世界の終りの始まりに
中学3年生の受験生に「もし、第三次世界大戦が起こったら?」と言う、素朴な疑問を投げかけられたことが全ての始まりでした。
それに対する答えを簡単に書いたのが、序章【死の洗礼】でした。
それを読んだ受験生から「面白そうだから、簡単で良いから何か小説を書いてよ」そう言われ、調子に乗って彼女たちが主人公となる物語を書き進めたのです。
中学生が読むならと、1時間程度で読み切れる分量にしてあります。
少しでも受験勉強に疲れた皆様に届きますように。
序章【死の洗礼】
独裁国家の元首が、自分の死を悟り発令した「我が国の保有する核弾頭20発を世界の主要国へ向けて飛び立たせよ!」との言葉から僅か24時間、世界は核の洗礼を受ける事となる。
度重なる領空侵犯の警告を無視した航空機は、定刻通りに主要都市へ向けて核攻撃を開始。一瞬にして二千万人以上の命を奪う事に成功した。
その報復攻撃もまた苛烈を極め、独裁国家の偽装工作によって無実の国々へと更なる被害の拡大を招くことになった。世界の主要国の元首たちは蒸発し国家としての指揮系統が取れなくなった。これによって国連や自国の軍による災害救助すら活動は絶望的となった。また情報の分断は国を分割させ、多くの無法自治政府が誕生した。国として機能していた小国も国際援助が止まってしまっては、飢餓によって死んでいく国民を留める事が出来なかった。僅か十五分足らずで、人類が築き上げて来た文明は滅びを迎えたのだ。
世界には真っ黒に変色した放射線を含む雨や雪が降り、核によって巻き上げられた大量の塵は地球全土を覆いつくし、半年間にわたる核の冬を招いた。その結果、地球の平均気温は一気に30度も下がり、赤道直下の国々ですら雪が降り続く日々が続いた。
それから一年後、地球の人口は70億人を超えた状況から一気に30億人以下へと減少し、今な急激な人口減少は続けている。
人々はドームと呼ばれる放射線遮断壁の中で暮らすことが出来る人々と、放射線によって死の大地となった荒野で暮すことを強いられた人々の二種類となった。
「死の洗礼から一年か」
「元の世界を知っている俺たちにとっては、この一年は地獄以外の何物でもなったけどな」
「島国だった日本は、東京と大阪以外は辛うじて被害が少なかったとは言え、備蓄食料は早々に底を突いたし、蛇口をひねれば綺麗な水が飲めていた時代が懐かしいよ」
「死の洗礼で国会議員や内閣の大臣が蒸発して、国としての機能は麻痺していたらしいな」
「だからだろ。都道府県や市区町村単位でしか今でも活動が出来ていないのは」
「まだ航空機が飛ぶことが出来た、死の洗礼の直後に海外へ逃げていれば良かったんだよ」
「逃げ遅れた俺たちは、核の冬で海面が低下して大陸と陸続きとなっても、肝心の朝鮮半島が高濃度の放射線で人が数分も生きられないんじゃ脱出は無理な話だけどな」
「少しずつ暖かさを取り戻しているとはいえ、まだまだ核戦争前の気温には程遠いだろ」
「辛うじて残っている食料だって、何時まで持つかわからない状況なんだろ」
「ガソリンや石油で暖を取るにも限界があるし、農作物の育成にどれだけ使ったんだか」
「残り僅かと考えた方が良いとは思うんだけどな」
「昔に戻りてぇ」
「自分たちが如何に恵まれていたのか、こうなってみないと理解できなかったなんてな」
「平和ボケしていた当時の自分をぶん殴ってやりたい気分になるな」
「さてと、戻れない過去を惜しんでいても埒が明かないからな。今日の仕事を始めますか」
第一章【松戸駐屯地での苦悩】
死の洗礼から三か月、人々は徐々に数を減らしながらも今の日常を受け入れ始めていた。
食料は底を突き、汚染された水は疫病を流行らせた。
それでも数少ない放射線遮断壁を備えた自衛隊駐屯地へと集まってきた人々は、懸命に職務を全うしようとする自衛官たちに支えられ、煮沸蒸留した綺麗な水と携帯食料を手にすることが出来ていた。
そんな数ある自衛隊駐屯地のうちの一つ、千葉県松戸市元山駅付近にある陸上自衛隊松戸駐屯地。
陸上自衛隊需品学校として後方支援の役割を担う同駐屯地は、支援物資が他施設に比べて豊富にあり、更には野外テントでの風呂施設まであった。しかし、近隣の学校防災備蓄倉庫の食糧や水は早々に底を突き、噂を聞きつけて来た地域の人たちが押しかけて来た松戸駐屯地には、既に廃棄されたアパートや近隣の自衛隊官舎を開放しても人々が収まりきれなくなっていた。
如何に豊富に物資が有る松戸駐屯地とは言え、この事態は想定外であった。風呂施設は三日に一回の稼働が一週間に一回の稼働に減った。更には赤子や幼い子ども達が優先されるようになり、成人を迎えた人たちは濡れたタオルで身体を拭くだけの日々が続いていた。
「部隊を維持するのに必要な食料が備蓄されているとは言え、この人数を賄うだけの備えは無かったからな」
「後何日持つ」
「持って二週間、早ければ今週中には決断を下さなければならないかと……」
重い沈黙が場を支配する。
「現状を理解してもらい、少しでも分散して貰えれば、近隣の畑で取れた収穫物や野生動物の狩猟だけで食糧は賄える可能性も出てきます」
「果たして安全が確保されている場所から、望んで危険な荒野へと足を踏み出す勇気ある者がいるだろうか」
再び重い沈黙が流れる。
誰も手を挙げない可能性の方が高い事を皆が理解していた。
「それでも理解してもらわなければ、松戸駐屯地に避難している人達が共倒れになってしてしまいます」
「せめて生きる屍が徘徊していなければ、まだ理解者が現れたかもしれないが……」
死の洗礼の後、一部の人々は、生きたまま頭髪が抜け落ち、眼球や口など至る所から出血が見られ、手足の痙攣からか身体の動きは緩慢な状態に陥っていた。人々は彼らの事を生きる屍と呼んだ。
生きる屍は対話が成立しなくなり、他の人を襲う様になった。また、体液には狂犬病のように感染者を増やす働きが見られ、初期の頃は介抱しようとした人たちが襲われて感染者を爆発的に増やした経緯がある。
「無線機による情報共有によると、柏市、松戸市、船橋市、千葉ニュータウン方面のベッドタウンを中心に生きる屍が大量に徘徊しているとのことです」
「やはり人が多い所は感染者も多いということか……」
元が人だという事が攻撃を行う事を躊躇わせる理由になっていた。放置すれば感染者を増やすことになる事は十分に理解していたが、生きているのか死んでいるのか判断が出来ない状況であり、仮に病気なのだとしたら回復手段が有るかも知れない。そうした思いが駐屯地より外の世界をより一層危険なものにしていた。
「また、東京都内での爆発的な感染拡大の影響か、東京外環自動車道や関越自動車道では入口より入ったものの出口を見つけられない生きる屍が大量に集まっており、通行は困難とのことです」
「もともと放射線量が高すぎて、都内周辺は人が生身で歩くことはできんだろう」
核攻撃を受けてから僅か三か月では、放射線の減退期には遠く及ばない。生身で東京都内を歩けるようになるには、数年から数十年単位での年月が必要になるだろう。
「現実的な方法としては、新鎌ヶ谷駅まで行った後に北総線・京成成田空港線に沿って成田空港方面へ向かい、そこから芝山はにわ道を通って、旧蓮沼ウォーターガーデン方面まで抜ければ、汚染されていない海の幸を手に入れる事が出来るかと思います」
「問題は、徒歩での移動になるという事か……」
「既にガソリンは救助や支援物資の運搬で底を突いています。また、駐屯地の防衛の人でも足りているとは言い難い状況ですので、護衛を付ける事も難しいと思われます」
「もう少し早い段階であれば、自衛官による斥候部隊を派遣することもできたのですが……」
「自衛隊を頼ってきた市民を守る。それこそが今の我々の使命だ。しかし、多くの隊員が失われた」
「逃げ遅れた市民が居ないか確認をしにいって消息を絶った部隊や救援物資を届けに行った先で生きる屍の大軍に襲われた部隊……いずれにしても勇敢に職務を全うした英雄たちだ」
失われた同僚を思ってか、語気が荒くなる。
「現在、退役された諸先輩方や予備役の方々、警察官や消防官の方々にも協力して頂いていますが、人手は足りていません」
「やはり、安全な場所を離れ、苦難の道の末にある希望へ向けて一歩を踏み出す。そんな勇気ある者が現れるのを待つしかないのか」
自衛官たちは、誰も答えることの出来ない、再びの問いである。
粘りつくような重たい沈黙が場を支配する。
誰もが口を開きたいが、言葉を探し出すことが出来ないでいた。
自衛官たちは口を閉ざした。
今は、この状況を知ったうえで、名乗り出て貰うしかないのだ。市民の代表者に。
呼吸音すら響き渡りそうな静寂が揺れ動いたのは、どれ程の時間が経ってからだろうか。
