Memory6 泣き虫リオ(後編)
【泣き虫リオの真実】
しばらく沈黙が続いた。
確かに低学年のときにリオ兄がいじめられて不登校になった。
保健室通いができるようになったのは、小6の2学期くらいからだった。
そのときは、なぜリオ兄がいじめられているか分からなかった。
何度も聞こうとしたが聞けなかった。聞いちゃいけないような気がして....
でも、今なら....
<俺>「なんでリオ兄はいじめられていたの?なんで今その話をしたの?なんで.... .... !?」
俺はその先を言おうとしたが、リオ兄の青ざめた顔を見て言えなかった。
<三男>「落ち着けって。あわてなくても全部教えるよ。」
<三男>「まず、リオがいじめられてた理由からね.. リオは皆と違うところがあった。普通に見えるかもしれないけど、欠けているものがあるんだ。
…それは、聴覚だ。リュカと同じ難聴なんだ。しかも今はリュカより聴力が弱い。」
.... .... えっ?!?
<俺>「難聴ってことは聴こえないってことでしょ?俺みたいに何回も聞き返したりしてないよ.....?」
リオ兄が俺と同じだとは思えなくて、強い口調で言ってしまった。
リオ兄は俺と違う。普通なんだ。何かの間違えだ。
<三男>「確かに、リュカと違って相手の言っていることはある程度理解できてる。でもそれは、唇の動きを見て言っていることを理解しているからなんだよ」
〈五男〉「唇の動きを見る?」
〈三男〉「そう!唇の動きを見て相手の話していることを理解してるんだ。」
嘘だと言って欲しかった。リオ兄が俺と同じ難聴で、それが理由でイジメられてたなんて信じたくなかった。
でも、そしたら俺もイジメられるかもしれない。
このとき、気づいてしまった。この世界は俺達のような人間の居場所はないことに。
〈三男〉「で、今この話をした理由はリュカとリュキにとって難聴が身近な存在になったからだ。
だから、リオのことも理解できる。受け止められると思ったから話した。
他にもリュカがこの先辛い思いをするかもしれないから、話したほうがいいと思った。」
"辛い思いをする?"
俺はいじめられるのか。普通じゃないから。普通の人とは分かり合えない存在なのか。変だから。聞こえないから....
〈俺〉「ざけんな!!」
〈三男〉「落ち着けよ。感情的になったところで聴力は戻らない。それが現実だ。」
悔しい。
自分が障がい者になるなんて思ってなかった。
普通じゃなくなるなんて思ってなかった。
周りの目が怖いと感じるなんて思ってなかった。
俺はどうすればいい?
どうしたらいい?
〈五男〉「なんで?............なんで、リュカとリオ兄が難聴になるんだよ。悪い事してないのになんで.....」
リュキは泣きそうな顔をしていった。リュキが悩むことじゃないのに俺のせいでこんな顔させちゃうなんて。
自分が情けない。
〈次男〉「リュカ。俺が難聴になって一番悔しかったことはレオを巻き込んだことだ。」
リオ兄とはうつむいたまま言った。
悲しそうな顔で...
こんなリオ兄を始めてみた。
基本は無表情で笑うことはめったにない。
学校でイジメられて帰ってきた時は、無表情ながら悔しそうな顔をしているようにも見える。
だから、今目の前にいるリオ兄を見て俺は不安になった。
〈三男〉「リオ、俺は巻き込まれたとか思ってないよ。.... ....自分の兄貴がイジメられてるのに何もできなかったことが悔しいな。」
リオ兄とレオ兄は俺達の知らないところでつらい思いをたくさんしたんだろうな。
俺はリュキを巻き込んでしまうのだろうか....
それは絶対にダメだ。
どうしたら、いいのかな。
〈俺〉「今はイジメられてないの?」
〈三男〉「前みたいに暴力は減ったけど、イジメられてないわけではないよ。たぶん、俺の知らないところで何か言われたりしてると思うけど?」
レオ兄はリオ兄の方を見て言った。
リオ兄は立ち上がり、2階に行ってしまった。自分の部屋に行ったみたいだ。
〈三男〉「アララ(゜Д゜;).... ....図星だったのかな..。」
〈五男〉「リオ兄が普通に見えるのにイジメられてるんなら、リュカもイジメられるの?」
リュキは不安そうな顔で言った。泣きそうな顔で....
〈三男〉「その可能性はあるよ。絶対ではないけど...」
リオ兄が2階から降りてきた。
〈次男〉「レオ。」
その呼びかけに皆が振り向いた。
そして、俺とリュキは現実を直視してしまった。
〈三男〉「リオ、それ...やっぱり...」
レオ兄は悲しそうな顔をした。
リオ兄は自分の部屋からあるものを持ってきた。
それは、数冊のノートだ。
学校で使ってるもの。
ノートにはボールペンなどで、悪口がいっぱい書かれていた。
障害者、耳なし、近寄るななどいっぱい書いてあった。
レオ兄はそれを見て、顔が強張っていた。
俺もリュキも何も言うことができなかった。
〈次男〉「これが現実だ......」
〈俺〉「チクショー......」
俺は目の前の現実に泣くことしかできなかった。
情けないけど、どうすることもできないと諦めてしまった。