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Ex:森羅万象の魔女   作者: 長月
一ノ鍵 アキガワの称号
1/3

前錠 フェルスファーデ

はじめまして、よろしくお願いします。

 陰を落とした深緑の蔦のせいで、館の年期を感じさせる外装が全く見えないのである。せいぜい所々から壁の一部と思われる、錆びた十円玉のような色合いをしたものが見えたりするだけで、廃墟のようにすら思えてしまう。何しろ、門の扉が蔦が絡まって開けられなくなってしまったせいで子供の隠れ家にも秘密基地にも出来ないのだから、地域からも滅法人気がなかったのだ。

 そんな廃墟以下の館の階段上った二階窓際、外からは当然見えもしない場所に、鮮やかに彩られた淵の目立つ鉄の板が鎮座していた。周囲の塵やガラクタの中で一際存在感を放っているものの、しかし彼女は今にも儚く消えてしまいそうだった。否、消えることを望んでいるのだろう。

 どこぞの蔦のせいで長らく光など反射した覚えがなかった彼女は、鏡の役割も果たせず基の館で永らく眠っていた。途中で止めてしまったのだが、彼女が数えたまでは約三百年だそうでーーそれから、いまに至るまで千を越す年月を経過していることは誰にも想像すら出来ないだろう。

 故に、彼女は孤独だったのだ。

 

 ところで、実はこの鏡には名があるのだ。先から鏡のことを"彼女"と呼んでいるのは彼女が「元魔女」だからであり、そのときの名がアルファ・フェルスファーデといったからである。その名を彼女ーーアルファは鏡となった今も、自分のものとして使っているのであった。アルファは西方諸国のアビル語で『始まり』を意味し、これは彼女の両親から付けられたものであるが、アルファの血族は貴族でもなければ大商人でもないので「姓」が存在していなかった。しかしアルファは西方諸国の末端である生まれ故郷を離れ、遥か遠くの東方の地、アブエルンに移住しそこで永遠に歴史に残るであろう偉業を果たしたのである。そして当時の国王から、例外的に「姓」を授かったのだ。

 それが、フェルスファーデ。東方で最も話される言語、ベアレン語でーー

 

 『森羅万象の魔女』を意味する。

 

 

 

 

 さて、本題に移ろう。

 『森羅万象の魔女』もとい、アルファ・フェルスファーデが鏡に封印されてから約千五百年の月日が流れ現在。国家や法や人々が変化するなかで、変わらない伝統を受け継いできたものがあった。例えばアルファが大規模な研究を始めた東方の国アブエルンはその名を変えずに、技術振興都市として様々な技術革新を生み出し続けている。あるいはアビル語やベアレン語といった言語は流行による変化などはあるものの、おおよその基は全く変わっていないまま使われている。

 そしてその一つに、『解錠士』というものがある。

 字の通り開かなくなった錠を開けたりすること、封印された書物や箱を解除することの主に二つを取り扱う職業である。前者は銀錠士と呼ばれ簡単な仕事ばかりで修行も僅か一年ほどで修められるものだが、後者は黒錠士と呼ばれる非常に重要な職で、他国から奪った緻密で複雑な封印がかけてある書物や金箱の解錠を国王から依頼されるようなものばかりである。修行期間も無論長く、その歳月早くとも十年を越える。故に銀錠士は街に五人はいる程度なのだが、黒錠士は世界でも数えるのに両手の指があれば事足りるのである。

 その中の一人に、アキガワという者がいる。彼はアブエルンの国お抱えの黒錠士だが御年六十を迎え早くも自らの後継者を育てていた。彼の弟子は素直で明鏡止水な者が多く、また才覚も持ち合わせており非常に未来が楽しみになるばかりではあったのだが……ある一人の青年が、アキガワの長年培ってきた技術とプライドという勲章を跡形もなく引き裂いた。

 弟子入りしてから僅か三年、その青年はアキガワを越えたのである。

 しかしアキガワは認めるのが癪で「旅をして技術を磨いてこい」という名目で半ば強引に青年を街から追い出した。だがその言葉を真摯に受け止めた青年は世界中を旅し、万を越える鍵を八年間開け続け遂にはアキガワが三日三晩かけてやっと解錠できる難問を十秒で解けてみせる程になってしまったのだ。

 そして青年は今年、師の下へ返ってくることを決めていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

この作品は一章が完結するまではこれ以上投稿しません。へぼ作者が我慢できなくなり投稿しました。

見込みがあるようでしたら、どうかブックマークをお願いします。作者のやる気があがり執筆意欲が上がります(多分)。

最低でも三月上旬にはまとめて投稿します。

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