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偽性の王  作者: とーか。
3/5

舞踏会

 第9の月、18日。

 中立国フリージスの第一王女兼第六王子、キラルの誕生日を祝う舞踏会がとうとう開かれた。

 会場である、中立国フリージス所有のソロネ宮殿には、各国から大勢の権力者たちが集まった。

 数ある中立国の中で、最も大きく、古い歴史を持っているフリージス。その王女の誕生日を祝う舞踏会。断る者など、誰一人としているはずがない。


「なんとまあ、大きな宮殿だな」

「リン王子は、ご覧になるのは初めてでしたな。この宮殿は、フリージスの三代前の王が、ソロネ教教徒(きょうと)たちとの和解の記念に建てられたそうですぞ」

「…教徒との和解程度で、宮殿一つ建てる財力など、こちらには…無いな」


 リンは苦笑して、改めて宮殿を見上げた。

 どちらかというと、神殿に近い造りになっているらしい。エンタシスの柱がズラリと並び、訪問者を出迎える。

 残念ながら、ミリューニアにはこのような立派な宮殿は無い。少し羨ましくも思った。


「王子。もうそろそろ行きましょう」

「……ああ」


 中に入ると、すぐにボディチェックが入った。

 それを終えて、目の前のダンスホールに足を踏み入れる。

 そこは、浮き世離れした美しさだった。

 魔力の灯りが灯ったシャンデリアの(もと)、これまた美しい装束を纏った人々が集って談笑いる。

 今までに何度かは舞踏会に招かれたことはあった。しかし、ここまで絢爛豪華(けんらんごうか)なものには、リンは参加したことがない。

 あまりの眩しさに、思わず目を細めた。


「姉上たちを早々に嫁がせて正解だったな。ミトス」

「はい、まったくです。本当に…」


 リンの5人の姉たちは、自由奔放な性格で、さらに、我が儘とくる。

 出先で必ず何かトラブルを起こしては、『リリアンヌ~助けてっ!』と、リンを頼りにしてくるのだが、その内容があんまりだ。

 相手の姫君を貶したり、国宝を壊したり…、国民の血税を無駄遣いしたりと、やりたい放題だ。

 物の破損や、誹謗中傷くらいなら、リンの手腕でなんとかなる。だが、国民の血税の無駄遣いばかりは、我慢がならない。

 過去に数回、無駄遣いをした罰として、牢に閉じ込めたことがある。

 そんな姉たちも、今はいない。リンの措置で、それぞれ婚約者のもとへ嫁がせたのだ。

 それでも、度々(たびたび)帰ってきては、トラブルを相変わらず持ち込んでくるが……。


「さて、(くだん)の、キラル王女は…」


 リンがそう呟いたとき、ラッパの音が高らかに響いた。

 主役の登場だ。

 上座の上手から、王と、青いドレスを纏った王女が現れた。

 会場のあちこちから拍手が沸き起こる。

 王女から数歩遅れて、略式の鎧を纏った、隻眼に黒髪の騎士が現れる。


「ようこそ!中立国フリージスへ!!そして、我が第一王女、キラルの誕生日を祝いに来てくれたことに、深く感謝する。今日はどうか、普段のしがらみや、仕事を忘れて、大いに楽しんでほしい!!」


 王が話している間に、シャンパンのような酒が配られる。


「それでは、フリージスの繁栄のために…キラルの幸せに…、乾杯っ!!」


 乾杯がなされ、一口だけ、酒を含む。フワリと何か、果実のような香りが口いっぱいに広がり、すぐに蜂蜜の甘みも広がる。

 不思議な味わいの酒だ。

 リンが酒を飲み終えた頃、一人の騎士がリンを呼んだ。


「ミリューニア王国のリン王とミトス宰相殿で、間違いないだろうか」

「ああ。私がリンで、彼がミトスだ。お前は、王女の側についていた…」

「グレイ=セルディオと申します。フリージス軍、軍竜騎士団団長、及び、国家防衛軍将軍を務めております」

「ほう…。して、王女の騎士が何用だ」

「王女が貴方をお呼びです。中庭まで、来ていただきたいのですが…。よろしいでしょうか?」

「無論だ。もうそろそろお会いしたいと思っていたところだしな……」

「ありがとうございます。ミトス殿は、我が国の宰相と王が話をしたいと仰っておりますが…」

「喜んでお受けしましょう!では、グレイ殿。我が王を、よろしくお願いいたします…」

「御意に」




※※※※※※※※※※※




 リンとグレイは、宮殿を出て少しのところにそびえ立つ、フリージス城へと向かう。

 (いくさ)目的の造りでないため、他の城に比べて、優雅で開放的な雰囲気を纏っている。

 城門をくぐり抜け、城内を少し進むと、噴水広場のような空間に出る。

 といっても、屋外ではなく屋内で、天井は丸みを帯びたアーチ型で、神話の神々が丁寧に描かれている。

 目の前にはいくつかの扉があり、全て重厚な造りだったが、一つだけ木材で造られた白木の綺麗な扉が真正面にある。


「あの白木の扉の奥が、中庭となっています。そちらでキラル王女がお待ちになっています」

「わかった。案内ご苦労。で?お前はどうする、将軍」

「私は此処でお二人をお待ちしていましょう」

「ああ、そうしてくれ」


 リンはそう言って、白木の扉をそっと開いた――。

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