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乙女ゲーのヒロインですがモブに成り下がります。  作者: 珠魅
第1章 幼少期編‐姫の家出計画‐
4/5

魔の二歳児 ナルシアルデ様観察記録

※侍女長視点

 こんにちは。わたくし、ナルシアルデ様の乳母をしておりました、侍女長ピーノ・ラッセルと申します。


 魔の二歳児……お子さんを、お持ちの方は誰しも必ず突き当たってしまう壁でしょう。


 愛くるしい天使のような子供が小悪魔に変わる恐ろしい時期。

 自我が芽生え初め、ヤダヤダと駄々をこねる我が子に多くの親が手を焼くことでしょう。


 さて、ナルシアルデ様も元気に、すくすくと成長なされてゆく様は、なんとも微笑ましいことです。



 そんなある日のこと……


 ナルシアルデ様は、とても好奇心旺盛で、お転婆で目を離すと直ぐに何処かへ行ってしまわれます。城内は、安全な所ばかりではないのでとても心配なのです。


 以前、国王様に旨を相談しましたが……


「侍女の一人を付けても駄目か……」

「申し訳御座いません」


 困り顔で言われてしまいました。本当に、返す言葉も御座いません。


 しかし、王妃様はニコニコしております。


「子供は自由が一番だと思うわ。それに、危険なとことには近寄らないと聞いています」 


 確かに歩けるようになって四ヶ月経ちますが、一度も小さな怪我もせず、ケロリとしておられます。不思議な方です。


 夜泣きは殆んどせず、大人しい赤子でした。我が息子と違い、全くと言っていいほど手が掛からなく育てやすかったのは記憶に新しいです。


 でも……


 時折、窓の外を眺めては遠い目をしていらっしゃる、お姿に何故か胸をざわめつかされます。


「姫様ーー!」

「何処ですかーー?」

「お勉強の時間ですよーー!」


 はぁ……今日も相変わらず、侍女達を困らせているご様子。このままではいけませんね。


 しかし、いつもなら、お勉強の時間にはきちんと帰ってきますのに、どうしたのでしょう。


 はっ! まさか何か、あったのでしょうか!?

 何処に!!


 何処かで泣いていたら、もしも怪我をしていたらと思うと国王様と王妃様に合わせる顔が御座いません。


 城の全ての場所、ナルシアルデ様が居そうな所は回りましたが、何処にもいません。ああ、どうしましょう!

 と、その時でした。

 

「侍女長様」


 侍女の一人が、やって来たのは。


「アナですか。ナルシアルデ様が見つかったのですか?」

「はい、侍女長様のお部屋に……」


 なんですって?


 まさかの盲点でした。私の部屋に、いらっしゃるとは。急いで向かいます。

 詳しく聞けば、見ればわかると勿体振った言い方をします。全く、何なんでしょう。

 部屋の前まで来ると侍女に一旦、止められます。


「侍女長様。そっと、お開けください」


 ニコニコしながら言う侍女に首を傾げ、渋々言われた通りに扉を開けます。


(あらあら……)


 ソファーの上に小さな二つの影。ナルシアルデ様と我が息子のクジリスが、一緒にお昼寝をしていました。なんて可愛らしいのでしょう。

 

 ……はっ、和んでいる場合ではありませんね。申し訳ありませんが起こさないといけません。

 優しく肩に触れ揺さぶります。


「ナルシアルデ様、起きてくださいませ」

「……んぅ」


 ぱちりと瞼が開き、金色の瞳が此方を見つめます。


「ピーノさん……?」

「はい、ナルシアルデ様。ピーノで御座います 」


 まだ眠いのでしょう。ぼーっとしたままです。

 そんな、お姿も愛らしい!


「……あ!」


 跳び跳ねるように、ソファーから降りました。その反動で我が息子も起きるのかと思いきや、寝返りを打っただけで御座いました。全く、寝起きが悪いですね。立派な執事になれるか些か不安になります。

 

「ごめんなさい、おべんきょう……」


 いつも時間を、約束を守るのに本当に珍しく、私は言葉を選びました。

 どう答えたらよいか、どう教えたらいいか。

 言葉には力があり,傷つけることも癒すことも出来るのです。

 最悪、人間関係に大きく影響するでしょう。


 しゅんと落ち込んでいるナルシアルデ様に視線の高さを合わせます。


「いいですか、ナルシアルデ様。落ち込むことは御座いません。人は皆、失敗することもある生き物なのです。国王様も王妃様も私もです」

「ピーノさん……」

「そして失敗から人は学ぶのですよ」

「……」 

「ナルシアルデ様は、いずれこの国の女王になられるのです。」

「……!」


 そう申した時、ナルシアルデ様は何故か眉を寄せていした。時々ある大人びた表情に、私は何時も引っ掛かりを感じますが……また今度にしましょう。


「さあ、今からでも間に合いますよ。先生のところへ参りましょう。ああ、アナ。先生に参りますと伝えてくださいな」

   

 暫く横で控えていた侍女に伝えました。


「わかりました」


 部屋から出て行ったのを見送り、再びナルシアルデ様に向き直ります。


「ナルシアルデ様、ご無礼をお許しくださいませ」

「え?」


 ナルシアルデ様を抱えます。 


「わぁ!?」

「さぁ、行きますよ。此方の方が早いですからね。一度お部屋に戻り、整えてから参りましょう」


 にっこりと微笑めば、ぽかんとしていたナルシアルデ様も笑顔になりました。 

 成長を見守ること以上の宝は御座いませんね。

寝起きが悪いクジリスくんは数年後に戦う執事になったそうな。

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