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7、聖女様と呼ばれ始めました。

「姫巫女様、ご機嫌麗しゅう。お会いできて光栄です。」

「こちらこそ、お会い出来て嬉しいです。」


私はそう言って、どうにか作り笑いを浮かべる。

相手は初老の身分の高い男だった。

彼は崇拝でもするかのような熱っぽい眼差しでこちらを見ている。

それに酷く息の詰まる物を感じながらも、相手の話に適当に相槌を打つ。


酷く熱心に話しかけてくる男をあしらいながら、つらつらと思考に耽る。


儀式の一件以来、私は聖女の再来と囁かれ始めた。

元々、こちらの世界の住人ではないと言うのも手伝って一気にそれは信憑性が増した様だ。

それから、私は何処かの宗教の教祖か何かの様に沢山の人に面会を求められる日々が続いていた。


その年齢層や階級は様々で一見して、取りとめのない様にも見えた。

一致しているのは、私をただの女子高生とも知らずに必死に縋りついて来るような眼差しだけだった。


瘴気を祓う儀式も並行して行われており、それらは順調に成功して行った。


苦しんでいた人々が助かるのは私も嬉しかった。

それでも家族や当人達に涙ながらに感謝されるのと同時に後ろめたさを感じざるを得なかった。


何故なら、儀式を成功させるたびに、

私の名声が高まると同時に、儀式を受けるために額が急増した献金で教団の懐は潤ったからだ。


儀式が献金の高い順に受けられる事を知った私は正直な所唖然としてしまった。


儀式をうける大多数の人達が裕福な人達で、

少数の貧しい人達は親戚中から掻き集めたお金でやっと儀式を受けられるケースが殆どだった。

儀式は金銭に関係なく受けられるようにしたらどうかとキートに意見したが、

アレは皆の気持ちだから蔑にする訳にはいかにと一蹴されてしまった。

所詮、余所者の私はそれ以上抗議する事も出来ずに引きさがる事になった。


力を貸すのはいい。


それでも私の事を穢れのない様な存在として見られるのは鳥肌が立った。

只私は特殊な能力を持ってしまっているだけで、何処にでもいる様な人間だ。

行き場所がなくて、人を助けるのと同時に教団のお金儲けに協力しているのに過ぎない。


私の事をいかに崇拝しているかと言う事を話しているこの男に、

ただの平凡な女の子だと言う事を伝えたら、どのような顔をするだろう。


そんな事を考えている内に大きな鐘の音が鳴った。

これで、面会時間は終了の合図である。

最後にと、男は口を開いた。


「来月、子供が一歳になります。彼の幸いを願ってくれませんか。」

「…貴方のお子様の行く先に加護がありますように。」


そうして面会は終わった。

聖女様としての役割をこなす自分に疑問を覚えつつ、今日も時間が過ぎて行った。


「何か悩みでもあるのか?」

そう、クレイグに声を掛けられたのは古城の図書館で一緒に元の世界に帰る方法を探している時だった。

お互い忙しい身の上だが、こうして時間の合間を縫って調べている。

この時以外にしっかりと彼と話す時間もないので密かに楽しみにしていた。


「どうしてそう思うの?」

「只の勘だが…。最近考えに耽る事が多くなっただろう。」


当たりだ。

クレイグは野生の勘染みた物を持っている。

それとも、騎士と言う生き物は皆そうなのだろうか。


「大したことじゃないわ。儀式は上手くいっているし、それで人が元気になるのは嬉しいもの。」

「そうなのか?」

「喜んでいない様に見える?」

「いつも澄ました顔をしているからな。」

「キートに注意されたの。最初の儀式の時に取り乱した事を。」


私は嘆息して、長い間部屋に彼と二人きりで叱責をされた事を思い出した。

正直な所、あんな目には二度と遭いたくない。


「あの男はなんと?」

クレイグは目を細めて心配そうに私を見た。

僅かに距離が近くなった事を実感しながら私は返答した。


「貴方は周囲の希望になる立場ですから、いつも超越的に振る舞う必要があります。

決して取り乱してはいけませんよ。大体こんな感じだったかしら。

私は中身は只の普通の人間なのに。」

「それで、安心する人間もいる。ある程度割り切る事も必要だ。」


クレイグの淡々とした言葉は私のささくれ立った内心を慰撫した。

誰にどんな綺麗事を言われるよりも不思議と説得力があった。

教団の資金源となる以外にも私が聖女らしく振る舞う事に意味があるなら頑張れそうな気がした。

縋りつく様な視線には未だ慣れないが、何時か正面から受け止められるようになる日も来るのだろうか。


「アケミ。」

「うん?」

本を読みながらだったので返事をするのが遅れてしまった。

ちなみにあのペンダントは言葉だけではなく、

活字にも有効だったようで見知らぬ文字もすらすらと読める。

 

「人が助けられるのが嬉しいと言ったな。」

「ええ、それは本当よ。嘘ではないわ。」

「だったら、ここに残る事も考えたらどうだ。」


一拍の静寂が私達の周りを包んだ。

私はクレイグが何を言っているか分からなくて黙ってしまった。


「私は元の世界に両親や友達がいるのよ。彼らと一生会えなくなる。」

「両親からは、いずれ独立するものだろう?

こちらではアケミに年頃なら結婚して子供がいても可笑しくない。友人はこちらでも作れるだろう?」


彼の瞳は私をまっすぐに見据えている。

それにどう返答するか口籠ってしまった。



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