一本の腕がスッと空中に挙げられ、一陣のそよ風を巻き起こしたかのように自衛官たちには感じられた。
「はいっ。私たちが先発隊として志願します」
一人の女性が、張りのある声で沈黙を切り裂いた。
女性と言っても、子供でも無い大人でも無い、そんな思春期真っ盛りの年齢だ。
「君は」
短い言葉だが、相手を威圧するのに十分な声の圧力だ。胸に光る階級章が、高位の自衛官であることを示していた。
「本来であれば、今春に高校へ入学する事になっていた、椚山第三中学校出身の髙村侑加と言います」
高校受験での面接を意識したような良く通る声は、質問をしてきた将官の声の圧力にも負けていない。
「苦難の旅になる。場合によっては死ぬことすらありえる。それでも志願すると言うのか」
将官の声は厳しさを伝えるのには十分な圧を備えていたが、内側に若者を死地へ送り出したくはないとの慈しみの気持ちも内包していることに皆が気付いていた。
一瞬ではあったが、侑加の顔が曇ったように感じる。
「その意味する処を十分に理解しているかと問われるなら、十分では無いかも知れません。それでも誰かが一歩目を踏み出さなければならないのであれば、私たち若者が動くべきだと思いますし、死の洗礼より前の自分たちに比べたら、今の私たちは苦難と死の意味を身近に感じて来たと実感しています」
先程の発現よりはトーンダウンしているが、それが逆に真実味を帯びさせるのに十分な効果を発揮している。
将官は侑加の目を真っすぐに見つめ、侑加も将官の目を見つめ返す。
根負けしたのは将官の方であった。目線を外し、暫し虚空を眺める。周囲の自衛官を見渡し覚悟を決める。
「再度の確認だ。行ってくれるか」
「はいっ!」
真っすぐな侑加の言葉は、疲れ切った自衛官たちの心に染みわたり、未来を目指す希望を持つのに十分な力強さがあった。
会議が終わった後、侑加は直ぐに一緒に旅をしてくれる仲間を勧誘しに同学年の生徒が集まっている格納庫へと向かった。
「侑加、お帰り。どうだった?」
何人かの女の子たちが、侑加を見つけると駆け寄ってきた。
「その事だけど、結論から言うと、私は九十九里浜の方まで徒歩で移動する事になった」
周りの子たちは、結論だけ言われて理解が追い付いていない様子だ。
「侑加、それじゃ伝わってないよ。もう少しわかるように説明して」
赤いパーカーにチェックのズボンを履いて、少し長くなった髪を無造作に一つ結びにしている女の子が、侑加に注文を付ける。彼女の名前は藤原令依奈。
「ごめんごめん。令依奈の言う通りだよね。順を追って説明するね。でも、その前に」
自分が食糧難の駐屯地を救うために危険な旅に立候補したという事実、それから未知の場所へと赴くという事柄、それらが侑加を興奮させるには十分な要因となっていた。
それでも「話していい事」と「話してはいけない事」の区別は付けなければならなかった。
だから、他の人には「ちょっとまっててね」と一言入れて、信頼している令依奈の腕を取ると半ば強引に散歩に連れ出した。
侑加は令依奈の手を取りながら、寄り添うように身体を密着させて、小声で会議の内容を打ち明ける。「駐屯地の食糧が底を突きかけていること」「自衛隊員たちの人員が限界に近いこと」「場所によっては、生ける屍が大量に徘徊していること」「首都東京から離れれば、食料や水の確保が出来るかもしれない事」を説明した後、「その仮説が正しいか自分が先発隊として志願したこと」を結論として付け加えた。
話を聞いている令依奈は、表情を変えずに内容の精査と今後の方針を練っていた。
「皆には、食料が少なくなっているから、危険はあるけれど九十九里の方まで偵察に行く仲間を集めています。危険な旅になると思うけれど、誰か一緒に行ってくれる人はいませんか?って、感じで伝えれば良いと思うよ」
令依奈は、一瞬思案顔になった後「凛や夏稀は一緒に行ってくれると思う」と、付け加える。
基地の外周を歩いた二人は、皆の待つ格納庫へと戻り順を追って説明する。
「侑加が行くなら、私も基地を出て行く。ここにいても仕方ないもん」
真っ先に賛同をしてくれたのは、予想通り鶴岡凛だった。引き締まった体型にショートカットの髪型とスウェットの上下が良く似合っている。
「凛は、駐屯地での生活に飽きているって、何時も話していたもんね。一緒に行ってくれるって信じていたよ」
侑加が凛に真正面から笑顔を向ける。
それに対して凛も屈託のない笑顔で答える。
「うちも一緒に行ってあげる」
やけに楽しそうな声色で賛同してきたのは、御団子に髪をまとめた仲嶋夏稀だ。
「ありがとう。夏稀が一緒に行ってくれるなら、明るい雰囲気で歩き出せそうだね」
「凛が行くなら、私も一緒に行こうかな」
やっと結べる程度の髪を後ろで強引にまとめ、お気に入りの薄茶色の眼鏡をかけなおしながら応じたのは、吉武彩華だ。
「凛と彩華が行くのなら、ここに残るより一緒に行った方が良さそうね」
中村愛衣は、気の置けない友達が居なくなることを危惧したような発言で、現状から起こりうる未来を考え、一緒に行くことに不本意ながら同意してくれた感が否めない。
「俺たちも一緒に言って良いか」
細長い体型をした栗原恭平が名乗り出た。縦ストライプの服が余計に身体の線の細さを強調している。
「ここに居ても未来が無いなら、少しでも可能性がある方へ賭けないとな」
自然な筋肉が恭平の3倍は有りそうな体形をしているのは、巨漢な湯浅翔太だ。特にトレーニングをしている訳でもないのに、体格だけ見ればスポーツ選手に引けを取らない。
「ウチだけ残してみんなして行かんとってや」
興味無さそうに輪の外側に居たのに、話ができる同じ中学校出身者が次々と駐屯地を出ていくと聞いて、慌てて参加を表明したのは、大阪出身の羽山香織。
他の人たちは、話を聞いても安全な駐屯地を出ていく勇気が湧いてこなかった。
「自衛隊に守ってもらえる駐屯地を出て、有るかどうかも分からない場所へ向かうなんて、本当にバカじゃないの」
本人たちは小声で話しているつもりなのだろうが、そうした声も多数聞こえてくる。
「わかっていたことじゃない。気にしたら負け」
聞こえてきた言葉が心に刺さる。その言葉に決心が揺らぎそうになるのを押さえつけるように、侑加は口の中でそっと呟く。
こうして侑加を含む九人の仲間たちは、少ない荷物をまとめ、旅に出る準備を始めた。
「この程度の物しか手渡せないのは、非常に心苦しいのだが……」
そう言って、自衛官は侑加たちに松戸駐屯地と連絡をとる為の無線機が1つ、自衛隊員御手製の弓が2つと包丁を5本、単一の電池が直列で4本入る真鍮製の懐中電灯が3本、それから水筒と毛布、雨合羽を人数分手渡してくれた。
「いえ、助かります」
侑加の素直な言葉だった。簡単な攻撃手段すら無い状態で危険地帯へと赴くのと、少しでも自衛手段が有るのとでは、心の安寧が雲泥の差だった。
「では、一日の終わりには定時連絡を入れますね」
「「「いってきます!」」」
子ども達の明るい声に、送り出すことへの不安と後悔を抱える自衛官や地元の大人たち。
そんな大人たちの中には、自分たちの行いを正当化するべく小さい声で「あの子らの親兄弟は、全員行方不明なんだろ」「子どもだけで行くなんて無謀極まりない」「勇敢と無謀をはき違えているんだ」等々……心無い言葉が聞こえてくる。そんな言葉が八人へと届かない様、自衛官たちの大きな声援が侑加たちの姿が見えなくなるまで響いていた。
第二章【旅の始まりと物資調達】
「成田空港までが約40km、そこから九十九里浜へ抜けるのに約25kmだから、事前の情報通りなら約65kmの行程になる予定」
出発直後に侑加が皆に聞こえるように今から歩く距離の確認をしていく。
「徒歩だと時速4km程度だったはずだから、1日5時間で20km程進めるかな」
すかさず令依奈が補足していく。
「何事もトラブルが無ければ四日間の行程ってところだね」
愛依がざっくりとした日数を提示して、大まかな工程が各々の頭に描き出される。
「なんか林間学校とか修学旅行みたいだね」
「大人の目が無いから自由に出来て幸せ」
早速、非常食として渡されたお菓子に手を付けている凛と香織。
「まぁ、四日間なら問題ないと思うけど、不測の事態に対応する為にも食事は計画的にね」
愛依が凛や香織、ついでに夏稀へも声をかけている。
「大丈夫やで、大丈夫。不測の事態なんて、そうそう起これへんから」
小言を言われたのかと思ったのか、香織が能天気な声色で応じる。
「そうそう。香織の言う通り。四日間なんて、あっと言う間に過ぎて、目的地に到着しているから」
凛も笑顔で香織に同調している。
「この二人の根拠のない楽観的な発言が、こんなに自信満々なのはなぜなんだろう」
本当に理解できないとばかりに顔を見合わせる侑加と令依奈。
「凛も香織もあんなんだけど、一緒に行くって決めたのも二人だから」
