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廃人兄妹の徒然日記  作者: 東雲 豊
妹の失敗
10/11

心の洗濯

 ミツルが戻ってきたのは、それからしばらくしてからの事だ。

 バルドの考えていた通り、彼はエマが気負いしない程度の初心者向け装備を抱えている。


「お待たせ、待ったか?」

「いんや、エマさんに私らの職業とか色々教えてたところ、ところでそれ、エマさんの装備?」

「ああ、転職してもある程度使いまわせるものを用意してみた」

 ミツルは空いていたテーブルにアイテムを出していく。

 小型のバックラー、短剣、皮手袋。

 職業に関係なく装備できる初心者の味方だ。


「え、でもいいんでしょうか」

 エマは気後れしているようだ。

「気にしないで貰ってやれ。ミツルもそうやって支援してもらったことがあるんだろ」

 バルドの言葉にミツルは頷く。

「そういうこと。初心者に優しくするのは先輩プレイヤーの仕事みたいなものだからさ、あとはこれもどうぞ」

 ミツルは懐から一枚のリボンを取り出した。

 淡いピンク色のリボンだ。

「これは状態異常を確率で防いでくれる装飾具。確率は五パーセントくらいだけど、無いよりは全然いいから」

「ありがとうございます、装備する場所はどこでも大丈夫ですか?」

 エマは受け取ったリボンを嬉しそうに眺めている。

「うん、好きなところに装備して。んじゃアイテムも渡したし、エマさんの転職を見届けに参りますか」



 セフィロトオンラインの転職は職業ごとに変わるが、最初に訪れるレベル10の転職に関しては共通だ。

 街の神殿で手続きを行い、その後に運営から職業の大きな括りを説明されるのが定番である。

 大体の初心者はそこで大まかな指針を決め、近接、遠距離、魔法職といった戦闘向けの職業や、生産系の職業の入門職業へと転職をする決まりとなっている。


「そしてここがその神殿、マルクト王国の中でも王城に次いで二番目に大きな建物だよ」

 ミツルがそう言って指さしたのは塔のような高さのある石壁の建物だ。

 周りを覆うようにして大きな柱が立ち並んでいる。一見すればダンジョンのような見目をしていた。


「ここからは一人でどうぞ。俺らは外で待っているからいっておいで」

「ありがとうございます。あの、時間がかかるようでしたら……」

「気にすんなよ、いってら」

 トールはエマの背中を軽く押しやった。

 バルドも同じように頷き、掌をひらひらと揺らす。

「……いってきます!!」

 笑顔で駆け出したエマを見送り、三人は近くのベンチに腰掛けた。



「さー、エマさんは何になるのかな」

 ミツルは楽しそうに声を上げる。

 初心者がどの職業を選ぶのか。

 それは初心者をこの神殿に連れてきた者たちだけが許される楽しみの一つだ。


「どーだろなー、さっき私たちと相性の良い職業なんか聞いてたけど」

「お、それなら聖職者なんか今一番必要な職業じゃないか」

 その言葉に、トールとバルドは顔を見合わせた。


「……あれ、さっきって聖職者の説明したっけ?」

「……いや? 聞かれたのは『俺らの職業と相性の良い職業』だけだな」

 あくまで3人と相性の良い職業の話をしただけで、パーティーの理想編成については何一つしていない。

 ダンジョン攻略の際、聖職者が必要だということは会話にも上がらなかった。

 何せいつもはポーションで回復をしているような戦闘しかしてこなかったためだ。


「え、二人とも……何を推したんだ?」

「推したってか、相性の良い職業の説明はした」

 トールはバルドへと視線を向ける。

「確か……盾騎士(シールドナイト)と、遠距離の攻撃職、付与魔術師(エンチャンター)が主な話題だったと思う」

 話したのはあくまで『三人の職業と相性の良い職業』である。


「お前らマジかよ……流石、前衛しかやらない奴らは違うなぁ」

 ミツルは明るく笑い飛ばす。

 そんな彼を見てバルドは首を傾げた。

「回復役になってほしかったんじゃないか?」

 もっと怒ったり、上手くやれよと詰られる覚悟でいたというのに。一体どういう心変わりだろうか。


「ああ、そう思ってたけどさ……自由に楽しく遊んでほしいなって思いの方が強くなっちゃって」

 その言葉に、トールとバルドは「確かに」と口を揃えた。

 初心者という時代は全ての人間が通る道だ。

 文字通り右も左も分からない頃、わくわくとした感情を胸にゲームを遊んできた。

 あの頃は目に見えるすべてが宝石のように輝いていた。それは比喩なんかではない。

 ベータテストだった頃は攻略サイトのデータもなく、自分たちの行動全てが新たなる発見に繋がっていくのは今でも記憶に残っている。

 初々しいエマの態度を介し、そんな思いが蘇ったのだろう。


「エマさんが何を選んだとしても、俺はこのままサポートしていきたいと思ってる。お前らは?」

 聞くまでもない。トールとバルドは満面の笑みでそれに応えた。

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