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27、違和感のある現状と居なくなった騎士

こうして暫くの間私は強制的にキートに休養を取らせられる事になった。

周囲には外に出る事は止められていたので、部屋で本を読んでいる事が多かった。

一日に何の予定も入っていない毎日は贅沢でもあり、退屈でもあった。

抜け出そうにも部屋の外に数人護衛兵の人が配置されているので、大人しくしているより他はなかった。


この私の生活は教団専属医に体に問題がないと診断されるまで続いたのであった。

医師の報告を受けたキートから少しづつ通常業務に復帰する事を許され私は私の日常に戻って行った。


あの事件の前と私のする事は大して変わらない。

儀式の執り行いに加えて、貴族や有力者たちに対する顔見せも行う。


決定的に違うようになったのは私に対する目線だ。

その熱のこもった様な盲目的な視線は以前よりもずっと熱量が増していた。

前の物とは比べ物にならない様な大きな期待が真剣に掛けられるようになったのである。


すなわち瘴気の鎮静化だ。


調査に関してはキートに一任している事もあって、

何処か自分がそんな事を出来ると言うのは信じられなかった。

ここの世界でもほぼ伝承と化している様な事を私がする事が出来るのだろうか。


そんな事を悶々と考えながら、日々は過ぎて行った。

私は周囲から与えられるプレッシャーや瘴気の鎮静化を出来るかと言う事に囚われ過ぎてしまっていた。

だから気が付かなかったのだ。

私の護衛のためとは言え平常時にしてはやけに護衛兵達が多いと言う事を。

それらが全員、キートの息の掛ったものだと言う事も疑問には思わなかった。

キートは何を考えているか分からない男だが、

私を利用する事はあっても危害を加えることはないと考えていたからだ。


しかし、とうとうある日私の目にもはっきりと分かる形で異変が起きたのであった。


コンコン、と部屋がノックをされていつもの様に私が返事をする。

儀式を行う時は私を迎えに来るのはエルキーの役割でそれは覆る事がなかった。


しかし、ドアを開けた向こうにいるのは見知らぬ大柄の男だった。

やや癖のある茶髪に緑の目を持っている彼に見覚えはなかった。

私が訝しそうな顔をしたのが伝わったのだろう、男は丁寧に一礼をすると挨拶をした。


「お会いできて光栄です、聖女様。私の名前はダノと申します。

エルキー殿に火急の用事は入りまして、代わりに騎士としての役割を果たせて頂きに参りました。」

「…そう。よろしくお願いするわ。」


それはどう考えても不自然な事だった。

エルキーは復帰したての私の事を酷く心配していたし、基本的に傍を離れる事をとても嫌がった。

事件の時に別れてしまったと事を悔いているらしく、あの時の二の舞はごめんだと酷く意気込んでいた。

あの時の行動は自分で決めたことであり、私に全面的な責任があると言っても聞かなかったくらいだ。


それに彼は私を主君としてとても執着していた。

それは恋情や庇護欲や他の物がごちゃ混ぜになった感情で1日2日で変わる様な物ではなかった。

そのエルキーが私に一言もなく消える何ている事は有り得なかった。


ダノに詳しい追及をしなかったのは、口を割らないだろうと思ったからだ。

一見して彼は何処か寡黙で事務的な冷たさを漂わせている男だった。

こう言った人間に警戒心を持たれるのは厄介だった。


エルキーはとても目立つ男だ。

それがいきなり居なくなれば人の噂になる。

口の軽い人間から聞き出した方が余程楽だろう。

しかし、ダノは有能な男で私の傍から離れようとしなかった。

これでは迂闊に周囲の人にエルキーの話題を振りかける事も出来はしない。


そこで儀式が恙無く終わり、後は部屋に戻るだけと言う段階になって人芝居打つ事にした。

私は廊下にあるいている最中に口元に手をやって、座り込んだ。

当然の様に周囲にいる護衛兵達は動揺をしてざわついた。

只でさえ、私は色が白くて線が細い。

気分を悪そうにしていて疑われることはないだろう。

ダノがその体を屈ませて、話しかけてくる。


「如何されましたか。」

「ごめんなさい、急に目眩がして。部屋に薬があるから取って来てくれない?

近くの部屋で私は休んでいるわ。」

「畏まりました。」


私の部屋には本人が不在だと傍付きの騎士などの有力者がいないと他の人間は入れない。

この例外は私の部屋付きになっている少数の女官たちだけだ。

私の命令に従って、ダノは駆け足で部屋の方向に行ってしまった。


「そこの貴方。支えてくれるかしら。」

「自分がですか?」

「ええ、お願い。」


まだ年若い青年に声を掛けると、裏返った声が返って来た。

想像通りのリアクションである。

この人もキートの管理下にいるのだろううが、何処か純朴で好感を持っていた。

部屋に着くと彼以外の人間は外で護衛を命令して二人きりになった。

元々密談用の部屋だった事もあって、木製の扉はとても分厚い。

これなら、外に声が漏れる心配もないだろう。


私が大袈裟にソファに凭れかかると案の定青年は心配したように駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか。」

「ええ、横になっていれば平気よ。優しいのね。」


穏やかに微笑むと彼は少し顔を赤らめたので、罪悪感が疼いた。

それを振り切って話を続ける。


「エルキーもこうやってよく心配をしてくれたわ。」

「ああ、彼は私の憧れだったんです。」

「そうだったの?」


これは好都合だ。

私は怪しまれない様に声を小さくしながら話を続けた。


「エルキーは何処に行っちゃったのかしら。急に居なくなっちゃった。」

「ご不安ですか?」

「少しね。」


私が軽く微笑むと青年は意を決したように話し始めた。


「実は妙な噂を聞いたんです。」

「噂?」

「地下の牢屋でエルキー殿の姿を見たと言う。」

「そう。けど、噂は噂よね。そんな事ある筈ないもの。」


そこで会話が途切れて沈黙が横たわった時に、ダノが戻ってきたのだ。


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