一流の引きこもりVS転校美少女
今日も世界は暗い。
光は一向に見えないし、どんどん暗くなっていく。
そんな世界の中にある、東京という街にある、一つの暗い部屋、そしてその中にいる一人の暗い少年。
少年の名は……
「今日も荒れてんな~」
暗い部屋の中で、一つだけ光を放つ物体。つまりパソコンを前にいる少年は嘆いた。
「はぁ……これ誰が収集つけんだよ……」
と掲示板を見つつ独り言。
ちなみに今の時間は午前11時、さらに言うと今日は4月5日の水曜日。
学校は祝日では無い。というより少年にとっては高校2年目の始業式の日。
では何故少年が家に居るか……
それは彼が……
彼が一流の………
「うっし、オール終了!今日は寝よ。」
彼が『一流の引きこもり』だからだ。
少年が一流の引きこもりになったのは高校1年生の春。
そこからかれこれ約一年、ろくに外出すらしていない。
引きこもる理由は当然ある。
とにかく、この日は寝て終わるハズだった。
約一年間続けていた生活を、これからも続けていくつもりだった。
「こんにちはー!!淋崎君居ますかー!?」
そんな、自分を救い出すような声が聞こえなければ。
「は……!?」
何事だ?少年、淋崎 深弥は思った。
誰だ?こんな朝っぱら(実質昼)から。近所迷惑(淋崎調べ)にもほどがある。
担任の教師か?いやウチの教師は全員、淋崎という名を聞くと目を背けるという事を聞いたことがある。
ではクラスメート?もっと有り得ない。ウチの高校は3年間、クラスは変わらない。だとするならば、引きこもってる理由から一番近い奴らが来るはずがない。
「淋崎君ー!!あれ?鍵開いてる……入りますよー!!!」
「なっ……!!!」
なんという非常識な奴だろうか、鍵が開いているから入るって。不法侵入にもほどがある。
「待て!!」
「え?今の声、淋崎君ですか?」
「あぁ、そうだ!えーと、君、少し取り引きをしようじゃないか!」
これでどうにか帰る方向に持っていけば………
「嫌でーす。」
廊下を歩く、足音がする。
「……ちょ!!不法侵入だぞ!!」
「クラスメート、友達の家に遊びに入るってことは、不法侵入になるんですか?」
足音がどんどん淋崎の部屋に近づいてくる。
(まずい……!)
「なるよ!!家の主である俺が許可してない時点でなるよ!!てか、友達じゃねーし!それにクラスメートって……」
クラスメート?その言葉に引っかかった。
「そーですよ。今日、2年生に上がったと同時に引っ越して来ました。」
(まずいまずいまずい!!!!)
ガチャッ!!と淋崎の部屋のドアが開く。そして淋崎が振り返った時。
「水無月 麗です。よろしくね、淋崎君。」
「………!!!」
言葉を失った。
難攻不落の淋崎の部屋に上がり込んだとか、クラスメートが来たからとかじゃない。
ただ、その目の前に立つ少女が、美しかったから………
「どうしたんですか?淋崎君?」
「…い…や……え……で…出ていってくれ…そうだ。ここから出ていってくれ!」
あまりに綺麗だったからついつい見とれてしまったが、そのことは本来の目的から遠く離れてしまっていた。
「嫌です。」
さっきと同じように少女は軽く返した。
「何でだよ……」
「何で学校休んだんですか?」
いきなり淋崎の目の前に座り、聞いてきた。
「うるさい、とにかく出ていってくれ!」
「クラスメートのみなさんに聞いても話してくれませんでした。それに先生だって話をはぐらかしてばかりで……」
少女が悲しそうな顔をする。
「それが当然なんだよ!それで当たり前なんだ!良いから帰れって!」
「嫌です!」
これだけ言ってるのに少女は退こうとしない。何故だ。淋崎の頭の中には、こんな人間は誰一人としていなかった。
「学校に来ないという事が当然視されている事…私はおかしいと思います!」
「何で……」
少女のあまりの迫力に押されてしまう。
「皆さん笑顔だったのに、淋崎君の事を聞くと、暗い顔になるんです!こんなのおかしいに決まってます!!」
「始業式の日に転校生が話しかけてきたら、そりゃどう話して良いか分からなくなるだろ?それが当然って言ってるんだよ!」
苦し紛れの言い訳、淋崎は持っている持ち札を全て散らされてしまった。
「それも違います!私は中学2年の時に、一年ここに居させていただきました!クラスはその時から変わっていません!!」
「………」
中高一貫であるウチの学校、淋崎は中学3年の時に転校してきた。
「淋崎君は何か隠してます!お願いです!私、力になります!!教えて下さい!!」
「………何でだよ……!!」
淋崎は思わず口にした。
「何で、会ったことも無かった俺に会いに来て!初対面なのに俺の力になってくれる……?何でそこまでするんだよ!!アンタに何がかえってくるわけでも無いのに!何でなんだよ!!!」
淋崎は必死にもがいた。何故なら、少女のさっきの言葉で『希望』を持ってしまったから。
たった数分で今まで縁の無かった希望を持たされてしまった。
それはどれだけの動揺を伴った事だろう。
だが、少女は淋崎の心境とは反対。軽く、優しい言葉でこう言った。
「みんなが明るい、それが一番だからです。」
その出会いは運命か、偶然か、必然か、それはどうあれ、これはそんな二人のお話。