彩華が二人を庇うように侑加の後ろから声をかける。
「ちゃんと大変だってことくらい理解してるよ……多分ね」
少しだけ自信の無い発言をする彩華。その隣を歩く夏稀も「二人の事を信じてあげようよ」と、会話に加わってくる。
女子たちは、それなりに会話を楽しみながら散歩気分で歩いている。
「死の洗礼から三か月、やっとゲーム中毒から抜け出せた気がするよ」
翔太が大きく伸びをしながら話しかけてくる。
「強制的に電気が使え無くなれば、嫌でもそうなるさ。俺なんて、受験合格したら買う予定だったソフトが買えずに凹んだままだってのに……」
恭平は気怠そうに翔太に応える。
「ゲームオタクが受験勉強を頑張って、せっかく第一志望で合格をもぎ取ったっていうのにな」
最後尾を歩く翔太の大声が先頭を歩く侑加たちにも良く聞こえた。
「恭平も頑張っていたのに、何だか可哀そうだよね」
誰に言うでもなく、夏稀が後ろを振り返って翔太の声に反応する。
「タイミングが悪いと言うか何と言うか……」
愛依が憐れむように夏稀の声を拾うが、当人には伝わっていない。
「そう言う星の元に産まれたんだと、諦めるしかないんじゃない?」
何時の間にか会話の中に混ざっている凛の明るい声。彼女の声は、他の人の気持ちを照らしてくれるような、元気を分けてもらえるような、そんな雰囲気を作ってくれる声質をしている。だからなのか、少々きつめの発言や嫌味を言ったとしても「凛だから」で済まされてしまう事が多い。
「五月蠅い凛。ゲーム廃人とまで言われた俺が一年間、苦手な勉強を一生懸命した結果、無事に合格したのに目的のゲームを買えないなんて……どんな拷問かと思ったんだよ」
少しオーバーリアクション気味に悪態をついている恭平の声も、心なしか明るく感じる。
会話を聞いていた侑加は、「駐屯地を後にして良かったかも」と思い始めていた。
インターネットが使えなくなった瞬間、親兄弟の居場所がわからなくなった。
駐屯地同士なら無線である程度の情報共有が出来ていたが、無数にある避難所の何処に誰が居るのかは、情報の整理が出来ていなかった。また、生きる屍と化した住人は、身元が判明した場合も行方不明者として処理されていた。
この旅に同行している子供たちは、全員が親兄弟と離れ離れとなり、一部では死亡の確認が取れているが、殆ど連絡が取れず行方不明となっていた。だから皆で固まっていたし、自分たちの無力を他の人よりも実感していた。
肉親の死を受け入れるにしても、行方不明を受け入れるにしても、一人は寂しかった。
卒業式で別れたばかりの同級生が、どれだけ心の拠り所となっていたことか。
だから今、こうして一緒に歩いていられる。誰かしら肉親が松戸駐屯地に居たならば、侑加と行動を共にしようとする人数は減っていただろう。
車通りが無くなり、人も歩いていない。そんな寂しい道路を九人の若者が楽しそうに声を上げて歩いている。それは復興への足掛かりか、それとも破滅への序曲か。
彼女たちは、ほぼ四カ月前まで使っていた通学路を歩いて、母校を左手に見ながら通り過ぎ、普段だったら渋滞しているはずの裏道を歩いて、新鎌ヶ谷駅に到着した。実際には、駅前のアクロスモールやイオン新鎌ヶ谷店で何か食料や水分を補充できないかと寄ったのだ。
「やっぱりと言う感じだよね……」
愛衣が鼻と口をハンカチで押さえながら隣を歩く夏稀に話しかける。
生鮮食品や冷凍食品は腐り、酷い匂いを撒き散らしているのだ。
「飲料水は、どうだろう?」
夏稀の方もタオルで顔の下半分を覆っている。
これでも1階の窓ガラスが割れて、匂いは薄まっているはずなのだが、腐敗臭に慣れていない彼女らにとっては耐え難い苦痛だった。
「お菓子有ったよ~♪」
別の場所を散策していたグループから声が上がる。
あの声は夏稀だろうか。
「ほんまや!お手柄やな」
真っ先に駆け付けた香織が夏稀を褒める。
「グミがあるっ」
凛も飛び跳ねんばかりに喜んでいる。
そこへ他の面々も合流したが、表情が暗い。
「栄養価の高そうなクッキーなんかの焼き菓子は全滅ね」
令依奈が残念そうに言う。
「贈答用の缶に入った菓子類も根こそぎ持っていかれていたわ」
侑加が令依奈の発言を補足する。
「追い打ちをかけるようで悪いのだけど、麺類も駄目だったわ。カップ麺も袋面も乾麺も何も無いわ」
愛衣も合流して付け加える。
僅かな期待だったが、掠りもしないと損耗が激しい。
「なあ。栄養価なんかは分かんないけど、スープ類なら少し残ってたぞ」
そう言って翔太が手にしたお湯で戻すタイプのインスタント系スープを数種類見せて来る。
「缶詰も少し残ってた」
恭平も果物や野菜の缶詰を手に合流してきた。
どうやら棚の少し高い所、それも奥の方に残っていたらしい。
固形の栄養補助食品ばかりの生活をしていたので、こういった食べ物は本当に嬉しかった。
水分も賞味期限内の紙パックに入ったココナッツウォーターやらアルコール度数の高いスピリッツなどが手に入った。
2階の100円ショップに行くと、ハサミやら紙コップやら消毒セットやら、今欲しいものが軒並み棚に残っていた。
「100円ショップ様々だね」
凛と夏稀がテンション爆上がりとばかりに買い物かごに商品を入れている。
買い物リストは、令依奈が書いたものだが。
「やっぱり、こっちにも無いか」
侑加が見ている棚は、お菓子などが売っていたコーナーだが、商品はひとつも並んでいない。
「これだけあっても仕方ないかな」
そう言って愛衣が持ってきたのは、パスタソースが入った袋だ。
「ちょっとした料理なら作れるかもね。もらっていこう」
愛衣からパスタソースを受け取った侑加が、背負い袋にそれをしまい込んだ。
「こんなんでも武器として使えないかな」
恭平が持ってきたのは、手に持つタイプのパチンコと呼ばれる玩具だ。Y字になっている部分の先端に太いゴム紐が渡されており、その中央に皮の部分があってパチンコ玉を飛ばせるようになっている。
「それで何を飛ばすつもりなの?」
愛衣が訝しむように聞いてくる。
「流石に鉄の球は無いから、ビー玉でも飛ばしてみようかと思ってね」
「悪ガキが居る」それが女子三人の共通の思いだった。
「こんなのもあったぞ」
翔太が手にしている物は、1m位の長さの太い紐である。よく見ると中央に皮の受け皿がある。
「スリングショットなんて使えるの?」
侑加が冷めた目で男の子たちを見つめながら詰問する。
「なんで知ってんだよ」
誰も知らないと思っていたのか、翔太が残念そうに侑加の質問に質問で返す。
「ゲームに出てきたの。それで、使えるの使えないの?」
「玩具なんだから使い方は簡単さ。紐の片方の輪を手首に嵌めて、反対側を手の中に入れる。真ん中の更に石ころかなんか入れて、ぶん回してから手を放す」
実演した翔太が何かを投げた。それは、着替え用の鏡に当たって盛大な音を立てながら鏡を砕いた。
紐だと思っていた部分は2本のゴムで出来ていて、手で持つ部分は縄跳びの手に持つ部分に似ている。意外と威力は有るし狙った場所へと飛んでいくようだ。
「玩具とは言え、十分な殺傷能力があるんじゃないだろうか」と侑加などは考えたが、今はその手軽な武器が少しでも多く欲しかった。
必要な物を手に入れた侑加たちは、イオン新鎌ヶ谷店を出たところで振り返って、「ありがとうございました」と凛の元気な挨拶に皆が後に続き感謝の言葉を口にした。
一行は国道464号線を東へと向かって歩き出した。
「ねえ令依奈。不思議な事があるんだけど、聞いて貰える?」
唐突に侑加からの質問が飛んできたので、何事かと思った令依奈だったが、その表情から深刻なことでは無いと読み取った。
「私たち、今日一日歩いているけれど、生きる屍に会ってないのよね」
「そう言えばそうね」
「あまりにも平和な感じだったから、忘れていたけれど、生きる屍が多いと言われていた場所がこの先の区間なのよね」
北総線沿線には、西白井駅から小室駅周辺までは民家が比較的多い。そこから畑が多くなるが、千葉ニュータウンが近くなると途端にマンションなどが立ち並ぶ区画が見えてくる。
少し買い物に時間を取ったとはいえ、自分たちのテリトリーを歩いてきたので、疲労もさほど無いし、陽も南中に差し掛かったところだ。
「もう少し歩いてみて、周囲の状況を確認してみる?それとも安全な場所を探して今日は探索を打ち切る?」
令依奈の提案に思案して即答できないでいる侑加。
「もうちょっと進んで良いんじゃない。それでダメそうなら引き返せばいいんだし」
凛がひょこっと二人の間に顔をだして、侑加の替わりに返答する。
「疲れてへんのに休むなんて時間もったいないやん」
続けて香織も自分の体力がお菓子で回復したからなのか進む方に賛同している。
