表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

28、地下牢に行く事にした。

聞いた噂が本当かどうかは分からない。

それでも、エルキーの事が心配で行動を移さずには居られなかった。


私は地下牢に行く事を心に決めた。

決行は深夜にすると決めて、怪しまれない様に何時も通りに振る舞う事を決めた。

こちらの世界にやって来てから、これだけ夜が訪れるのを待ち遠しく思った事がなかった。


やがて、日が暮れて就寝の時間になった。

部屋のすぐ近くに配置されている警護の人の交代を見計らって抜け出す事にし、

いつもと同じようにベッドの中で眠ったふりをしつつ、ただ時間が過ぎるのをまった。


そうして、僅かに開けておいた扉の外から足音が聞こえると私はベッドから外に出た。

万が一、部屋の中を覗かれた事を考えて布団を丸めて人が寝ているように見えるように工夫をする。

クローゼットの側に行くと出来るだけ目立たない様な黒のローブを取り出して身に付ける。


ドアを開けると誰も居なかった。

私はだれにも見つからない様に足を潜めて地下牢へと急いだ。


地下牢に行く道順は既に把握をしている。

迷うことなく最短距離で地下牢に通じる階段に足を運ぶ。

地下へと続く階段は真っ暗闇となっていて、一足先もよく見えなかった。

壁伝いになりながらも踏み外さない様に気を付けながら、ゆっくりと歩いて行く。


カツン、カツン、カツン、

微かに響く自分の足音だけが聞こえる。

ホラー映画にでも出てきそうなシュチュエーションであるが怖くはなかった。


生きている人間の方が怖いと言う事を知ってしまっているからだ。


カツン、


どうやら一番下に辿り着いたようだ。

手探りである筈のドアを探している内に冷たい物を掴んだ。

それをゆっくりと前に引くと、ギイイイィと錆びた金属特有の音を響かせながら扉が開いた。

それもその筈、この扉は何十年も開けられていなかった筈だからだ。

ここが実際に使われたのは教団がこの城を購入する前の事だと聞いている。


独房に小さく開けられた格子付きの窓から微かな月明かりが射している。

瞬きをして目を慣らすと一番奥の所に人影がいる事が分かった。

恐らくあれは…。

気が付いたら私は走り出していた。


それは紛れもなくエルキーだった。

手錠を嵌められているらしく後ろに手を回して座り込んでいる。

眠っているのだろうか、頭が下がっていて微かに上下していた。


「エルキー、」


その声に反応したように彼は顔を上げた。

私の事を信じられない者を見たかのようにぽかんとした顔で見てくる。

あれだけ身だしなみに気を付けていた彼がやつれているのが分かり、私の胸を軋ませた。


「聖女殿?」

「ええ、私よ。それより、どうしてこんな事に。」

「…下さい。」

「え?」


その声は掠れていて、よく聞こえなかった。

反射的に聞き返すと今度はエルキーがはっきりした声で言った。


「お逃げ下さい。ここの連中の手の届かない所に。

力は出来るだけ使わないようにしないと、すぐに嗅ぎつけられる。」

「何の話?」


私は眉を顰めた。

何の事だか本当に分からなかったからだ。


「貴方は騙されているんだ。」


それは絞り出すような声だった。

それと同時に後ろのドアが開けられる音がした。


ダノだった。

彼はこちらを見ると静かに近寄って来た。

その目が酷く冷たい事が分かり、私は自然と一歩下がった。

ダノは私の事を手離すまいとするかのように私の手首を握った。


「聖女殿を離せ。」

エルキーの声音が狭い地下牢の中に響き渡った。


「困りますね。このような時間に出歩かれてわ。」

まるでダノはいつもと同じような声音で淡々と言った。

それは酷く異様な様に見えた。

怯むまいと腹に力を込めて、質問をする。


「ダノ。エルキーは、私の騎士はどうしてこんな所にいるの?」

「ああ、ご心配をされてこの様な場所まで足を運ばれたのですね。

この男は流行り病に掛りましてね。訳のわからない事を口走っては周囲の人間に危害を加えるので、

専門医が来るまでここに居てもらう事になったのですよ。」

「よくもそんな事を。」


怒りをあらわに喰ってかかるエルキーは彼の言った様には見えなかった。


「本当に?私はそんな風には見えないわ。」


嘘を吐かれたらすぐに分かるように、ダノと目を合わせて聞く。

そうすると彼は大きな溜息を吐いた。


「分かりました。お話しましょう。」


ダノにそう言われて、私は気を緩めてしまった。

次の瞬間には腹部に痛みを感じて、視界が暗転してしまった。


気が付いたら、見知らぬ部屋だった。

恐らくは、城内に無数にある客室の何処かだろう。

室内の様子は整っており、貴人の部屋だと言っても納得してしまったかも知れない。


しかし、部屋には窓が一つもなかった上にドアにはかぎが掛っていた。

備品としてあった椅子を何回かドアにぶつけて見たものの、一向に破られる様子はなかった。

私を殺すつもりなら、そこでしていた筈だ。

今こうして息をしていると言う事は、向こう側には私に生かしておく理由がある筈だ。

このまま過ごしていれば、いずれかのタイミングで必ず接触が図られる様に思う。


仕方がないのでそれをじっと待つしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