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第七話

 気付けば、一年が経っていた。


 あっという間だった。私はロヴィアさんから起きている時間のほとんどをみっちりとしごかれていた。

 けど、しごかれていた。というのはちょっとだけ語弊があるかもしれない。


 鍛冶に錬金に薬学に、家事に料理に裁縫に、研究の手伝いやら家のことやらで空いた時間がほとんど無かっただけだ。

 生きているだけで底上げされていく。という訳の分からんことになった私の余りある体力とステータスで端か端まで何でもやらされていた。正直なところ、ろくなことが何も出来なかった生前と違って生きているなぁという実感があった。


 今考えてみると、結構充実していたんじゃないかな。


 つい先日、ロヴィアさんから「私の教えられることは全部教えたよ」と言われた。

 やったね。免許皆伝だ。

 相変わらず適正の無い攻撃魔法は使えないけど。


 攻撃魔法と回復魔法には適性を持っていない私だったけれど、魔法は適性が無ければ使えないわけじゃなくて、練習すればある程度はできるようになるらしい。実際に、回復魔法は擦り傷くらいなら治せるようになった。ちなみに、ポーションを作るほうが詠唱を唱え終わるより早く終わるからめったに使うこと無い。

 それでも出来ない攻撃魔法はよっぽど私と合わなかったんだろう。

 でも、今の私には代わりの攻撃方法もあるから問題ない。要は狩りや採集が出来ればいいのだ。


 今の私に前と同じところがあるとしたら、服装がメイド服なところくらいだろうか。家事もだいぶ板についてきた自身がある。


「ふわぁ、汗かいたー。ヤシロー、何か飲みたいよー」


 私が研究所のなかの掃除をしていると、ロヴィアさんと手合わせをしていたイクサが戻ってきた。

 首筋を伝う汗がきらきら光っている。


 巨大猪の一件から、イクサは前以上に魔法の練習に熱心になった。魔法だけじゃなくて、格闘技にも手を出し始めたくらいだ。

 私と違って自分から始めたイクサは向上心があってすごいなと思う。


 まだロヴィアさんには手も足も出ていないけど、一年前に比べて格段に動きが早くなっている。

 毎日見ている私でもそう思うくらいなのだから、その成長速度は相当だ。


 私? 私はしないよ。メイドが仕事だもん。

 最近はこれが天職なんじゃないかって思えてきたくらい。

 鍛冶も調薬も裁縫も料理もすべてはメイドの仕事。偏見かもしれないけど、生前もメイドといえばなんでも出来る人みたいなイメージあったし。


「ヤシロー、おーみーずー」


「ちょっとまってね~」


 自作の冷蔵庫に入れてあった水を取り出して、レモンを絞り、ちょっとだけ砂糖を入れる。

 運動した後にはちょうどいいくらいのレモン水が出来上がる。


「ぴぃ!」


 今日は私の頭の上に乗っているヒヨが、手に持ったレモンを羽根で指差すようにして


「ヒヨも飲みたいの?」


「ぴぃ!」


「もう、ちょっとだけだよ」


「ぴぃ!」


「ヤシロー、私のはー?」


「もうすぐ出来るよ・・・・・・はい。どうぞ」


「うわぁ! ありがとう!」


 イクサは私からレモン水を受け取ると、ゴクゴクとのどを鳴らしながら見る見るうちにコップを空にした。


「ぷはぁ、おいしい」


「一気飲みは身体に良くないよ」


「大丈夫だよ。ヤシロは心配しすぎ」


「そうかなぁ?」


 ガチャリ。と研究所の扉が開く。

 ロヴィアさんも外から戻ってきた。横目でチラリとコップを持ったイクサの姿を見て


「ふー、つかれた。ヤシロ、私も何か飲み物をもらえないかい?」


「はーい。ちょっと待ってくださいね」


 私はイクサに作ったものと同じものを用意しようと準備を始めた。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 それは本当に唐突だった。



