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廃人兄妹の徒然日記  作者: 東雲 豊
妹の失敗
7/11

食われ飲み込まれ

 土煙と共に現れたのは巨大なスライムだった。

 背丈は城壁と同等、幅は街道よりも広く、辺りに分布しているスライムよりも透明度が低い。

 体内のどの辺りに核があるかも分からない程、濁っていた。


「なんでこんな所にボスが……ああ、そういえば一応ここにも沸くんだったか」

 この巨大スライムの正式名称は『エンセスタースライム』

 強さは全モンスターの中でもそこそこで、特定のMAPに低確率でPOPするレアモンスターだ。 


「――っしゃあ!! レアじゃんファーストアタックもらいいいい!!!!」

 トールはボス目掛けて飛びかかる。

 鋭い風圧を携えて短刀を抜刀し、鈍色をした体に突き立てた。


「うおおおやべえ、かってえ!!!」

 しかしエンセスタースライム本体には僅かな切れ目が入っただけで弾かれてしまう。

 スライム系のモンスターは打撃や斬撃の耐性を持っている事が多い。

 無効とまでいかないが半減してしまう種類が殆どで、トールのような剣士系の職業とは相性がよくなかった。


「トール、無茶するな!!」

「おう、ていうか兄貴ぃ!! バフくれよ!! かわしきれねえ!!」

 エンセスタースライムが大きく身体を震わせるのと同時にトールは飛び退いた。

 よくみれば、彼女の身体の至る所に小さな痣が浮き上がり始めている。 


「――っ速力増加!!」

「ざっす!!」

 ミツルが慌てて素早さを上昇させる魔法を唱えると、トールは礼もそこそこに走り出した。

 動きを見る限り、今度は上手い具合に避けられているらしい。


「ごめんねエマさん、転職はもうちょっと待ってて。先にこいつをなんとかしちゃうからさ」

 エンセスタースライムは低確率でPOPするレアモンスターだ。

 上手くいけばレアアイテムをドロップしてくれる、是が非でも倒しておきたいところだ。


「私は大丈夫です。それで、あの、何かお手伝いできる事は……」

「俺に攻撃が飛んできたら回復魔法をかけてほしい、さっきのファイアーボールと同じような感じなんだけど大丈夫かな」

 ターゲットと魔法を変えるだけで、手順自体は変わっていない。そう難しくないだろう。

 ミツルはエマが頷いたのを確認してから分厚いバインダーを取り出した。 


「トール!! お前はいけそうか!!」 

「おう!! ちょっと散財するけどなあ!!」

 トールはエンセスタースライムの一部を足場にして一段と高く飛び上がる。

 そして懐を漁り、バンクに預けていた薬瓶を大量に取り出した。


「必殺散財アタック!!」

 瓶を抱えた手を勢いよく振り上げ、瓶たちを放り投げる。

 宙へと投げられた瓶たちは綺麗な放物線を描き、ゆるやかに落ちていった。

 その中のひとつ、一際大きな瓶がエンセスタースライムにぶつかると、耳を劈くような爆音と大量の土煙が上がった。

 連鎖するようにして、残りの小瓶たちも漏れなく爆発していく。

 コストと手間はかかるが、威力は攻略掲示板お墨付き。

 耐性を持っている対モンスター用の必殺技だ。


 エンセスタースライムの身体はあちこちが抉り取られたように穴がこさえられていた。

 どこもかしこも酷く焼き焦げており、ぶすぶすと鈍い音と共に新たな煙が上がっている。


「おぉ流石に効いてる……けど、お前それ一回でいくら使うんだ!!」

「あっはっはっはっはっは!!」

 彼女はミツルの問いには答えず、スライム目掛けて剣を振り上げ始めた。

 ……張り上げられた笑い声が全てを物語っていた。

 断言できる、二発目を打てる余裕は絶対に無い。


「あぁもう!! マジでそれいくらかかってんだ――」

 ミツルがぼやこうとすると、遠目に何かが蠢くのを捉えた。

 それはスライムの足元の方だった。丁度、今しがたトールがこさえた穴の内側だ。


「……なんだ、あれ」

 最初は倒壊していた古木の幹が紛れているのではないかと考えたが、古木にしては少々濃い色をしている。

 それに植物というよりも、岩のような材質で色は藍色――。

「――おいトール!! 足元にいるのバルドじゃないか!?」

「あぁ? ……わっはっはマジかよ!!」

 流石の透も目を丸くした。

 スライムの焼き焦げた傷口。その内側に、見慣れた藍色の鱗を持つ腕が触覚のように飛び出していたのだ。


「ああ、いねえし連絡取れないと思ったら飲み込まれていたのか!! クソだっせえ!!」

 通りで連絡が無ねえわけだと、トールがにやにやと人の悪い笑みを見せる。

 これは確実に後でからかうつもりだ。


「バルドを引きずり出せるか?」

「余裕!!」


 トールは再び瓶を取り出した。今度は掌に収まるような小瓶だ。

 それをバルドの手が見えている傷口へ放り込むと、小瓶は短い爆発音を立てて割れる。

 中からはどろどろとした紫色の液体が傷口を這うように広がり、じわじわとスライムを溶かしていった。威力は低いが、傷口を抉るのには十分の酸だ。


「トールてめえ!! 俺ごと溶かす気か!!」

 同時に、スライムの体内からバルドが勢い良く飛び出す。

 トールの投げた小瓶のせいか、はたまたスライムに消化されかけていたせいか、纏っていた防具は所々が破損してしまっているようだ。


「ああクソ……どれもボロボロだな……あーあークソ、修理しないと精錬値下がるなこれ」

「おーいバルド。早くこっち手伝ってくれよ、っとほらよ!!」

 トールが脇に転がっていた大剣を蹴り飛ばすと、バルドは数度首を鳴らしてそれを拾い上げた。


「コレも修理か……こいつ倒してレアでも出さないとやってらんねえよなぁ」

 大剣の刃はノコギリのようにぎざぎざとしている。……修理代金がどれほど掛かるかなど考えたくも無い。


「あーミツル、バフ頼む」

「あぁ、さっさと倒してくれ」

「ま、二人ならいけんだろ。余裕余裕」

 ミツルがバフを掛けると、バルドはトールの元へと駆けていった。

 武具の劣化と攻撃耐性はあるが、あの二人ならば確実に倒せるだろう。

 多少時間はかかるかもしれないが、然したる問題でもあるまい。


「エマさん、ちょっと大変だけどもう少し耐えてくれるかな」

「はい!」

 先ほどよりも、スキル熟練度の上がったエマが楽しそうに頷いた。

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