プロローグ ②
性別を偽り生きる、二人の王子と王女。
中立国フリージスの姫君の正体を、ミリューニア王国の王子、リンが知った頃…――。
中立国フリージスの王女もまた、リンの正体を知ろうとしていた…。
「くしゅんっ!!」
「おや、風邪ですかな?」
ところ変わり、中立国『フリージス』の城の中庭。
色とりどりの花々が咲く花畑に、小さなくしゃみが響いた。
「いえ…。大丈夫です。きっと、誰かが噂でもなさったのでしょう」
「ふむ…なる程。ああ、でももうすぐ日が暮れます。城へ戻りましょう。姫様」
「はい。兄様達がうるさいでしょうしね」
そう言って、青いドレスを翻し立ち上がった者、キラル=フリージス=メルティアこそ、“王女として育てられた王子”である。
彼、いや、彼女は大変美しくそこらへんの女性より美しく、愛らしかった。
そのせいか5人の兄たちが溺愛し、過保護になっている。
キラルとしては、城に閉じこもっているより、日の光を浴びて散歩するのが好きなのだが、滅多に許されないのだ。
「兄様達の過保護は困ります。気分転換もできないのですよ?」
「しかし、姫に何かあれば一大事なのは明々白々。しょうがないかと…」
「貴方まで言うのですか?グレイ」
「申し訳ありません。しかし、実際キラル様は過去に幾度も、暗殺されかけていますでしょう?」
「う…。けれど、だからって軟禁するのもどうかと思うのです。部屋に居てばかりでは、民の声も、貴方たち家臣の声さえ聞こえない。それに籠の中で大切にされすぎたら、その……」
「なんでしょう?」
キラルはキョロキョロとあたりを見てから、小声で言った。
「帝国のマルク王子のようになってしまう、かと…」
「……姫様。返す言葉もございません……」
大陸一の領土を誇るガルニア帝国。その第一王子は、史上最低最悪の王子として、名を馳せていた。
我が儘で、無知。民を家畜のようにしか思っていない。仕事はしない。しかし、遊びは派手で、夜な夜な女や貴族たちを招いて、パーティーを開いているという。
彼は、王室でぬくぬくと育った。だから、無知で我が儘に育ってしまった。
「マルク王子には何度か舞踏会でお会いになりましたが…、正直なところ、嫌いです」
「私も、貴女に初対面で求婚したときは、殺意を覚えましたよ」
あれは、3年前――キラルが13歳のころ。
帝国が中立国との親好を深めるのを目的に主催した、大規模な舞踏会があった。
そのときに、当時15歳のマルクがキラルに一目惚れをし求婚をしたのだ。
当然、キラルは拒絶した。しかしマルクは逆ギレして、一方的にキラルを責めた。キラルが本当の性別を明かしても、家臣が止めようとしても、聞く耳を持たず、暴れた。
マルクの父であり、帝国の王であるヴィシュカ王が、自ら止めてくれたおかげでその場は事なきを得た。
「そうだ。舞踏会といえば。再来週に開かれる、姫様の誕生日を祝う舞踏会に、貴女の婚約者候補が訪れるそうです」
「婚約者、候補……。まさか、マルク王子ですか!?」
「いいえ。ミリューニア王国のリン王子です。今では、王位も継いでおられる方だそうで……。そう、カルダス王が仰っておりました」
「父様が?ミリューニアの王子を?」
「はい。舞踏会に招く、と」
「父様のところへ行きます。グレイは、軍の宿舎へ戻って下さい。護衛、ありがとうございました」
「しかし…」
「グレイ=セルディオ将軍。わたしばかりにかまけてはなりません。これはフリージス第六王子、及び第一王女キラルとしての命令です」
グレイは目を細めた。
キラルが眩しく見えた。 グレイは恭しく跪き、キラルの手をとった。
「了解しました。キラル様。では、私はこれで…」
グレイが簡易的な甲冑を鳴らして去るのを見送ってから、キラルは城の中心部にある、父王の部屋を目指した。
「父様!キラルです。入ります」
「うむ。キラル、どうしたのだ」
「どうしたもなにもありません!ミリューニア王国のリン王子が婚約者候補とは、どういうことですか!!」
「ああ、グレイあたりに聞いたか」
「わたしは男です!彼も王子…男です。お世継ぎを産んでさしあげられませんし、なにより、こんな詐欺みたいなこと…って、なに笑っていらっしゃるのですか!?父様!!」
「そうか、お前は会ったことが無かったな。リン王子には」
「ええ…そうですよ」
「単刀直入に言おう。リン王子は女だ。正真正銘のな。なんでも、お前と似た理由で王子として育てられたそうだ」
「は?」
キラルのマヌケな顔を見た王は、とうとう声を上げて笑いだした。
「まあ、驚くのも無理はないか。つい先週、ミリューニアから宰相のミトス殿が来られてな。お前の噂を聞きつけて、わざわざはるばる、このフリージスまで足を運んだのだとか…」
「それで…?」
「いい機会だからということで、肖像画を交換した。ほれ、これがリン王子の肖像画だ」
差し出された肖像画を受け取り、そっと、包み紙を開いた。
そして思わず息をのんだ。
「この方が…リン王子」
顔は少しあどけなく、少女の面影がある。しかし、深い海のように青い瞳は力強く、威厳に溢れているのが絵画越しでもわかる。
髪はハニーブロンド。太陽の光を集めたような、長い金髪を、簡単に一本にまとめている。
「…気に入ったようだな。キラル」
「え…あ、えっと……はい…。絵画越しなのに、素晴らしい方だと、感じました」
「誕生日の舞踏会を、楽しみにしてなさい」
「……はい。父様。あと、それから……」
「うん?」
「先程は怒ってすみませんでした…。わたし、嬉しいです。ありがとうございます」
「喜んでくれたようでなによりだ」
王はニッコリと笑って、キラルの頭を撫でた。
「では、これで失礼します。お仕事、頑張って下さい…」
キラルは青いドレスを優雅に翻して、王の部屋をあとにした。
偽性の王、二話目です。
今回はキラル王女サイドです。
本番はこれから…なんですが、王族の口調ってわかりにくい……。
はあ…。
でも、できるかぎり頑張ります!!初連載作ですし!!
なにか要望的何かや、感想があれば送っていただけると嬉しいです。
まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします♪。