「普段だったら一番に文句を言いそうな香織と凛が良いと言っているから、私たちもそれで良いと思う」
彩華と愛衣も同意してきた。
「周囲の警戒は強化しなきゃだろうけど、新しい武器も手に入れたことだし、何とかなるでしょ」
翔太は既にスリングショットを右手に装備している。左手には拳程もある石を持ち歩いている。
恭平にしてもパチンコを手にしており、時々周囲を警戒している素振りを見せている。
「男の子って、本当に戦いとか好きよね」
呆れたように愛衣が言うが、当の本人たちには聞こえていない。
結局、誰からも反対意見が出なかったので、もう少し進んでみてから今日の寝床をどうするのかを考えることになった。
第三章【生ける屍との避けられない戦い】
北総線の脇にある道を東へ向かって歩き続けていた侑加と仲間たちが、生きる屍を初めて見たのは、眼下にある線路を歩く姿だった。
動きが遅いとは言え、自分たちを守ってくれる大人が誰もいない状況での出会いは、全身に戦慄が走り、誰も声を発する事が出来なかった。
恐怖に駆られた翔太がスリングショットで小石を投げつけてみるが、力み過ぎたのか小石は対象を大きく外れたて土手を転がるように落ちて行く。それに対して生きる屍は特に何も反応せず、ゆっくりと歩みを進めているだけだった。
大声を出したら生きる屍に気が付かれるかもしれない。その思いが誰も翔太の行動を見ても咎める事が出来ないでいた理由だった。
「何しとんのあんた! 頭おかしいんやない!」
そんな中、空気を読まないでブチ切れて大声を上げたのが香織だ。
顔面蒼白になって、香織の後ろと横から口を抑えに走る凛と彩華。正面からは愛衣が口の前に人差し指を縦にして静かにするようジェスチャーで告げる。
先頭を歩く侑加と令依奈も振り返るが、金縛りにあったかのように動くことが出来なかった。それは愛衣の横を歩いていた夏稀も同じだ。
「「「頭がおかしいのはお前だ!」」」と、誰もが思ったが、突っ込みを入れる余裕は誰にもなかった。
「翔太、危険を感じた時以外は、むやみやたらと生きる屍を刺激しない事」
侑加の静かな注意に素直に頷く翔太。自分がやらかした事に対する認識はあるらしい。
暫く歩くと、生きる屍との遭遇率は格段に跳ね上がっていった。
出来るだけ相手の視野に入らないように動こうとすると、極端に移動速度が遅くあり、場合によっては小一時間を建物や樹の陰に身を潜め、やり過さなくてはならないこともあった。
極度の緊張と遅々として進まない行程。その両方が重く精神的な疲労としてのしかかってくる。
「武器がいるな……」
恭平はそう言うと、打ち捨てられていた自転車に目を付け近づいて行った。
実際問題として自衛隊に渡された御手製の弓は、どうしても力が必要ではあるのだが威力も精度はある。だが、矢の本数が20本程度と少々心もとなかった。
矢の補充ができない今の状況では、無駄遣いをせずに最後の手段として強力な武器は温存しておきたかったのだ。
背負い袋からスパナを取り出し、自転車の車輪部分を取り外す。
スポークの部分の金属とゴムチューブを取り外し、慣れた手つきで車輪の部分を二つ折りにする。
「面白そうだから、手伝ってあげる」
凛が途中からスポークを取ったり、車輪を折ったりを恭平の動きを真似て作業を始めた。
他の人たちは周囲を警戒しながら、二人の作業を見守っていた。
恭平は、二つ折りにした車輪の両端を更に折り曲げながら引っかかりを作っていった。
その両端にペンチの根の部分を器用に使って横に切って伸ばしたゴムチューブを引っ掻けて、即席の弓を創り上げた。
矢にはスポークを少し加工した物を使った。
「廃材を利用した弓とスポークの矢だから、精度も威力も自衛隊員の作った物に比べたらイマイチだけど、5m位なら的に当てられるかな」
そう言いながら恭平が放った矢は、狙いを外さずに木の幹に突き刺さった。
「スパナとペンチだけで良くも作るもんだ」
翔太が感心しているが、それは自分には無い発想と技術を素直に認められる彼の美徳の一つでもあった。
凛の方も細かい所は恭平が手伝ったが、大部分は一人で作りきる事が出来た。
「どう?凛の方も出来たよ!」
とても嬉しそうに御手製の弓を掲げている。
「上手に出来たね凛。初めてとは思えないよ」
恭平が共感してあげると、凛は得意満面の笑顔を見せた。
「それで、何で恭平は“そんな物”の作り方を知っているのかな?」
侑加が詰め寄って聞いてくる。恭平は「あっ」と言ったきり、理由は話さずに侑加から逃げて行った。
「多分だけど、家で使わなくなった自転車でも魔改造して遊びで作ったってところでしょ」
令依奈が呆れ半分で鬼ごっこをしている二人に声をかける。
だが、「えへっ」と舌をだしたのは凛の方であった。
「悪戯っ子は、凛の方だったみたいね」
愛衣が令依奈の隣に来て、優しく笑いかける。
誰もが笑顔になり、少しだけ肩の力を抜くことができたことで、自分たちが緊張していたのだと気が付いた。
そんな和んだ空気を切り裂くかのように悲鳴が轟いた。
全員に再び緊張が走り、悲鳴のした方へ全員で急行した。
「そこに犬がおったから撫でようかと手を出したら噛まれた」
ひとり蚊帳の外で散策をしていた香織は、特にすることも無くなり犬と戯れてようとして噛まれたと主張した。
その噛み跡を見た侑加、凛、彩華の三人は、それが犬によるものでは無く、人間サイズの何かに噛まれた跡だと気が付いていた。だけど、香織が何でそんな嘘を言うのか判断がつかなくて聞くに聞けない様子で口をつぐんでいた。
「それ犬の噛み跡じゃなくない?うちの弟が噛みついた時に出来た跡にそっくりやもん」
夏稀だけは違った。気になった疑問が口から出て来た。
「犬でも人間でも噛まれたなら消毒しておきましょう。黴菌が入ったら大変だから」
侑加が持参していたエタノールを使って香織の傷口を消毒する。
「ごめんな……」
侑加にだけ聞こえる程度の小さい声で、香織が口にするが何に対しての謝罪なのかは不明なままだった。
羽山香織が嘘をついた理由は、北総線の線路脇の茂みに横たわっている生きる屍であった。
彼女は、これを見つけると警戒をしたが、翔太が石を投げても意識が向かなかったことから、「きっと大したことはないで」とばかりに不用心に近づいて行った。
生きる屍は香織が側まで行っても動く気配すらなかった。
「死んでんちゃうやろか」
香織が生きる屍の顔を覗き込んだ時、それは閉じていた目を見開いて香織に襲い掛かってきたのだ。
咄嗟に左手で防御したので、首を噛まれることは無かったが、それでも強烈な痛みが左手に走った。
香織は悲鳴を上げて、手近にあったハンドボール大の石で生きる屍の頭を殴りつけた。
グシャリと鈍い頭蓋骨が割れる音が響き、生きる屍はピクピクと痙攣していた。
「はははっ」
香織の乾いた笑いは、一瞬後に現実へと引き戻される。
元が人間である生きる屍を死に追いやったという事実。
自分が生きる屍に噛まれたという事実。
少し離れたところから香織のいる場所へと走ってくる音が聞こえる。
幸い、返り血を浴びることが無かった香織は、事実と異なる事を皆に伝えることにした。
夕方に差し掛かった空模様は、何処となく雲が多く急速に闇の領域を広げていった。
死の洗礼前は、日本の輪郭が宇宙からでもハッキリと見える程に光り輝く街があったのだが、今は光を夜に見ること自体が珍しくなっていた。
時折見かける太陽光パネルを乗せた家は、夜でも電気が使える事があった。
侑加達は、夜の灯を求めて夕方から太陽光パネルを乗せた家を探して歩いていた。
幾つかは電気の通っていそうな家を見つけたとしても、窓ガラスが割られて家の中が荒らされていたり、綺麗な家を見つけたと思ったら家主が仏様となっていたりすることが多かった。
「後続の人が来ることになったら、こういう家々を拠点としながら向かっていくと思うから、少しでも家の中で休める環境を整えてあげられたらって思うんだけど」
侑加の提案に皆が賛同した。そこには自分たちも夜に明かりのある休める場所が欲しいとの思いが当然ながらあった。
「真っ暗な中で眠るのは、やっぱり慣れないよな」
翔太は、出来る事なら電気を付けて寝たい人だった。
「豆電球1個でも全然違ったんだなって、今になって思うよね」
「夜になっても暗くない室内がどれだけ有難かったか、無くなって初めて知ったもんね」
夏稀や彩華も賛同してくる。
「出来れば1階の窓にはシャッターが降りてくれると、今の状況だと嬉しいのだけど」
愛衣が理想の条件を付け加える。
彼らは、太陽光パネルの稼働している家を見つけては、行程を遅らせてでも皆で掃除をした。
仏様は、出来るだけ庭に穴を掘って埋めてあげる事にした。
血液や他の物で汚れた布類に関しては、こちらも穴を掘って燃やせそうであれば火を点け、無理そうなものは埋めて処理した。
