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廃人兄妹の徒然日記  作者: 東雲 豊
妹の失敗
2/11

ドラゴニュートの友人

「――っあれ、前回ログアウトしたのって此処だっけ……」


 透がゲームにログインすると、赤茶色の荒野が出迎えた。

 辺りには急な斜面や緑は少なく、点々と生える枯れ木が土色の世界に僅かな差し色を齎している。

 時折、乾いた風に乗って回転草が音を立てて転がされていく。


「それにしても、体が重いなあ」

 疲労ゲージが溜まっていたのか、身体の動きは少々鈍かった。

 腕を上に伸ばし、身体を軽く反らす。骨の伸びる音とともに、頭装備の宝珠簪が小さく揺れた。

 彼女が身体を動かす度に、機能性よりも見た目を優先して作られている鎧からは健康的に焼けた肌が見え隠れする。

 そして腰に差していた武器が目に入ると、透は「あぁ」と呟き、頭を掻いた。


「そーだ思い出した。スキル上げしてたんだ」


 このゲームでは、ステータスレベルと共にスキルレベルが存在している。

 ステータスレベルは、キャラクターの純粋な強さを底上げしてくれるもので、スキルレベルは技術的なステータスを示している。

 前者は、基本的にモンスターを倒したりクエストの報酬として得る事ができる。

 後者は、上げたいスキルを使い続けると上がるようになっている。

 彼女もまた、自身の戦闘スキルを上げる為にこの山岳地帯に篭もっていた。

 この辺りは敵が沸きやすく、数を稼ぐのにもってこいの場所だからだ。


「よっし、兄貴はどっこかなー」

 透は腰にぶら下げていた布袋の中から、年季の入った巻物を取り出し紐解いた。

 巻物には達筆な筆文字で、体力、能力、装備、所持品、地図、友人、其の他と書かれている。

 これが彼女の使っているステータス画面だ。

 巻物タイプの他にも、本や手鏡、携帯のようなものも存在しており、ユーザーによって自由に設定できるようになっている。


 透はその中の一つ、友人と書かれた文字に指を置いた。

 すると、巻物の文字列は一瞬にして消え去り、ぽつぽつと文字列が浮かび始める。


『ミツル レベル180 貴族(ハイ)エルフ

 付与魔術師(エンチャンター) マルクト王国アドナイ・メレク 冒険者ギルド本部』


 これが兄、充の使うキャラクターだ。

 彼の名は本名をカタカナにしただけの簡単なものなので非常に分かりやすい。

 そして彼女のキャラクターネームも本名を捩ったものを使っている。自分の『とおる』という名の「オ」を「ー」に変えた「トール」という名だ。

 似た者兄妹だな、とトールは小さく微笑んだ。


「丁度良いな」

 トールは巻物を袋に押し込んだ。

 代わりに上等な絹の小袋を取り出し、中から淡い色を放つ鉱石を一粒摘む。


「目標アドナイ・メレク」

 間髪入れず、石を宙に放った。

 投げられた石は眩い光を放ち、透を包み込むようにして纏わり、やがて姿を晦ました。



 彼女が転送石を使用して訪れたのは、マルクト王国の首都、アドナイ・メレクという街だった。

 円形に組まれた城壁に囲まれているのが特徴で、入り口は東西南北の四箇所に設置されている。

 各門からは、幅の広い石畳が敷かれ街の中央で交差するように造られていた。

 海が近くに無いので、商業の発展値は他国に比べると多少見劣りするだろう。

 しかし、ゲームを始めたばかりの初心者がこの街に送られる事から、この街を復帰地点に設定している人やそれを狙った商売人などであふれ返っていた。


 トールは四箇所ある門の中で一際大きく造られている北門に降り立った。

 門から街へと一歩踏み出すと、大通りは石畳が見えぬほど沢山の人で賑わっている。

 今日は何か祭事でもあるのではないのか、そう思えてしまうほど至る所で喧騒が産み出されている。

 路肩では所狭しと屋台が出され、売買に勤しむプレイヤー達の姿が窺えた。


