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4、騎士に協力を要請しました。

それから暫く、私達の間には沈黙が横たわっていた。

クレイグは記憶を辿るようにして口を開いた。


「昔、この国に異世界からやってきたという女性がいたそうです。

彼女は群を抜いた力を持っており、瘴気を静めることすら成功したのだとか。

その女性は偉業を讃えて姫巫女と呼ばれた。

現在では、最も力の強い巫女に贈られる敬称になっていますが。」

「それで、その人はどうなったの!」

森の中に私の声が大きく響いた。

彼に掴みかある勢いで私は一気に距離を縮めた。

その女性がどうなったかと言うのが酷く気になったのだ。


「役割を果たしたことで元の世界に帰ったのだと伝えられています。」

クレイグは素っ気ない口調でそう続けた。


彼が話してくれた内容が本当だとしたら、私も元の世界に帰れるかもしれない。

やっと光が差してきたように感じられて少し呼吸が楽に出来るようになる。

しかし、それでもそれは途方のない話に聞こえた。


「私にも瘴気を鎮静化をしなくてはいけないと言うこと?

そんな大きな事をしないと元の世界には戻れないの?」

「分かりません。」

まるで他人事のように言葉を呟いた彼を咄嗟に嘘を吐いたのかと思いっきり睨みつけた。

そうするとクレイグは嘆息をして話し始めた。


「今、お伝えしたのは既に伝承の中のお伽噺の様な話です。

ただ、異世界の住人を名乗る女性が100年程瘴気を静めた事だけは確かです。

どうやって静めたのか、その方法すら確かではありません。

しかし、彼女は現在に至るまで聖女の様に崇められている。」

「私もその女性の様になる事が期待されているのね。だから、あんなにも高待遇だった。」

そう呟くと彼はパチパチと手を叩いた。

そうしてクレイグはニッコリと胡散臭い笑顔になった。


「正解です。貴方は聖女の再来になると目されているのですよ。」

「…分かったわ。」

そう返すとは意外だったのか彼は軽く目を見開いた。

そんな彼に私は穏やかな微笑みを返した。


「私に強い巫女としての力がある。これは確かなのね?」

「ええ、キートは無駄を嫌う男です。でなければ、貴方を保護しようとは思わなかったでしょう。」

あの老人はただの好々爺ではなかったらしい。

まあ、組織のまとめ役だと言う事を考えれば当然の話だった。


「貴方達の所に所属をして、この力を使ってあげる。

だから元の世界に戻れる方法がないか、一緒に探してくれない?」


一拍の静寂が夜の空間に響いた。

クレイグは未知の生物を見た眼差しでこちらを見ている。


「何故、命令しないのです?」

「命令?」

「私はアケミに仕えております。こうしろと強く言われたら逆らえない。」


そもそもの考え方が違うのだと言う事を私は悟った。

でも、私にクレイグが仕えてくれているのはあの教団に言われたからだろう。

よく知らない場所で信頼出来る人間のいないままに生きて行くと言うのは致命的な事だ。

私は彼との距離を縮める為にも対等な対人関係を築きたかった。


「貴方の意思を尊重したいの。だからこれは私の只のお願い。」

「変わった方だ。」


それは異世界人だから当然である。

この時、私は知らなかったのだ。

この時の言葉がクレイグにどんな風に響いたかなんて。


「いいでしょう。お手伝いいたします。」

「ありがとう。」


私がそう言うと、

彼は軽く目を細めて黙って頷いた。


考えてみればクレイグとまともに話したのはこの時が初めてだった。

血塗れの私と狼の様な金目をした彼が向かい合っていて近くには化け物の亡骸が転がっている。


ロマンチックさとは程遠い殺伐さだが、

後から考えてみると私達主従には似合いのシチュエーションだったかもしれない。


この後、私達は黙って黙々と歩いて古城まで戻った。

血塗れだったの格好だった私はクレイグによって、

内密に呼び出された女官によって再び風呂に入れさせられた。

全てが終わった後、部屋に戻った私は全てが夢だったらいいのに思いつつも深い眠りに就いた。


翌日、キートから呼び出された私は力を貸す事を承諾した。

彼は黙って頷き、これからの事についての説明を始めた。


「姫巫女殿には瘴気に侵された人間を祓う儀式を執り行ってもうらことになります。

儀式の手順は教育係を付けましょう。これから忙しくなるので、ご覚悟頂きたい。」

そう言うとキートはこれから儀式を執り行う具体的な日時を決めるために、

会議を開くと言って行ってしまった。

その様子は怜悧な実業家を連想させ、今までの只の優しそうな老人と言うイメージが覆る事になった。


それから私は年嵩の女性が付けられて儀式の手順を記憶するのに必死になって行った。

とても元の世界に変える手段を探す所ではなく、瞬く間に毎日が過ぎて行った。

正式な儀式の日程が決まったと言う知らせを受けたのは、手順を一通り覚えた矢先のことだった。


実行日は3日後。


私はその日に備えて肉を食べる事を禁じられた。

失敗しない様に空いた時間は、

教えられた儀式の内容を紙に繰り返し日本語で書きながら過した。


儀式の実行する日は刻々と近づいていた。

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