窓は締め切ってあることが多かったので、家中の窓を開けて換気をしてから作業する事が多かった。
陰鬱な作業は、気持ちに影を落とし、周囲への気配りを疎かにすることになった。
そのせいで、多少の口論や機嫌を損ねる事も多くなった。
「少し肌寒いと思ったら、清掃作業をしている間に雨が降り始めていたのね」
愛衣が窓の外を眺めて、独り言のように言葉を発した。
「電気も有る、シャッターも有る。ついでに布団と食料も少々見つかったから、今日は、此処で身体を休めようよ」
夏稀の弾んだ声に心身ともに疲れ始めていた一同から反対意見が出る筈もなく、久し振りに安心して床に就くことが出来た。そして、一人の例外も無く泥の様に眠りに就いた。
翌日は、太陽が南中する頃まで誰も起きる事が出来なかった。
これまで家々を巡って清掃をする中で、太陽光パネルのお陰で冷蔵庫が生きている家庭からハムやベーコン、チーズなどが手に入ったのは嬉しい誤算だった。また、畑から未収穫の野菜が少し取れたので、IHクッキングヒーターやホットプレートによる温かい食事を取れたのは、幸運と言うほかなかった。
「死の洗礼以降、こういった食事にありつけなかったからな」
翔太は、少しずつ味わいながら食べている。
「令依奈ありがとうね。あなたがいなかったら、食材があっても誰も料理が作れなかった」
侑加の言葉に令依奈が少し照れ臭いような表情を浮かべている。
そう男性陣も女性陣も自分で料理を作ったのは家庭科の調理実習だけと言う状況だった。その中で、令依奈だけが自炊の経験があり、今回の食材を美味しく料理してくれたのだ。
「調味料は割と残っていたからね。皆の役に立てて良かった」
令依奈は、大それたことをしたとは思っていない。自分の出来ることをしたに過ぎないと考えているのだ。
「令依奈、私のお嫁さんになって!」
割と本気で凛が言っているのが判って、リビングは笑いに包まれた。
安心して眠れる環境と、胃袋が満たされれば、意外と元気が出て来るものらしい。
彼らは、途中にあるカインズホームやイオンモール、またジョイフル本田やビックホップにも立ち寄った。
少しでも飲料水や食料を得る為には、大きなショッピングモールは有難かった。
また、カインズホームやジョイフル本田では、塩ビ管とタコ糸を使った即席の弓を作り、戦力の補強を行った。
窓の無い館内は、どこに生きる屍や野生動物が潜んでいるか判らず、警戒しながら必要な物を捜し歩くことになり、神経を擦り減らしての行動は、必要以上に体力と精神力を消耗した。
塩ビ管で作った弓は、キョンという元々は中国の固有種である柴犬程の大きさの小さい鹿を狩るのに重宝した。房総半島の南部にあった動物園から逃げ出した数十頭が、数万頭まで膨れ上がり、今では千葉ニュータウンの方まで進出してきていた。
狙う的としては小さいが、日本での生活に慣れた種は人間を怖がらないので、意外と楽に弓で射ることが出来た。
手に入れた肉も水も必ず火を通すようにした。凛が湧き水を見つけて、そのまま一口飲んだだけで、激しい腹痛と嘔吐に悩まされることになったからだ。
そして……千葉ニュータウンを超えて成田へ向かう途中、いよいよ生きる屍を避けて通れない状況に陥った。
道は高架となっていて逃げ道は無い。複数の生きる屍が徘徊しており、身を隠せるような場所も無い。
「さてと、覚悟を決めるか」
翔太が塩ビ管を使った弓を握りしめ、背中に背負った筒から取り出したスポーク製の矢をつがえる。
「出来れば眉間を打ち抜く、無理そうなら足の骨を砕けば動きは止められる」
真鍮製の懐中電灯を逆さまに持った恭平が、骨を砕く覚悟を決めて緊張した声を上げる。
凛と香織が懐中電灯を、他の女性陣は弓を構えて息を呑み込んだ。
翔太が飛び出す。目の前には男性の生きる屍が此方に気が付いて、大口を開け両手を前に突き出した格好で向かってくる。
距離にして教室1つ分、翔太は足を止めて弓を構え、狙いを定めて矢を射る瞬間を見定める。
「わるいな」
ぶっきらぼうな翔太が、精一杯の気持ちを込めた一言が漏れ出た。
放たれた矢は、吸い込まれるように生きる屍の眉間を貫いた。
途端に白目になった生きる屍は、天を仰いで地面に倒れ込み、小さく痙攣を始めた。
その横を走り抜けていった恭平が、女性体の生きる屍へ横なぎに懐中電灯を力任せに振るって、単一電池4つ分の重さを十分に乗せた一撃を相手のコメカミへと打ち付けた。
頭蓋骨が割れる音が響き、生きる屍は横に吹き飛び地面を転がった。
懐中電灯を振るった恭平も他の面々も予想外の威力に唖然とする。
威力は理解した。後は自分たちが攻撃できるかどうか。
「やるよ!」
侑加の声が全員の鼓膜を叩いた。
「今は考えない!」
令依奈の声が背中を押す。
押し寄せる生きる屍の群れを、次々と自分たちの手で打倒していく。
男性、女性、老人、子ども……。手に残る骨を砕く感覚、目の前で崩れ落ちて行く人型。
自分の手で人生の最後を相手に与える感覚。
慣れない、慣れてはいけない。
胃から熱いものがこみ上げてくる。
それを必死に飲み込みながら手を動かす。
「これがゲームだったらな……」
恭平の声が全員の想いを代弁する。
ある程度の目途が立ったのは、スポークで作った矢が尽きる頃だった。
緊張の糸が切れる音がした気がする。
愛衣がストンと地面に座り込んだ。
「あれっ脚に力が入らない」
「少し安静にしていれば回復すると思うから、慌てて立とうとしないで」
令依奈が愛衣の横に腰を下ろして上半身を支えてあげる。
凛と夏稀、それから彩華が愛衣の側に寄ってきて、肩を貸しながら少しずつ愛衣を立ち上がらせる。
「矢の本数が残り僅かだ」
翔太が筒の中の矢の本数を数えて伝える。
「どこかに補充できる場所があると良いんだけど」
侑加が周囲を見回すが、矢を作れそうな物は見当たらない。
「もう少し予備を作っておけばよかったね」
令依奈が言うが、現状ではどうしようもない事を理解している。
「そんなこと良いから、早く先に進も」
凛が愛衣を支えながら動こうとせかせる。
「そうね」
侑加も他の人たちも同意する。
「正直、気持ちのいい雰囲気じゃないもんね」
彩華が後ろを振り返らずに後ろに転がっている自分たちが終わらせた生きる屍の亡骸を暗に示唆する。
愛衣の回復を待って歩き出した一行は、誰も口を開こうとせず葬式の列のようだった。
時折遭遇する生きる屍は、大人数の集団に出くわすことが少なかったので、出来るだけ回避していたが、それでも戦闘となるときには容赦せずに葬り去りながら歩みを進めた。
そのまま口数は減り、口を開けば口論となる事が増えた。
主な口論の原因は、香織と凛の不満が口を付いて、それに翔太と恭平が感情のままに返答する事によって過熱していくという構図が出来上がっていた。
初めは止めに入っていた面々も、次第に疲れが溜まって口論を放置するようになっていた。
そうした中、人の形をした生きる屍を攻撃することは、精神的に削られる作業と化していた。
「もう出会いたくねぇな……」
恭平が下を向いたままぼやく。
「ほんとにね」
恭平の横を歩く夏希が、空を仰ぎ誰にともなく答える。
第四章【羽山香織の変異】
羽山 香織は生きる屍に噛みつかれた傷を掻きむしっていた。
「ほんまになんなん!むかつくわ!」
幾ら掻いても疼きが止むことは無かった。既に皮膚はめくれ上がり、血がにじんでいた。だが、痒みは有るが痛みを感じる事は無かった。
自分が自分で無くなっていく感覚に恐怖を覚えてから、情緒不安定になった香織の自傷行為は、日々激しさを増して自分では止める事が出来ないところまで来ていた。
「どうしたんだ。怪我してんなら、消毒液でも持ってくるか?」
闇の中から姿を現した翔太が香織の背後から声をかける。
「驚かさんとって」
皆寝静まっていると思っていたから、突然の声に心臓が飛び出しそうなほどに驚いた香織は、慌てて掻きむしっていた腕を隠してつっけんどんに対応した。
「まぁいいや。水でも飲んで落ち着けば」
無造作に翔太はペットボトルに入った水を香織へ差し出した。
「なんなん。止めてマジで」
香織はペットボトルを振り上げた手ではねのけた。地面を転がったペットボトルは、キャップが外れて水が地面に染みを作っている。
「おまえ水が貴重だってわかっててやったのか」
瞬間湯沸かし器の様に感情が沸騰した翔太が声を張り上げて香織に詰め寄る。
「大声を出してどうしたの」
寝入りばなに大声で叩き起こされた侑加がテントから顔を出す。
他の面々もテントから這い出て来た。
恭平は怒鳴り声に反応してテントから飛び出し、険悪な雰囲気で睨み合っている香織と翔太の間に自分の身体をねじ込み、状況は理解できなかったが二人を引きはがした。
「何が原因か判らないけれど、二人とも落ち着いて」
