団欒
次の日。
交差点に行くと、いつものように待っていた。
「さぁ、行こうか」
「挨拶も詫びいれもなしですか
「ただのセクハラさんの方がまだマシというものです」
こやつは人を貶めないと生きてけないのか。
最近こういうのになれてきた自分が怖い。
自分は実はそういう性癖の持ち主だったのか...。
いや、多分将来尻にしかれるタイプなだけだろう。
なんの問題もない。
「やかましいな、連れてかないぞ」
「正論いうと、これですか
「なんと心の狭い野獣でしょう」
ハッ、もしかして罵られるために発言してしまったのか。
いや、そんなわけないだろ。
「今のはボケだからな
「あと、野獣ってなんだ、野獣って」
「五月蠅いですね、ホント虫未満です
「野獣なんて過大評価でしたね
「それより、まずは謝るのが先でしょうに」
「うぅ、すまなかった」
果たしてこいつに勝てる日はくるのだろうか。
僕の家は3人暮らしだ。
姉夫婦と僕、どう見ても一人邪魔者だ。
これで姉に子供ができたら...その時は出ていくつもりだ。
本当なら、高校からは一人暮らしの予定だった。
だが姉に曰く、
「あんたなんて居ても居なくても一緒よ」
……肩身狭いが、住まわせてもらっている。
とはいっても、さすがに女の子を連れ込むのはまずい。
姉が仕事から帰ってくる7時までという条件付きだ。
勿論、料理だって予め準備している。
僕はいつだって完璧だ。
「失礼します」
お構いなく。
あまり痕跡を残してしまうと、後でからかわれる。
早速、僕の部屋にご招待だ。
「面白味もない部屋ですね」
「ファンシーピンクよりマシだろ」
「いえ、特徴ないと逆に気持ち悪いですわ」
この普通の部屋には理由がある。
どんな時でも未練なく出ていけるようにだ。
荷物もまとめているし、殺風景かも知れない。
「まあゆっくりしてけ」
言いつつ、僕はお菓子を取りに下へ行った。
あと2時間、どう過ごそうか。
「紅茶のセンスはいいですね
「あなたのお姉さんが選んだんですか?」
こいつに姉のこと話したっけ。
「下駄箱を見れば分かりますわ
「女装趣味がない限り、あんなに多くの靴はな...
「もしかして、女装趣味ありますか」
なんで物事を素直に受け止めないんだ。
激しく捻じ曲がった性格の持ち主だこと。
「僕をなんだと思ってるん――
「セクハラさん、公私構わずセクハラさん」
「公私の私の方は事実無根だっ」
「アウトですわっ!」
結構ノリはいいのかも知れない。
ゆうも大人にはなりきれていないようだ。
「まあ、紅茶はアッサムだ
「つまるところお客様用ってわけさ」
「...」
何か間違えただろうか。
「紅茶を侮辱しないでくださる?
「まず第一にこれはアールグレイです
「ミルクが欲しいですわ
「それにお客様用なら、農園指定のダージリンくらいだしたらどうなの?」
全く分からない、それは理解できた。
自分には縁のない世界だ。
「レモンでもいれるかい?」
「あなた、いい加減にしなさいよ」
「ジョークです...」
本気で怒らせてもいいことなし。
引き際に定評のある前衛指揮官こと、この僕は話題を変えることにした。
「普通男の子の部屋いったら、ベッドの下とか探すでしょ
「君もやってみたらどうだ
「僕は見つかない自信があるからね」
「あなた、最低ですわよ」
おっと、相手はレディだった。
「それにあなたのものなんてないでしょうに」
「どういう意味だ?」
「だって...あなたの家じゃないわ、ここは」
それから、滔々と感想を述べていった。
大体あたってた。
自分用の鍋に皿。
銭湯通いのためのバスケット。
隅々まで見ていたのだろう、この聡い少女は。
「気にし過ぎだと思うわよ」
その上、慰めだ。
なんか恥ずかしい、いや情けない。
「ありがとう」
なんだかんだ言って、優しい子だ。
「召し上がれ、ドライカレーだ」
言っとくが、この家でずっと料理してきたんだ。
「いただきます」
どうだろうか。
「はわっ」
ん?何か小さな声が聞こえたような。
「美味しいですわ」
どうやら高評価のようだ。
こいつに褒められる日がくるとは。
絶対に批判しかしないと思ってたのに。
「平々凡々で家庭的
「工夫してるのかと思うと隠し味らしきリンゴ
「才能ないなりに努力した味といえるわね
「まあ、レビューだと甘めに80点とつけるくらいでしょうね」
むむむ。
要約すると、普通のドライカレー、か。
なんか褒められてなかったけど、罵られなかっただけましか。
だんだん自分の感覚がずれてるように思うが、気のせいか。
「ありがとう」
食べ終わって部屋に戻ったその時。
玄関から物音がした。
まずい、姉夫婦だ。
予定よりだいぶ早いぞ。
「ちょっと隠れてろ」
慌てて玄関に行く。
「お出迎えとは、気でも狂ったか」
「ただいま、ゆーくん」
姉と義兄だ。
なんでこんな優しい人が姉と結婚したか不思議なくらいだ。
「お、いい匂いだね、ゆーくん
「カレーだね、嬉しいな」
つくり過ぎたから、作ってあげた設定にすれば何の問題もない。
「なんで皿が二つも使われてんだ」
ぎゃぼおぉぉぉっ。
早速ぼろが出た。
「一人で食べたの、ゆーくん」
「そんなわけないだ――
「ちょっと姉さん捕まえといて」
やばい、あの義兄よりにもよって俺の部屋行きやがった。
なんでこんな時だけ。
一人で食べたって言っときゃ良かった。
「なーんだ、誰もいないや」
「女は帰ったか」
ナイスだ、ゆう!
あいつをつい見直しちまったぜ。
「もう、この話は終わりですよーっと
「ささ、召し上がれ」
慌てて玄関に戻り、ゆうの靴を部屋に運ぶ。
「これ履け
「てか、隠れてろっつたのに
「まだ危険なんだから」
「履いたわよー」
よしっ。
その状態のゆうを抱え、窓からジャンプする。
2階だから、全然大丈夫だ。
「きゃあああああああああああああ」
らしくもなく、ゆうが悲鳴を上げてる。
そんな状況を楽しむ間でもない。
「すまない、今日はここで解散だ
「また明日会おう」
「もぅ、しらないっ」
ゆうはそう言って帰っていった。
「なんだい、今の音は」
「家だけは壊すなよ」
怪しまれないうちに、食卓にもどる。
ちょっと計算狂ったけど、まあいい。
明日ちゃんと謝らなきゃなぁ...。
そんなこと思いつつ、言われてもいないカレー自慢を姉夫婦にする僕だった。
はやくも、5話目です
文章を敢えて短くするの難しいです...




