止まる時間
ここは田中博士の研究所。田中博士は、今しがた完成した、大きさ30センチ四方の銀色の装置を前に、それまでの苦労を思い返し感慨にふけっていた。そこへ水を差すように、助手の鈴木が横から口を出した。
「博士、僕はもう我慢出来ません。早く装置を起動させましょう」
「お前はもう少し空気を読む事を覚えた方がいい。大体お前は…」
博士の毎度の説教が長くなりそうだと察した鈴木は、そこで博士の言葉を遮った。
「わかりました博士。博士の話は後で聞きますから、さあ早く」
尚も急かす鈴木に、これ以上は無駄なやりとりと感じた田中博士は、鈴木への小言は後回しにして装置に向き合った。そもそも、装置をいち早く起動したいのは田中博士も一緒だったのだ。
博士が開発した銀色の箱は、時間を止める装置。この世の時間を一瞬にして停止させる。
田中博士は装置に手を伸ばし、装置の起動ボタンを押した。するとどうだ、壁に掛けられた時計の秒針は止まり、周囲の音や気配は一気に消え失せ、辺りを静寂が支配した。助手の鈴木は研究所の窓を開け、外の様子を確認すると興奮した様相で博士に言った。
「博士、見てください。装置は完璧だったようです。空を飛んでる鳥も、道を走る車も全てが止まっていますよ」
だが、鈴木の報告に何故か田中博士は気落ちし言葉を洩らした。
「残念ながら装置は失敗だ。我々が動いている」