令依奈は今にも翔太へ飛び掛かろうとしている香織を翔太から遠ざけながら声をかける。
夏稀と彩華も香織をなだめているが、興奮収まりきらない香織は鼻息荒く翔太へ近づいて行こうとする。三人がかりで押しとどめるのがやっとだ。「香織って、こんなに力あったかな」彩華は場違いとは思いつつ、香織の力強さに疑問を持った。
「バカの相手は時間の無駄!」
両手を上げて降参の仕草をしながら、翔太は捨て台詞を吐いて自分のテントに潜り込んだ。
バカと言われて怒り心頭な香織は、自分の感情が制御できていない事に気が付いていなかった。そして、力任せに自分の身体にまとわりついている令依奈と夏稀、それに彩華の三人を振りほどく。
「人のことバカにして、あいつ殴れへんと気ぃ済まへん!」
香織が興奮しながら翔太のテントへと入ろうとするが、誰も押し止める事が出来そうにない状況に困惑しながら見守っていた。
パンッ!っと、乾いた音が響き渡る。香織が自分の熱くなった左頬を抑え、音を奏でた当人を鬼の形相で睨み付ける。
「どうしちゃったの、香織しっかりして! そんなの香織じゃない!」
そこには、普段大人しい愛衣が絶叫しながら立っていた。その顔には、一筋の涙の通った後が見て取れる。
愛衣の悲しみに暮れる顔を見て、その瞳に映っている歪んだ自分の顔を見て、一瞬正気を取り戻した香織。
そして、愛衣から距離を取ろうとするかのように後ずさり、踵を返すと森の方へと走り出した。
「香織待って!」
その後姿に愛衣が声を掛け、追いかけようとする。
「付いてこないで、ほっといて!」
既に冷静さの消え失せた香織が、振り返りもせず大声で愛衣の行動を制した。
夜の森へ姿を消していく香織。
どうしたらいいのかわからない状況に出くわし、硬直したかのように誰も動けずにいた。
「夜の森は危ないからな。俺が行ってくるよ」
状況を見守っていた恭平が、香織の後を追って暗闇の中へと姿を消していく。
侑加は、その二人の後ろ姿に不吉な物を覚えたが、不安を口にすることが出来なかった。
それでも不安を押し殺して、やっと口から出てきたのは「気を付けて」という言葉だった。
暫く暗闇が支配する森の中を香織の向かった方向と僅かな痕跡だけを頼りに追いかける恭平だったが、ふと違和感を覚えた。追いかけている香織の痕跡が、やけに低い位置に集中しているのだ。地上から1m程の場所より上には香織が通ったのであろう痕跡が無くなり、地面には四つ足の動物でも通ったかのような足跡になっている。
「やだなぁ……悪い予感って、外れた試しがないんだよな」
恭平が言い終わるかどうかというタイミングで、藪が動いて大きな黒い塊が襲い掛かってきた。
恭平は咄嗟に左手で顔を覆い、右手に持っていた懐中電灯で飛び出してきたモノを殴りつけた。黒い塊は、また即座に暗闇に溶け込んでいった。
一瞬の攻防であり、邂逅も一瞬であった。だが、恭平の目には血走った目に血管の浮き出た顔をした香織の姿がはっきりと見て取れた。
「香織のヤツ、生きる屍になりかけてたのか!」
この事実を皆に伝えて、急いで移動するべきだと判断した恭平は、後ろ髪を引かれつつキャンプへ戻る事にした。
血相を変えてキャンプへ一人で戻ってきた恭平を、皆が囲んで何があったのかを聞く。
「香織を追いかけて森へ入ったら生きる屍が出た。急いでキャンプをたたんで移動した方が良い」
香織自身が生きる屍と化したことを話さないといけないとは思ったが、良心が女子の気持ちを察して話すことを躊躇わせた。
それでも、誰もかれもが血の気が失せると同時に、手早くキャンプをたたんで逃げなければいけないとの思いに駆られた。
女子たちは特に香織の無事を気にかけていたが、今は手と身体を動かして移動の準備を整えるのが先決だと気持ちを切り替えていた。
ある程度の片づけが終わって、平常心が戻ってきた時にふと気が付く。恭平の左腕から血が出ているのだ。
恭平の頭に「ゾンビに襲われて傷を負わされたら、次は自分がゾンビになる番だ」とのテレビで見た言葉が過る。香織も同じ状況だったんじゃないのか。
全身から冷たい汗が噴き出す。それと同時に尋常じゃない痛みを香織の噛み跡から感じる。
自分が自分で居られる時間が限られているという事を悟った恭平は、思考の渦に思いを向けた。
自分には、あとどれ程の時間が残されている。残された時間で何ができる。仲間たちに迷惑を掛けない為には……。
次から次へと浮かんでくる疑問に明確な答えは見いだせないでいた。
「顔が真っ青だぞ。今になって怖くなったか」
翔太が恭平にバスタオルを被せながら声をかけてくる。
そして、小声で「何があったか判んねぇけど、今その表情はまずい」と耳元で囁く。
「香織の豹変した表情を間近で見たからさ、緊張の糸が切れたら震えが止まらないんだよ」
実際に恭平は震えていた。だが、それは緊張の糸が切れたからではない。自分の死期を悟ってのものだ。この瞬間「誰にも悟らせない」「最後まで隠し通す」そう恭平は覚悟を決めた。
「嘘やん」
だが夏稀だけは、恭平の咄嗟に取り繕った仮面を瞬時に見破っていた。それでも何かを隠そうとする恭平の想いに真面目な雰囲気を感じて、その場で問いただすことをしなかった。
一方、香織の方にも変化があった。斑に意識が覚醒して、暗闇の支配する森の中で迷子となった自分に嫌気がさしていた。
「何やっとるんだろう自分」
薄っすらと霧がかかったような感じだが、恭平を襲った記憶もある。
「ほんとなにやっとんのやろ……」
意識が混濁していて、自分で考えているのか別の誰かの考えなのか判らない。
自分が自分で無くなっていく感覚。自分と言う確固たる柱が崩れていく感覚。
それが無意識下で進行していく恐怖と香織は闘っていた。
ふと夜空を見上げてみる。
「お月さん綺麗やな」
香織の目には、月も星もプラネタリウムで見た情景と同じように感じられていた。夜目が異常に効くのだ。昼間と同じとは言わないが、闇に閉ざされた深夜の森の中でも、彼女の目にはハッキリとモノが見えていた。
だから、ソレが動いている様子も暗視ゴーグルを付けて居なくても見つける事が出来た。
体長1mを超す熊が、息を殺して闇に潜んでいる。
向こうも自分を認識している。お互いに迂闊には動けない状況だ。
「そないに時間たってへんし、皆もまだこの辺におるんやろうな」
今ならキャンプへ逃げて行けば、皆が守ってくれるだろうという考えが一瞬頭を過った。
しかし、熊が皆にとって危ない存在であること、自分も皆にとって危ない存在であること。その認識が香織を森の奥へと突き動かした。
武器も無い、意識も何時消えるかもわからない、そんな絶望的な状況にも関わらず、香織は不思議と怖くはなかった。
「しゃあない、みんな頼りないから、ウチが頑張らんとな」
香織の表情には、皆を守っているという高揚感が笑顔となって溢れていた。
迷いのなくなった心は、身体を軽くして木々をかき分け走る力となった。
大きな熊も自分の領域での狩りとばかりに追いかけて来るが、香織との距離は縮まらない。
だが、そんな香織の意識は長くは持たなかった。
徐々に意識が泥の中へと沈んでいき、その表情から笑顔は消え失せ、両手を地面に着いて四つ足で走っていた。
「……もう十分やろ……」
混濁する意識の中で、香織が発した最後の言葉だった。
完全に香織の意識が無くなり、生きる屍と化した身体は、熊へと襲い掛かった。
一瞬にして縮まらなかった距離が無くなった。熊は反射的に立ち上がり、丸太の様な左腕を振り抜いた。
香織は顔面に熊の掌底を受けた。その一撃で、本来なら絶命してもおかしくはなかった。
しかし香織は熊へと殴り掛かり、噛みつき、引っ掻いた。
熊の一撃で腕が折れ、肩が外れ、足があらぬ方向へと曲がった。
それでも攻撃する素振りを止めなかった。
最後は熊と噛み合い、首の頸動脈を断ち切られて香織の身体はようやく動くのを止めた。
熊は香織の遺体を咥えて、森の更なる奥へと消えて行った。
羽山香織の生涯は、こうして誰にも知られること無く幕を下ろした。
その頃になって、香織の安否が判らない事に後ろ髪を引かれる面々だったが、想いを断ち切ってキャンプを後にすることを決断する。
生きる屍となった人々は、生ある者を憎むかのように攻撃してくる。
そこに理性の欠片を感じる事は無い。また、痛覚が無いのか筋肉の断裂や骨が砕けるのもお構いなしに全力で襲ってくるため、子どもの身体でも大人より力強く感じる。
更に頭を潰して完全に動きを止めるか、四肢を折って動けなくするかしか方法は見つかっていない。
出来る事ならば、元人間相手に人道に反するようなことはしたくないと言うのが本音だ。
だから逃げる。香織が生きる屍に見つからない事を祈りながら。
そして、次の目的地へと向かう旨の手紙を、地面に突き刺した木の棒に挟んで置いておくことにした。香織が無事にキャンプへと戻ってきて、この手紙を見つけてくれると信じて。
