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2、突然の事態に混乱しました。

私が脱衣所に上がると、女官がわらわらと寄って行きた。

新しい服らしき物を持っている所を見ると身支度を手伝ってくれようとしているのだろう。

小さな子供ではないので自分で服ぐらいは着る事が出来る。

謂われのない高待遇を受けるのも不気味だった。


「あの、服を置いておいてくれれば自分でやりますから。」

私がそう言うと、女官が首を傾げた。

如何やら日本人ではない彼女と意思疎通が出来ていないらしい。

しかし、お風呂に入る前には言葉が通じていた筈である。


女官の口から零れたのは私が聞いた事もない言語だった。

ひょっとして湯上りで一時的に耳が可笑しくなっているのだろうか。

取り敢えず手元にあった渡されたペンダントを取り、

身振り手振りでコミュニケーションを図ろうとした時だった。


「どうかされましたか?」

さっきまでが嘘のように女官の言葉が理解できた。

この不思議な出来事に私は内心首を傾げる事になった。


女官たちに貴族が着るのかという様な白の礼服に着替えさせられた後、城の最奥の部屋に案内された。

彼女達によるとこの城に最初に来た人は必ずここのトップに挨拶するという決まりがあるらしい。

お世話になった身で昔からの習慣と言うそれに逆らうことも出来ずに従う事にした。


そうして案内された部屋には二人の人間がいた。


「姫巫女殿、お待ちしておりました。」

そう言葉を放ったのは人の良さそうな老人だった。

深く澄んだ青色の目を持った彼は簡素な黒を基調とした服装をしている。

もう一人の人間は私を助けてくれた金目の男だ。

彼は軍人の様に背筋を伸ばして立っている。


姫巫女。

その言葉が私を指しているのが分かる。

額に汗がじわりと湧いて来て堪らなく嫌な予感がした。


「あの姫巫女というのは…。」

「貴方の事です。名乗るのが遅れましたね、私の名前はキート。

ここの取締役を行っております。後ろの男はクレイグ。これから貴方付きになる騎士になる予定です。」

クレイグと呼ばれた金目の男は私と目が合うと静かに頭を下げた。

この老人も彼も年下の私を酷く丁重に扱う。

疑問だらけで何から聞いていいのか分からなかった。


「貴方には今まで生きていたのとは違う世界に来たのだと言う事を理解して頂けなくてはいけません。

突拍子もない話だと思われるかもしれませんが、どうかご理解いただきたい。

これは数百年に一度の奇跡なのです。」

頭がくらくらした。

ここが特殊性の強い場所だと感じていたがこんな話を持ち出されるのは計算外だった。 

私が黙りこくっているのを話を理解しようと努めていると言う風に受け取ったのかキートは話を続けた。


「ここの世界には瘴気が蔓延しております。それが引き起こす悲劇を抑えるために沢山の巫女が動いています。

貴方はその中で極めて強い力を持っている為に目を付けられてこちらの世界に招かれた。

姫巫女というのは巫女たちの中でも最も力の強い人間に与えられる称号の様な物です。

貴方が召喚されたと言う宣託を受けた私達が迎えに行かなければ危険な目に合っていた事でしょう。」

「何に目を付けられたと言うんですか?」

酷い頭痛をこらえながら私は彼に向って尋ねた。

まるで漫画の世界の様でちっとも現実味がなかった。


「名前すら持たない、瘴気に侵された獣達にです。」

キートは何処か遠くを見つめながらもそう返答してくれた。

それから暫く間をおいて、彼は話を続けた。


「貴方は歴代でも類を見ない力を持つ姫巫女の筈です。

私達の力は小さく、助けを求める声は余りに多い。貴方の力をお貸し頂きたい。

元の世界に帰る手段が見つからない内はずっとここで衣食住を提供させて頂きます。よろしいでしょうか?」


極めて真剣に語っている彼の話しぶりから察するに私の事をからかっていると言う訳でもなさそうだ。

それだけにこの説明を受け入れ難く、私は返事をすることも出来すに体調不良を申し出た。

するとクレイグは私に対して使用できる部屋を案内してくれると言ってくれた。

それは有り難く受け入れる事にした。


何もかもが異様な事態の中で独りになるのが不安だったのだ。

部屋を出る時にキートは話に声を掛けてきた。


「姫巫女殿にとって突然の事態であることは承知の上です。今晩はゆっくりと休むとよろしい。

ですが、ここが現実であると言う事を受け入れてもらいたい。

貴方はペンダントがないと言葉が通じなかったのではないのでしょうか。それが何よりの証拠です。」

私は自分の考えを見透かされていた事に背筋に寒気を感じた。

それと同時にごく普通の老人だと捉えていた彼が、

急に得体の知れない存在になったかのように思った。


そうすることで私はキートの言葉に耳を閉ざしてしまったのだ。


クレイグが案内したのは最上級の部屋だった。

部屋の隅々まで手が掛っているのが分かる贅を尽くした部屋だ。

明らかにただの客室ではなく、彼等の言う所の姫巫女様の使う部屋に相違なかった。


それを考えると酷い圧迫感が私を襲った。

深呼吸をして無理矢理に気分を落ち着かせるとこれからどうするか考え始めた。

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