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序章1
暗い路地を走り続ける。雨が薄い衣類に染み込み足取りを重くするが、それでも足を止めるわけにはいかなかった。
背後から少女を追ってきた大人達の怒号が聞こえるたびに恐怖で足が震えて、ともすれば立ち止まりそうになるのを必死で耐える。
(…っ、にげなきゃ…。はやくにげなきゃ、つかまっちゃう…!)
しかし幼い子供の短い足では逃げ切ることなど不可能なのは目に見えていた。
「おい!いたぞ、こっちだ!」
その声に、肩が跳ねた。それを追うように前方からも現れた大人達により退路も断たれる。
(…いやっ、)
息を切らして、声も上げられない少女は、絶望に顔を染め、祈った。
届かぬ祈りを。
(おねがい…だれか、たすけて……!)