新世界
[新世界]
「うぅぅ〜……」
力のこもった、深いため息。
意味もなく出るそれは、規則正しく周囲の人間に対する時報と化している。
手荷物は少なめ。深く腰を下ろしたイスは心地よい振動を全身へと伝える。
手に持つのは目的地の座標を示した、一枚の地図。
周囲の音なんて耳に入らない。目的地に近付いて行くのを感じるのがやっとだから。
そんな少女を乗せた鉄の箱は決められた道を、決められたように、決められた時間どおりに走る。
赤くしるしをつけられた地図に目をやる。これで何度目だろうか。端っこの方はもうシワくちゃだ。
「うぅぅ〜……」
ふと窓の外に目をやる。
さっきまで殺風景な田舎だったのに、車が増え、ビルが増え、人が増え。
どうしてか少女は胸が苦しくなった。力いっぱい手に力を込め、目をつぶる。
こうしていれば、変わってしまう風景を見なくて済むから。
脳裏をよぎるのは、一度だけ見た新たな自分の部屋、その周りにあった建物、これから訪れるであろう未来。
そして、今までの生活。厳しかった父、やさしかった母、いつも一緒にいた友達、懐かしい通学路。脳にインプットされたそれらが、ひどく懐かしく感じられた。
期待と不安――どちらかと言えば不安の方が強い。
不意に涙がこぼれてしまいそうになる。
「うぅぅ〜……」
涙がこぼれないように、そっと目をあける。
またビルが増えた。
止まった。鉄の箱。入れ替わる人。
ある人は気だるそうに、ある人は朗らかに、ある人はシャンとして。
少女は突如、妙な自信を持つ。
『過去があるから頑張れる』
そんな気がした。それはいわゆる虚勢。でも少女は出来る気がした。
この新たな世界で、新たな風に吹かれながら、少女は心の中でほくそ笑んだ。
手の中にある赤いしるしから、何かが始まる。そんな期待を込めて。
今まで割とバイオレンス、スプラッタな方面に振ってしまったので、息抜き的作品に仕上げました。
如何でしたかね?
少なからず、旅立ちというのは、誰もが経験して一人一人感じ方は違ってくると思います。
今回は自分の中にある、
旅立ちとはカオスである!
といういかにも中二臭いテーマを前面に押し出してみました。
ろくでもない旅立ちばっかりしてる、というのは秘密。




