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6、初めての儀式に挑戦して見ました。(後編)

私が壇上に上がった後、再び扉が開く音がした。

深くフードを被っているので容姿は分からないが随分小柄な人物であると言えた。

この人物が瘴気に侵された人なのだろう。

事前の説明で進行を抑える事は出来ても完全に払う事は出来ないと言う事を知っていた。

聖句を唱えた上で水で手を清め、患部に触れる。

そうする事によって、体内の瘴気が沈静化するのが他人にも分かるのだそうだ。


イメージが膨らまないが、ぶっつけ本番でやるしかない。

これに成功しないと後がないのだ。


私のそんな思考はすぐに打ち切られることになった。

瘴気に侵された人物が私の目の前まで来てフードをパサリと取ったからだ。


その人物は10歳ぐらいのほんの子供だった。

美しい金色の髪に印象的な青い瞳が天使の様で、

顔の一部や腕などの服から露出している部分は包帯が大量に巻かれていた。


彼女は躊躇することなく包帯をシュルリと解いて行った。

はらはらと次々に包帯が床に落ちて行く様がまるで雪の様だった。


包帯の下に熟れ過ぎた果実の様な腐り落ちた皮膚があった。

ツンとした匂いがこの事を現実であると言う事を伝えている。

子供らしい白く柔らかな皮膚の隣に発症していた事が逆に酷く痛ましさを感じさせ、


ふいにその子と目が合った。

彼女は何もかも諦めた様な眼差しでこちらを見ていた。

その年と不似合いな瞳が今までの葛藤や苦しみを何より表していて、胸に突き刺さった。

衝動的に私は儀式の手順も何もかも忘れて駆け寄ると、その折れそうに細い体を抱きしめた。


腕の中の女の子は人形の様に黙ったまま動かない。

それに物悲しさを感じた瞬間、体に火を付けられた様な熱さを感じた。

それから、吐き気をともなく目眩を感じながらも視界が徐々にぶれていく。


最後に私の名前を呼ぶ誰かの声を聞きながら、意識は暗転した。


「目が覚めたのか。」

クレイグの声で完全に意識を取り戻した。

教団内の私の部屋のベッドの上で寝かされていたらしい。


そうだ、彼女はどうなったのだろう?

あの子供の事を見た瞬間に自分の利害などどうでも良くなってしまった。

儀式を行うのだけでは駄目だと言うのが本能に近い所で叫んでいた。

何をすればいいのかも分からずに咄嗟に抱きしめたのだが…。


「あの女の子はどうなったの?」

「それが最初に聞く事か?もっと他に質問する事はあるだろう。」

クレイグの呆れたと言わんばかりの様子に私は頭に血が上るのを感じた。


「いいから答えて!」

私の甲高い声が部屋に響いた。

その反響音を聞きながらも、彼が口を開くのを待った。


「あの子供は助かった。」

「え?」

一拍、クレイグが何を言っているのか分からなかった。

奇妙な静寂が私達の間を包んだが、すぐに彼が熱っぽい様子で私の肩を掴んだ。


「瘴気を完全に払ったんだ、貴方は。子供はすっかり健康体で何の異常も見られない。

儀式を成功させたどころじゃない。何十年も修行した巫女が出来ない事をやってのけた。

おかげで教団内では大変な騒ぎになっている。慈悲深い聖女様が奇跡を起こしたとな。

一体どんな手を使った?」

「分からないわ。ただ、あの子を助けなくちゃって言うので頭が一杯で…。」

「気が付いたら体が動いていたと言う訳か。」

「多分、そうだと思う。」


クレイグは私の肩を掴んでいる手に更に力を入れた。

痛みを感じて、一瞬顔を顰めた私に頓着せずに話を続ける。


「子供とは知り合いだったのか?だから外聞も憚らずに助けようとした?」

矢継ぎ早にされる質問に慌てて私は答える。

彼が何かを訝しがっている事が分かった。


「初対面よ。だけど、子供が辛い目に合っていたら誰でも助けようとするでしょう?」

「貴方の世界ではそれが常識なのか?見知らぬ他人の為に力を振るい、昏倒まですることが?」

「何故、そんなに糾弾されなくちゃいけないわけ?儀式は成功したのでしょう?」

「ああ、成功したさ。これ以上ないぐらいにな。

 聖女が表れたと儀式に参加した連中は触れまわっているだろう。それはここにとっても有益な事だ。」


だとしたら、クレイグは何を怒っているのだろう。

いや、これは怒っていると言うよりも…、


「クレイグ、何を戸惑っているの?」

私がそう聞くと、肩を掴んでいた手から力が一気に抜けるのを感じた。

そうして、彼は大きく溜息を吐くと冷静さを欠いた振る舞いだったと謝罪された。


私は黙って首を振った。

クレイグとは育ってきた環境は余りにも違う。

儀式で私が取った行動が彼の何かしらの琴線に触れてしまったのだろう。


恐らくは過去に何かあったのかもしれない。

しかし、ここで踏み入ったとしても話をしてくれない。

クレイグは出会ったばかりの他人に気を許す様なタイプの人間ではないように見えた。


「私がここを抜けたした晩に、貴方が斬ったのは元々は人間だったモノなのね。」

「ああ、瘴気が進行すれば最終的にはあのようになる。」

「そう。」


だとしたら、私の力がこれだけ歓迎されるのも分かった気がした。

瘴気に侵された本人やその家族達はこれから死に物狂いで私の事を求めて来るだろう。


それは夢想でも何でもない、ただのこれから起こりうるだろう現実だった。

作中の症状は現実の病状とは、

一切関連性がないと言う事をご了承頂くようお願い申し上げます。

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