第1部: 第1話 始まりを告げる声
水中から水面を見上げると、まばゆい太陽の光が、ゆらゆらと波打っていた。
水面から顔を出すと、視界はいっきに明るくなる。真夏の南国の太陽が容赦なく背中を照りつける。
「やっぱりこの季節の海は最高だね」
イオは浜辺に座っている友人、トルティカに言った。顔にまとわりついた長い栗色の髪を、うざったそうにかきあげながら。
「そりゃあ夏のこの時季、日中は45度近いんだもん。海中はまさに天国だよね」
ここ、リーゼン国は、世界のかなり南方に位置する小国である。
そのため夏の日中の暑さはひどい。イオやトルティカのように多くの人が、涼しさを求めてこうして海水浴にくる。海の近くに家を建てる人も多いのだ。
そのくせ夜は寒い。寒いと言っても普通の気温なのだが、昼間の気温との差が大きくて、寒く感じる。
イオは今日、この海に隣接するトルティカの家に遊びに来ていた。
イオの両親は数年前亡くなった。悲しくはあったけれど、寂しくはなかった。イオの両親の友人であったトルティカの両親が、イオを本当の家族のように可愛がってくれたからだ。
だからイオにとってトルティカの家は我が家のようなもので、トルティカは年子の姉のようなものだった。
「イオ、母さんが果物切ったって。食べる?」
「食べる食べる!」
ザバッと海からあがり、トルティカが差し出してくれたタオルに身を包む。
陽光の反射する白い肌が、眩しかった。
イオの肌は白い。それは、イオがこの国の出身ではないことを表している。南国では普通、トルティカのように肌は褐色なのだ。
自分の出身国はどこなのだろう。それはイオの中での大きな疑問点だった。それを尋ねる前に両親は亡くなってしまったし、両親以外の家族は知らない。いないのだと思う。尋ねるとしたら、後はカルディナの両親だろう。
「……?」
「イオ?どうかした?」
「ううん…何でもないよ。行こう」
視線を感じた。けれどその視線はすぐになくなった。だから気にしないことにした。
「やっと見つけた」
ぼそりと呟かれたその声に、イオは気づかなかった。