでも子どもが生まれ、私達は子どもの誕生や成長を楽しみながら過ごした。

 だが、生まれ出づる者有れば死に逝く者有り、九兵衛と武蔵が相次いで亡くなる。

 二人とも驚くほどのスピードで老化が進み、九兵衛の最後は面倒を見てくれていた者に何かしら不満が有ったのか、怒鳴りつけた途端苦しみだして息絶えたという。

 これで、大人は六十二名に減ったが、子どもはすでに三十名を超えている。


「子ども達を見てると何となくコロニー毎の特性が出ていると思うわ。」

「へ~、八重はどんな風に感じてるの?」

「城の子達は、言葉を覚えるのがとてつもなく早いでしょ。

 音楽村の子達は音に対しての反応が他の子達とは違っていて、三丁目の子達は運動能力が高いわ。」

「成程、他の子は?」

「五丁目の子達は積み木遊びが好き、六丁目は動物が好きみたいな。」

「あっ、それだと親達の能力を引き継いでいる感があるね。

 でも、まだ小さいから変に決めつけずに才能を伸ばしてやりたいよな。」

「厄介者二人の死と引き換えに環境が改善された二丁目の子はどうしてる?」

「あの親達だから預かる話はして有るけど、今の所、育児放棄までには至ってないわ。

 子ども達には、母親が必要だと自覚しているのでしょう。」

「どのコロニーでも八重に懐いてる子が多いみたいだね。」

「私に懐いているというよりも、年長の子達が下の子を気遣ってくれる環境を作れたと思うわ。」

「うちの三歳児が思いやりの心で下の面倒を見ているのは教育の賜物って事だな。

 八重、有難うな、みんな良い子に育ってる、ただ二丁目の子達はちょっと微妙なのだろ。」

「ええ、遺伝か環境か…、早目に手を打つ必要は有るかも。」

「教育か、どう取り組む?」

「親子まとめて教育しないとね…、子は兎も角、親は難しいかもだけど。」

「子どもの教育という観点から、私が担当しようか?」

「ロック、仕事が増えても大丈夫なのか?」

「ああ、畑の方は俺抜きでも回るからな。

 三丁目の連中がサブリーダーとして定着し、他の連中も自然とそれに従ってる。」

「その余力を子ども達の為に使うのであれば誰も文句は言わないし、そろそろ学校の設立とそのカリキュラムを考え始める時期だと思う。」

「ここの子達は全員俺達の子だ、親はともかく子ども達は幸せに暮らして欲しいよな。」

「それなら幼児期は私が担当という事で良いかしら、二丁目の母親はロックにお任せするとして。」

「問題ない、やはり八重の知識は幼児教育という感じなのか?」

「ええ、微妙に蘇って来る記憶は幼児教育が中心で、算数とかを教えた経験がないみたいなの。」

「算数か、なあキング、そういった情報はデータベースにないのか。」

「最近確認した所ではなかった、マリアはまだその必要がないと考えているのかもしれない。」

「算数だって教え方一つで楽しくもつまらなくもなる、算数は俺が担当するよ。」

「三郎は計算が得意だもんな。」

「得意分野か、他の国民にも相談してみるべきだな。」


 ロックが子ども達の学習プログラム作成に向けて国民の声を聞いた事から思わぬ話が出て来た。


「三丁目の連中からサッカーをしたいと言われたのは驚いたな。」

「ええ、スポーツの事なんて全く頭に無かったわ、言われて思い出しビックリするパターンね。」

「今までの娯楽といえば海水浴と釣り、後は音楽鑑賞と歌を歌う事ぐらいだったからな、ボールさえ有れば城の芝生広場でやれる、子ども達の遊びとしても良いと思うけど。」

「ボールが問題ね、ルールも王国特別ルールにすれば良い訳だから正式なボールでなくて良いのだけど…。」

「大人達と相談だな。」


 相談を持ちかけたところ、八丁目の住人が作れるかもしれないと名乗りを上げてくれた。


「なあ、俺達の知らない事を八丁目の住人二人が記憶していたという事は、他の知識も誰かの脳に有るという可能性を秘めているよな。」

「そうよね、元々六十四人はそれぞれ違った情報を持ってここに集められたのかも知れない、そう考えると二人の死は私達にとって損失だったのかも。」

「まあ、何を失ったのかすら分からないが、残ってる記憶、蘇った記憶を出し合う作業はすべきだと思うし、早急に進めたいところだな。」

「それによって分担の見直しが出来るかも知れないわね。」


 我々の意に反して、この作業は時間を要した、否、あまり成果が上がらなかったと言うのが本当の所だ。

 私達の記憶は何かしらのきっかけが有って蘇って来る。

 きっかけがないと自分が何を知っているのかさえ分からない、それがここの特性なのか人間本来のものなのか分からないが。

 それでも…。


「何かね、昨日音楽村メンバーの演奏を聴いてたら踊りたくなってさ。」

「踊り…、うん、そういうの有った…、でも良くは覚えていないな。」

「難しく考えなくて良い気がする、曲に合わせて体を動かす…。」


 食生活は安定している、だが私達はただ生きている存在では無い。

 音楽を愛し踊りを愛しスポーツを愛する心。

 僅かずつ蘇る記憶によって、少しづつ生活が豊かになっている。

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