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第九話

 十日ほど歩いて大森林を抜けると、あらかじめロヴィアさんに言われていた所に転移用の魔方陣が設置されていた。

 ご丁寧に魔術で結界をはってあるらしく、何年も放置されていたにしては綺麗なままだ。


 私とイクサはその上に乗る。

 大量の荷物は、途中で持つのをめんどくさがった私がそこらへんに落ちていた材料を使ってアイテムボックスを作った中にしまっている。空間魔法と時間魔法を贅沢に使用したそれは、ほぼ無限に入る容量と、生き物こそ入れることは出来ないけど野菜とか果物とかを入れておいても絶対に腐らないという便利な仕様になっている。


 転移魔方陣に魔力をこめて、起動する。


 気付けばさっきまであった木々の面影はすでに無く、目の前に横に果てしなく広がっている高い壁が出来ていた。

 おそらく城壁だ。私たちから見て正面のところには、城壁の門と思しき大きな扉があった。


「わぁ・・・・・・」


 私の隣のイクサも言葉を失っている。

 そう言う私も、正直ここまでのものは地球でも見たこと無い。写真で見たことのある万里の長城よりも大きいんじゃないだろうか。

 いつもと変わらないのは私の頭の上に鎮座しているヒヨだけだ。


 私とイクサで呆然と高い壁を見ていると、灰色甲冑を着た人間が近づいてくるのが見えた。


 うわぁ、他人と交流するのは久しぶりだから緊張するなぁ。


 イクサが私の後ろにすっと隠れる。人見知りはまだ治ってなかったみたい。

 私とはじめて合ったときとは違って、泣き出すなんてことは無いけれど、目に涙をためて警戒心をむき出しにしている。


「譲ちゃんら、どこから来たんだい? お母さんかお父さんは?」


 甲冑を着たおじさんが尋ねてくる。

 優しそうな人でよかったと思いながら私はそっと胸をなでおろした。


「私たち二人だけです」


「じゃあ、出身と名前、王都に来た目的を教えてもらえるかい?」


「出身は大森林・・・・・・でいいのかな? ロヴィアさんもあの森のことそう言ってたし」


 緊張しながら答えを返す。


「大森林? あそこはとても人が立ち入れるような場所ではないはずだけどなぁ。それに、ここから大森林までは馬車を使っても半年以上かかるんだよ」


 甲冑のおじさんはちょっとだけ難しい顔をした。


「転移魔法陣を使ってきたんです。私がお世話になっている人で、こっちのブロンドの子のお母さんが昔作ったものなんです」


「転移魔方陣? それはどこにあるんだい?」


「えっと、私の足元です」


「は?」


 おじさんの目が点になった。

 私も足元を見てみたけど、そこには魔方陣のかけらも無い。

 不安になってじっと目を凝らしてみると、そこには人に気づかれないように幾重にも隠蔽魔法が掛かっていた。

 このままだとおじさんに信用してもらえなさそうなので、軽く魔力を通して誰でも目にすることが出来るように起動一歩前の状態にする。


「こんなところに転移魔法陣があったのか・・・・・・ここの門の責任者になって四年経つけど初めて知ったよ」


「ははは・・・・・・」


 私は苦笑いする。そりゃあれだけ厳重に隠蔽されてればなぁ。

 ロヴィアさんはよっぽど自分がどこにいるのか悟らせたくなかったらしい。


「まあいい。出身はおいといて名前を聞かせてくれないかい?」


「出身は大森林じゃあ駄目なんですか?」


「冗談はよしてくれよ。あんなところ広すぎる上に危険すぎて人が出入りできるような場所じゃないんだ。そんなところを書類なんかに書いて提出したら上から大目玉食らっちまうよ」


「えっと、一応紹介状を持っていますんで、後で確認お願いします」


「紹介状があるのか。それなら話は早い。すまんな、疑っちまって」


「問題ありません。お仕事ですもんね」


「はは、こりゃあしっかりした嬢ちゃんだ。俺はここで門の管理をしているジェイクっていうんだ。よろしくな」


 おじさん――――――改めジェイクさんはひげの生えた頬をごつい手で撫でながら笑った。


「よろしくお願いします。私の名前は八代で、こっちのブロンドの子はイクサといいます。ほら、イクサもあいさつしよ?」


「・・・・・・・・・・・・イクサ」


 なんだか本当に私とイクサが初めて会った時みたいだ。


「黒髪のメイド服の子がヤシロちゃん。で、そっちのブロンドの女の子がイクサちゃんか。よし、覚えたぞ」


 にかっと笑いながらジェイクさんが言う。

 そんなジェイクさんに紹介状を渡しながら私はここへ来た目的を伝える。


「私たち、王都の学園に通うためにここへ来たんです」


「そうか。俺も学園に行っていたが、勉強するのが嫌で嫌でしょうがなくなって途中でやめちまったからなぁ・・・・・・今思えばもっとちゃんと勉強しとけばよかったぜ。嬢ちゃんたちはがんばれよ」


 そう言いうと、門の中へと戻っていった。

 私たちはジェイクさんが連れてきたどことなく軽い態度の若い門兵さんに、応接間らしき部屋へと連れられて、言われるがままに椅子に座る。木製の椅子は、クッションが欲しくなるくらい硬かった。


 部屋の中を見回す。

 ライトみたいなものは無くて、火を灯すランプだけだった。

 窓から見える建物は全部石造りで、ロヴィアさんの研究所のようなコンクリートっぽい建物は無かったから、この世界の文明は中世のヨーロッパくらいだろうか。そのわりに上下水道は発展しているらしく、町の中に汚物が垂れ流しになっていたりするようなことは無かった。

 研究所も自分で建てたといっていたロヴィアさんの事がますます分からなくなる。

 あそこだけ技術が二、三百年くらい先を行っているんじゃないだろうか。


「親父がここで待っとけって。特に何も無いけど、後でお茶くらいは出してやるからじっとしてるんだぞ」


 声をかけられて、我に返る。

 なるほど。いまの人はジェイクさんの息子さんか。

 親子で門兵をしているみたいだ。応接間らしき部屋に連れてこられる途中、ほかにも人はいたから二人だけってことは無いらしい。


 ふと、私のメイド服のすそを引っ張る感触があって、そちらに眼を向ける。

 イクサだ。


「ねえヤシロ。人がいっぱい」


「お町だねぇ」


「ねえ、何でヤシロはそんなに平気なの? 人だよ。人。緊張しないの?」


「私だってさっきは久しぶりの人との会話で少し緊張したよ」


「大丈夫なの?」


「私はもっといっぱいの人を見たことがあるからね」


「ヤシロ、すごい」


「イクサだって、他人と話すことに慣れていかなきゃこれから大変だよ」


「ヤシロがいるもん」


 うわ、なにこの子。かわいい。

 上目遣いは卑怯だと思うな。私。


「ほら、ロヴィアさんと約束したでしょ。友達作るのに、人と話せないと仲良くなれないよ」


「う~~」


 ある程度予想していたけど、当面のイクサの目標は、人になれるところからかなぁ・・・・・・。


 唐突に部屋の扉が大きな音を立てて開く。

 イクサがまたビクゥ! となって椅子から降りると私にくっつく。


 お茶を持ったジェイクさんの息子がそこに立っていた。両手にお茶の入った湯飲みを持っていたから両手が使えなくて、部屋の扉を開けるのに足を使ったようだ。


「あ、悪い。びっくりさせちゃったか? ほい。これお茶な」


 あの、イクサの人見知りが加速するのでこういうびっくりすることやめてもらえませんか。

 とは言えない私だった。







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