 ――相変わらず人が多い。

 気を抜けば流れに呑み込まれそうになる。

 ぶつからぬよう大通りを進むと、街の中心部、大通りが交差する場所に他の建物よりも大きく造られた建物が目に入った。


 赤レンガを幾重にも積み上げた建物は、砦のような風貌をしている。

 所々に植物の蔦と葉が絡まり、建物を護るようにして巻き付いていた。

 上部に掲げられている看板には”冒険者ギルド”と大きく描かれている。


 立て付けの悪い観音開きの扉を開けると、中からは表に負けないくらいの喧しさがトールを出迎えた。


 冒険者ギルドは世界中のプレイヤーが集う拠点である。プレイヤーの時差のズレによって昼夜問わず賑わっている場所だ。

 依頼を受けるにしろ、報告するにせよ、冒険者ギルドへと赴かなければいけないことになっているし、表で商売をするのであれば共通レートの両替をしなければならないからだ。


 トールは雑談に興じるプレイヤーを掻き分けて奥へと進む。

 奥に設置されて設置されている休息所は入り口側とは違い、比較的空いていた。

 その端にある窓際のカウンター席に、一人の青年がうつろな表情で外を眺めているのが窺えた。

 エルフ特有の整った顔立ちに、肩まで伸ばされた銀色の髪。両の目は深い藍色をしており、左目の眼球には奇妙な幾何学模様が刻まれている。細めの体躯も相俟ってか、どことなく爬虫類を思わせた。


「お待たせ」

 トールはエルフの肩を軽く叩いた。このエルフが、彼女の兄である充のキャラクターだ。

「ん? おぉ透か、随分遅かったな。さっき別れてから結構経ってるだろ」

「スキル上げをしたままログアウトしてたっぽい。僻地で突っ立ってたわ」

「なるほどな。まあとりあえず座れよ」

 ミツルが空いていた席を勧めると、トールは頭を掻きながら腰を下ろした。

「んでどーする、兄貴」

「お前のフレに暇そうなやついたか?」

「今見る」

 トールは先ほどの巻物を取り出した。

 友人の欄を押すと、ミツルの名前が黒字で書かれている。それ以外は薄い灰色で綴られていた。

 灰色はオフラインの意味である。


「誰もインしてねえな」

「俺の方もそうなんだよなあ」


 時刻(リアル)は夕方、しかも平日だ。

 何かと忙しいこの時間帯は、プレイヤーのログイン人数が少なくなっている。


「いっそ普通にパーティー募集でも掛けてみるか?」

「ネットの掲示板で晒される」

「……だよなあ」

 身の丈に合わない依頼を受け、パーティーメンバーを募集するのはあまり褒められた行為ではない。

 下手をすれば他力本願な迷惑プレイヤーとして晒されかねないのだ。


「あー、しっかしどうすっか……」

「お、トールにミツルじゃねえかー」


 項垂れたトールの肩を叩いたのは、屈強な鱗で覆われた竜人族の男だった。

 顔はトカゲや竜のような面をしており、人間の眉上にあたる場所には対なる二本の角が雄々しく生えている。

 瞳は金色で瞳孔が常に開き、口から見える牙は太く、刃のように鋭い。

 そして2メートルを優に超える長身に、種族特有の筋骨隆々とした体格。それを護るのは分厚く岩のように荒い藍色の鱗だ。

 見た目は近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、中の人は生真面目で共通のゲーム内フレンドである。


「お、バルドか。今ログインしたばかりか?」

 ミツルは空いていた椅子を引いてバルドを迎えた。

「ちょうど今ログインしたんだわ。ってかなんだお前ら、二人で暗い顔いてるけど、なんかあったのか?」

「「あー……」」 トールとミツルは思わず顔を見合わせる。 

「……なんだ、やっぱりなんかあったのか」


 バルドの確信を持った物言いに、二人は苦笑いを浮かべてから事の顛末を語り始めた。


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