 その日の夕飯を食べている最中、唐突にロヴィアさんが切り出した。


「イクサ、今年で七歳だろう? 学園へ行ってみる気は無いかい?」


「学園?」


 イクサがきょとんとした顔でロヴィアさんを見る。あの顔は学園というものを根本的に分かっていない顔だ。

 イクサに代わって私がロヴィアさんに尋ねる。


「学園って、この辺りにはないですよね。そうなると、どこか遠くになるんでしょうか?」


「私のいた国に、七歳から十四歳までの七年間勉強を出来る学校があるんだ。この森からだと大体半月くらいでいけるところにある。ヤシロも見た目の年齢は大体同じくらいだろう。イクサが行くと言ったら一緒についていって欲しいんだ」


「私は・・・・・・イクサが行くならいきますよ。親友ですもん」


「ぴぃ!」


 私の足元でえさを食べていたヒヨも声を上げた。


「ヒヨもついて行くって言っています」


「そうか、ありがとう」


 私のほうを向いていたロヴィアさんはまた、イクサへと向き直る。


「イクサはどうしたい? 私としては学園にいっていろいろ経験してきて欲しいんだ」


 その言葉に、イクサはショックを受けたような顔をした。


「ママは・・・・・・」


「ん?」


「ママはあたしが邪魔なの?」


 イクサの言葉に私はびっくりしながら、私はあわてて二人を見比べる。


 ロヴィアさんがいきなり立ち上がって、イクサのもとへと歩いていった。

 イクサは起こられると思ったのか、身体をびくっと震わせて、怖々とロヴィアさんを見上げている。


 足元に居たヒヨは、いつの間にか私の頭の上に乗っていた。不穏な空気を感じ取ったのか、少し震えている。


「ごめんね。言葉が足りなかったみたいだ」


 そう言うとロヴィアさんは、涙目になっているイクサを両腕でしっかりと抱いた。


「決してイクサが邪魔なんじゃない。もともと私もイクサを学園に行かせるつもりなんて無かったんだ」


「・・・・・・え、じゃあどうして?・・・・・・」


「ヤシロが家に来てから、イクサの口数が増えた。それに、私から見ていてもイクサがすごく明るくなった。もともと他人とかかわることなんて大して良いこと無いと私は思っていたんだけど、二人を見ていたら考えが変わったんだ」


 ロヴィアさんは私も抱き寄せ、話を続ける。


「友達がいると、イクサの笑顔が増えた。ヤシロにも感謝してる。イクサ、学園に行ってもっと友達を作ってきたらどうだい? ヤシロもヒヨも一緒に行ってくれるらしいから寂しくないだろう。もちろん、強制はしないよ」


「ママ・・・・・・」


「私はイクサの楽しそうな顔をもっと見たい。そう思って言ったんだ。決して邪魔なんかじゃないよ。言葉が足りなくて、イクサに悲しい思いをさせてしまった。・・・・・・母親失格かな」


「そんなこと無い」


 私の隣で、イクサがロヴィアさんの胸の中へと顔をうずめる。


「ママは、ママだもん」


「・・・・・・・・・・・・ありがとう」


 ぎゅううぅっとロヴィアさんが私たちを力強く抱きしめる。

 こんなに感情的になるロヴィアさんを見たのは初めてだ。


「ぷはっ。ねえママ・・・・・・」


 苦しくなって胸の中から顔を上げたイクサが口を開く。


「あたし、学園に行く。学園に行って、ママが羨ましく思うくらいいっぱい友達作る」


「イクサ・・・・・・・・・・・・やっぱり行くのやめないかい? 私が寂しくなってきたよ」


 えー。

 もしかしてロヴィアさんは子離れできない親でした?


 こうして、私とイクサが学園に入学することが決定した。




 お読みいただきありがとうございます。

 他人を知らないイクサは都会に行ったらどうなるのでしょうか?


 ~次回予告~


 王都についた二人。

 そのあまりの人の多さにイクサは錯乱。


イクサ「フハハハハ! 見ろ! 人がゴミのようだ!」


 街中で大規模魔法を連発。国の中心地だった王都は今では見る影もない。

 イクサ討伐のため他国の大規模な討伐隊が組まれるが正気を失ったイクサの前には手も足も出ずに返り討ち。


八代「イクサ! もうやめて!」


 ヤシロの声も届かない。このままなすすべもなく大陸はイクサに滅ぼされてしまうのか。






 ※嘘です。

 学園生活までもう少しかかります。

 イクサもキャラ崩壊はしないので安心してください。



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