第五章【最後の我儘】
鶴岡 凛は、もう一歩も動くことが出来なかった。高熱によって手足には力が入らず、腰を支えることすらできなかったからだ。ぐにゃりと歪む視界。隣を歩いていた仲嶋夏稀が咄嗟に支えなければ、地面に崩れ落ちていただろう。
「凛、すごい熱」
夏稀の慌てた声に前を行く一同が振り返る。
皆疲労困憊の状態だったから、仲間の健康状態まで把握しきれていなかったのだ。
「何時から具合悪かったの」
攻めている訳では無いが、侑加の声には、疲れと凛の体調の変化に気が付けなかった自責の念からか棘があった。
「へへへっ気が付かなかったでしょ。凛、役者かな」
明るく振舞っているが、どうみてもやせ我慢だ。
「パカ。ちゃんと体調悪いなら言わないと」
侑加は「気が付いてあげられなかったじゃない」との言葉を飲み込んだ。自分が不甲斐ないからだ。凛のせいじゃない。ずっと一緒にいたのだから、一番に異変に気が付いてあげられたはずなのに。
「ごめんね。ついでに、もうひとつ」
凛の声は何時でも明るい。この声を何時から聞いていなかったのだろう。
「ベッドのある場所で、出来れば明るい場所で休みたいな」
自分の我儘が通るとは思っていないけれど、それでも言葉にだしてみる。この状況なら、ひょっとしたら我儘が通るかもしれないとの打算も有った。
「それなら昨日、掃除した家が使えるよね」
凛の状態を見て青ざめて、少し遠巻きにしていた彩華が要望を叶えてあげようと声にする。
確かに、昨日掃除した家なら太陽光パネルの力で夜でも電気が付いていた。家の人を供養して空気も入れ替え、腐った風呂の水などを捨ててから時間も経っているし、匂いも気にならないだろう。
「ここからだと30分位かな」
太陽の位置と丘から見えている家々を眺め、昨日の家を確認した令依奈がおよその時間と経路を考える。
「自分で歩ける……感じじゃ無いよね」
夏稀が凛を支えながら、「自力で立てないもんね」と、心の中で付け加える。
「もう無理かな。誰かおんぶして」
甘えた声で凛が言うが、正直に言って誰もかれもが疲労困憊な状況だった。凛を抱えて三十分の道のりを歩ける自信は誰にもなかった。
そんな中、御手製の弓矢を翔太に渡すと、すっと夏稀に支えられている凛を御姫様抱っこする恭平。
「俺が抱いて行くから大丈夫だ」
普段なら凛と言い合いをする恭平が意外な行動を示すので、他の誰も声を出せないでいた。それは、抱きかかえられている凛も同じであった。落ちないように恭平の首に手を回し、真っ赤になった顔を恭平の肩口に押し付けて隠した。
その後の事を考え、誰もが口を閉ざしたまま黙々と歩き続けた。目的の家には、令依奈の予想通り30分程度で辿り着いた。
凛は玄関で恭平の御姫様抱っこから解放された。そして、皆を見回して。
「凛の冒険は、ここまで。元気になったら追いかけるから、皆は先に行ってて」
立っていられなくて階段の手すりに身体を預けながら、それでも何時もの様に明るく話す凛の姿は見て居られないものがあったが、彼女の想いを無駄にしない為にも前に進むしかなかった。
新型コロナかインフルエンザか判断はつかなかったが、食事も水も満足に取れず、生きる屍に怯えながらでは肉体的、精神的に削られていても睡眠が十分にとれなかっただろう。この状態で凛を放置すれば、二度と会うことは叶わない事を誰もが理解していた。
「いい場所が見つかったら、真っ先に迎えに来るからね」
懸命に涙をこらえているが、侑加の声は凛を置いて行った先の未来が脳裏をよぎり震えていた。
誰もが凛を抱きしめたい衝動に駆られていたけれど、それを凛が望んでいない事も理解していた。それでも女の子たちは皆で凛を囲んで抱き合い、泣かないように、出来るだけ笑顔で。そう思いながらお互いに声をかけあった。
男子二人は扉の前で女子の気が住むのを待った。
一人、また一人と凛から離れていく。最後に彩華が離れると、誰とも言わず凛に背を向けて、ゆっくりと歩き出す。彩華が玄関を出ると、涙をこらえる侑加がゆっくりと扉を閉める。その時、微笑む凛と目が合い「侑加ありがとう」そう言っているように聞こえた。
凛を残して家を出て、数歩進んだ時。
「俺の冒険も凛と一緒に終わりにしようと思う」
恭平が言った一言に動揺が走った。
真っ先に突っかかったのは彩華だ。
「凛と別れたばかりなのに、何をふざけたことを言ってるの!」
彩華の顔は今にも噴火しそうなほど真赤だ。
それでも恭平の顔は平然としている。
「左手を野良犬に噛まれたんだ。正直、立っているのもやっとの状況」
そう言って、紫に変色した左手の噛み跡を見せる。
「そんな状態で、凛を抱いてたの?」
夏稀は信じられないと立ち尽くす。
そして、気が付いていながら言葉にしなかった疑問をぶつけてみる。
「香織を追いかけて行った時だよね」
飾り気の無い夏稀の言葉は、恭平の胸に突き刺さった。
「……噛んだのは、野良犬じゃない……香織だよ」
これで最後とばかりに観念した恭平は、あの時の事を白状した。
「自我を失った香織は、昔見た狂犬病に侵された人間みたいだった。多分だけど、俺も近いうちに同じ症状が出て来ると思う」
「恭平の笑顔が作りものだって判ってたんだ。けど、聞けなかった。正直に答えてくれて、ありがとう」
何時も夏稀の言葉は真っすぐだ。凛と同じで言葉に裏表が無い。
恭平の顔には最早取り付く必要が無くなったからか、額には脂汗が滲み、立っていることに全精力を使っていることを誰が見ても判るほどに憔悴した表情へと変化していた。
立ち尽くしていた侑加は「まただ……気づいてあげられなかった」との自責の念を積み重ねて声をかけられないでいた。
「無理なんだな」
ぶっきらぼうな口調で、それまで沈黙を保っていた湯浅翔太が恭平に問いかける。
恭平は頷く。最早言葉は必要なかった。
「置いて行こう」
翔太は侑加の方を向いてそれだけ言うと、恭平と握手を交わした。その際、手の中に密かに渡された物に気が付き、誰にも知られないようにしっかりと握りしめた。そして、彼に背を向けて歩き始めた。
何かを察した愛衣と令依奈が、後ろから侑加の肩に寄り添い「凛を宜しくね」と恭平に声をかける。そして、三人ひと塊で翔太と同じように踵を返して歩き始める。
「凛と一緒に居たいって、本気なんだよね」
彩華は恭平の顔を真正面から見て、まだ気持ちの整理が出来ていないのか問い詰める感じで言った。
恭平はコクリと頷き、彩華の目を真正面から見つめ返す。
「なら、最後くらい恰好付けておいで」
彩華は微笑を浮かべて、恭平の肩を思いっきり叩く。その勢いのまま後ろを向くと、侑加達の元へと走っていった。
最後に残った夏稀は、恭平に向かって手を差し出した。
「最後くらい、友達として笑顔で別れないとね」
口では笑顔と言っているが、凛と同じように無理やり笑顔を作っているのが判ってしまう。
「夏稀とのやり取りも楽しかったよ」
そう言って、夏稀の手を取り笑顔を見せる恭平。
その後は二人とも何も語らず、どちらともなく手を放すとお互いに後ろを向いて、振り返らずに己の進むべき道を歩みだした。
「さてと……ベッドが有るのは二階だったよね……」
誰も居なくなった家で、力の入らない身体に鞭を打ってベッドルームへと続く階段を上り、水筒の水を大事に一口飲んで呼吸を整える。少しでも気が緩めば、一気に心の堰が崩れて泣き出してしまいそうだったからだ。
「やっぱり寂しいな……一緒に旅は無理でも、誰かに残ってもらえば良かったかな」
誰も居ない、声を返してくれない。それがこれほどの淋しさをもたらすことを初めて知った。何時まで待っても父親と母親が帰ってこなかった死の洗礼の日。両親の生死すら定かではない不安な日も、友達と一緒に人が多く非難してきた駐屯地に居たから耐えられた。でも、急速に衰えていく自分の身体と死を予感して過ごす一人の夜は、耐えがたいものがあった。
「もう泣いても良いかな」と思ったとき、一階の玄関扉が開く音がして緊張が走る。それでもベッドから起き上がる気力は無く、誰かが入ってきたという気配だけを追うのが精いっぱいだった。
みんなと別れて間もないし、「誰かが来てくれたのかな」そんな期待もあったが、誰とも判らない人間が家の中に入ってきた不安の方が勝っていた。
一階を徘徊していた足音は、次第に階段を上ってくる音へと変化し、ついにベッドルームの前へとやってきた。
ノブが回され、扉が開く。
「凛のことだから、一人は寂しいんじゃないかなって思って、俺も残っちゃった」
そういって、栗原 恭平が扉を開いて部屋に入ってきた。
緊張していた全身の気が抜け、凛はベッドに全体重を預けるように横になった。
