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廃人兄妹の徒然日記  作者: 東雲 豊
妹の失敗
4/11

おともだちテロ

 バルドが管理している部屋はとても整理が行き届いていた。

 棚には塵や埃などは一切無い。

 預けている武具もディスプレイのように綺麗に飾り立てている。

 勿論、どれも丁寧に手入れがなされ、刃毀れや錆などは見当たらなかった。

 今すぐにでも武具屋を開店できるほどの整理整頓ぶりだ。


 バルドは飾っていた武器の中から、一際大きな大剣を手に取った。

 刀身は人間の背丈ほどもあり、刃は鉄塊を切り裂けるように分厚く造られている。


「これでいいな……細かいのはトールが倒すだろ」


 大きな武器ゆえに、小回りは利かない。

 一回の攻撃で大きなダメージを稼ぐのは得意だが、数を処理するには少々不向きな獲物だ。

 それを補ってくれるのが小回りの利く武器を扱うトールである。

 彼女は一匹一匹、確実にキルを取る事に長けている。バルドの倒し損ねた敵の始末など朝飯前だろう。


 実に良い相棒だ――

 ――これが無ければ。


 バルドはバンク前で人知れずため息をつく。その隣にトールの姿は無かった。

 支度を終え、外に出てから既に15分ほどが経過していた。

 あぁ毎度の事だと、バルドは首を振る。

 彼女は荷の大小に関わらず支度がかなり遅い。

 今までトールのほうが先に支度を済ませたことがあっただろうか? いやそれは無い、断言できる。

 勿論理由は分かっている。あのゴミ溜めのような部屋で埋もれかけているのだろう。


 ――まったく、もう少し整理整頓を心がけて欲しいものだ。バルドは再び小さな息を吐いた。


 暫くの間は人の流れに目を向けていると、ふと奇妙な視線を感じた。

 バルドは身を捻り、視線の相手に分からぬように索敵スキルを使用した。


『索敵完了・対象者 半径三メートル』


 ――随分と近い。気付かれぬよう、視線をゆっくりと動かした。

 花壇を挟んだ向こう側に、小柄な少女が立っていた。

 緩やかに巻かれた髪は風に弄ばれ宙をふんわりと浮いている、その隙間から見える耳は長くない、普通のヒューマンだろう。

 明るく、美しい蜂蜜色は翡翠色の瞳によく似合っていた。

 透が居たら、きっと「テンプレ美人だ」と褒め称えそうなほどだ。


 他には――そう視線を動かしてみたが、範囲内でバルドに視線を向けている人間は少女しか居なかった。

 気のせいか、それともスキル使用に失敗したかと考えていたが、少女は時々バルドに向けて視線を動かしている。何か様子を窺っているように思えた。


「(……知らねえ顔だな)」

 バルドは少女の顔に覚えが無かった。勿論、クエストをくれるNPCの類でもないだろう。

 最初はそのまま放っておこうとしたが、もしかしたら顔見知りの別キャラかもしれない。


 バルドは意を決して少女の方を向いた。すると、少女は慌てて顔を背けてしまう。

 やはり勘違いだったか? バルドが視線を戻すと、少女は再びバルドの方へ視線を向ける。


 声を掛けられる訳でもなく、止まない視線の往来。

「……なあ、アンタ。俺に何か用かい?」

 堪り兼ねたバルドは、ついに少女へ声を掛けた。

 話しかけられた少女は、小さな肩を跳ねさせて顔を上げる。

「あ、あの、ですね……」

 俯きながらもじもじとする仕草は、小柄な体躯もあってか小動物を思わせた。


「なんだ」

「あの……」

 少女は暫くの間、口篭もっていた。

 そして意を決したのか勢いよく顔を上げる。

 先程のしおらしい態度から一変、想像出来ないほど大きな声をあげたのだ。


「私とお友達になってください!!」と。

「……は?」

 

 少女の言葉に、バルドは目を白黒とさせた。今、この少女はなんと叫んだのだろうか。

 あまりにも突拍子の無い言葉に、辺りに居た通行人も何事かと視線を向け始める。


 突拍子の無い台詞と、周囲から集まる視線の数々。


 バルドの頬には恥ずかしさと混乱から一筋の汗が伝った。

 一体自分はこの少女に何か仕出かしてしまったのだろうか。

 いやそれは無いはずだ、自分の態度は何も間違っては居ない。


「……はぁ?」と、確認の意味を込めて、もう一度疑問符を投げかける。

 すると、少女は「ですから……」息を整え、もう一度叫んだ。


「私とお友達になってくださいって言ったんです!!」


 答えになっていない答えに、満面の笑み。バルドは軽い眩暈を覚えた。

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