恭平は、凛が横になっているベッドの端に腰を下ろして、「自分も体力的に限界だったみたいなんだ」そう言って左手を見せる。そこにはこぶし大の紫色に変色した皮膚の中心に噛み跡があった。噛み跡は、上から爪で引っ掻いた跡が蚯蚓腫れになっていた。
「頭痛はひどくなる一方だし、気持ちの方も情緒不安定になってきているんだ。それに、水が怖くて飲めないんだ。ジュースなら飲めそうなんだけどね。多分、俺も長くは持たないと思う」
恭平は、そう告白した。しかも傷が骨まで達しているらしく、平静を装いながらも脂汗を垂らしながら歩いていたことも告白した。
「そんな状態で、私を抱いて歩いたの! 馬鹿じゃないの!」
凛に勢いよく怒鳴られて、恭平は微笑んでいた。久し振りに凛の力強い芯のある声を聴いたからだ。
「それそれ。凛は何時でも元気な声を出していないとね」
恭平は凛の声に少なからず安堵し、一筋の涙が頬を伝う。
「近い将来、正気を失って、皆の前から消えるだけなら良いけれど、誰かを傷つけたくないから最後くらいは格好つけたいじゃん。俺も男の子だからさ」
そういった恭平の顔は、真っすぐに凛を見つめている。凛は、先程の御姫様抱っこを思い出して再度赤面する。
「あっそうだ。良いモノがあったんだ」
そう言って恭平が持ち上げたのは、懐かしいビニール袋だった。
「パントリーにしまってあったお菓子が、けっこうな量あったからもらってきちゃった。それに、ジュースもペットボトルのが2本あったから、二人でお菓子パーティーなんてどう」
恭平の努めて明るい声が部屋に響き渡る。
「あんたバカじゃないの」
私なんかと一緒にいる為に仲間と一緒に旅を続けなかったこと、この状況でも明るく振舞っていること、お菓子なんて今となっては貴重品を二人で楽しもうとしていること。色んな事が入り混じって、「バカ」の一言しか出てこなかった。
凛の明るい声も部屋に響いた。表情も先程とは打って変わって久し振りの明るい表情を見せていた。
最後の晩餐。二人の脳裏に過った言葉は、口に出したら全ての支えが崩れていきそうで怖かったから、どちらも口にすることは控えた。
凛と恭平は努めて明るい表情と声色をして会話を楽しんだ。時折、凛が激しく咳き込み、それが落ち着くまで恭平が背中を優しく抱きしめてあげる。呼吸が徐々にしにくくなり、乾いた音が凛の喉奥から呼吸の度に聞こえてくる。
「久しぶりの甘い物は幸せの味がするね」
とても嬉しそうな声色とは裏腹に凛の瞳からは止め処なく涙が溢れていた。
「死にたくないな……」
嗚咽と共に漏れ出た本音。
「パパとママともっとお話をしたかったよ、もうすぐ会いに行くね」
脈略の無い言葉が洪水のように溢れて来る。それを恭平は静かに相槌を打ちながら見守っている。
塞き止めていた不安と後悔は、一度口にすると止める事ができなかった。
夜が明けた時、珍しく雲の切れ間から陽が差していた。その日、鶴岡凛はその短い将来に幕を下ろした。その寝顔は安らかなものだった。
「お休みなさい。良い夢を」
凛の髪を優しくなでながら、呼吸が静かに止まるのを見守っていた恭平。
「僕も一緒に行くから、そこで待っていてね」
もう幾ら呼び掛けても返事の来ない凛の寝顔に優しく声を掛けると、一瞬のためらいもなく持っていた包丁で自分の胸を一刺しして、凛に覆いかぶさるようにしてベッドに倒れ込む。凛の吐血した跡に恭平の胸から溢れ出る血が混じり合い、掛け布団を鮮血で染め上げる。
「……凛のいない世界で、狂って死ぬなんてまっぴらごめんだからね」
混じり合う二人の血が、最後まで胸に秘めた思いを代弁する。
無慈悲な世界へと取り残された者へのせめてもの手向けとばかりに、雲間から差し込む優しい光が二人を包み込んだ。
第六章【それでも生きていく】
侑加、令依奈、夏稀、彩華、愛衣、翔太の六人は、成田空港の広い敷地内に生きる屍が大量に徘徊しているのを横目にひと塊になって歩いていた。
平時でも1万2千人が利用する空港であり、死の洗礼直後は海外へと逃げていく人でごった返していたという報道がされていた。
そこへバイオハザードが起きたのだから、今目の前に広がっている光景にも納得がいくというものだ。
砂糖に群がる蟻のように、際限なく金網に生きる屍が集まってくる。
「金網が壊れたら、一気に襲われるやん」
夏稀の一言に全員の恐怖が倍増した。
「そう言うのを“フラグ”っていうんだ」
翔太は慌てたように声を荒げる。
「回収したくないフラグよね」
侑加も表情を硬くしている。
金網を止めているボルトが1本、足元へと転がってくる。
「走って!」
令依奈の声で駆け出す六人。
その後ろで何かが倒壊する派手な音が聞こえてくる。
その音が連鎖的に後ろを追いかけて来る。
「いやぁ絶対振り返れない!」
彩華が必死の形相に涙を浮かべながら全力疾走する。
「夏稀、後で説教!」
普段は大人しい愛衣が大声を上げて夏稀を非難する。
「ごめんてぇ~」
色んな意味で涙目な夏稀が、悲鳴を上げながら走る。
生きる屍の足が遅かったのと、翔太以外は運動部で慣らしていた身体が今でも言う事を聞いてくれたおかげで、全員無事に逃げ切る事ができた。
「夏稀……覚えてろ……」
翔太の息も絶え絶えな咳き込みながらの怨念じみた声が聞こえてきたのは、空港の敷地を抜けて、道の左右に埴輪が立っている芝山はにわ道へと入ってからだった。
その頃には、翔太以外の面々も流石に息を整えるのに必死で返答ができる者はいなかった。
「……」
全員の荒い呼吸音が、打ち合わせをしたかのように一瞬止んだ。
「ぷっ」
夏稀が最初に噴き出し、釣られるように六人で声を出して笑った。
ひとしきり笑った。そして、
「香織、凛、恭平、何で今一緒にいないの!」
侑加の叫びを皮切りに全員の気持ちが堰を切って溢れ出した。
「凛、会いたいよ」
彩華が愛衣と抱き合って泣いている。
必死に感情を押し殺そうとしている令依奈も、侑加を抱きしめながら、瞳の端から零れ落ちる涙を抑えきれないでいた。
夏稀も言葉にならない言葉を発している。それは最早絶叫に近かった。
喜怒哀楽のどれであったとしても、溢れ出した感情は連鎖的に押し止めようと努力していた他の感情の波を刺激して、津波の様に次から次へと留まる事無く押し寄せて来るらしい。
女子たちの気持ちの高ぶりに流されそうになった翔太だったが、我に返って周囲の警戒を解くわけにはいかないと再度緊張の糸を張りなおす。
そして、ポケットに入れっぱなしだった、小さく折られた恭平からの最後の手紙を思い出して、ゆっくりと広げて読むことに事にした。
『こいつを受け取っているのは、翔太だろうから、気兼ねなく全てを書く。おそらく香織は生きる屍となった。もう皆の元へ戻ってくることは無いだろう。俺も香織に噛まれてから意識の混濁が徐々にみられるようになってきた。精神を侵食されていく感覚は、感染してから約1日で始まる。香織の状態を見るに残り時間は2日程だろう。俺も皆の元へは戻れない。明るく振舞っているが、昨夜から凛の調子が悪そうだ。もしもの時は頼む。最後くらい凛にカッコイイ所見せられていると良いのだが。この手紙を侑加たちに見せるかどうかは翔太に任せる。Good luck!』
夜の見張りの時にでも書いたのだろう。何時でも渡せるようにタイミングを見計らっていたのかもしれない。
「どんな思いで、この手紙を書いたんだ。お前は器用なヤツじゃなかったから、これだけの文を書くにしたって時間かかっただろう」
そして、恭平と凛を残してきた方角を見て
「最後はかっこつけられたと思うぞ」
と、小さな声で付け加える。
ひとしきり泣いた女性陣は、目をはらして酷い顔をしているが、その表情から陰りが消えていた。心に溜め込んでいた膿を全部吐き出して、気持ちが軽くなったのだろう。
翔太は幾分冷静な令依奈に近づき、そっと言葉を書ける。
「侑加と二人きりになれるタイミングで読んでくれ。恭平からの手紙だ」
そして、そっと令依奈の掌に折り畳んだ恭平からの手紙を置く。
「なんで私に」
「他の連中だと、また泣かれそうだから」
ぶっきらぼうな言い方だが、令依奈は妙に納得してしまった。
芝山はにわ道へ入ってからは、拍子抜けするくらい平和な旅路となった。
リビングデットとの遭遇も殆ど無く、有ったとしても開けば場所や隠れる場所が豊富だったので戦闘になることは無かった。
生きている人とも何人か出会い、井戸水を分けて貰ったり、竈で作った料理を御馳走になったりした。
広い畑と海産物、それから井戸水が自給自足に近い生活を支えていた。
確かな人の生活が此処には根付いていた。
「最大の難所は、成田空港かな。そこさえ何となれば、人としての生活をすることが出来るようになるかもしれない」
侑加の判断に皆が頷く。
翔太がバックパックの底に仕舞ってあった無線機を取り出す。
「知らせるだろ」
「ありがとう。松戸駐屯地へと知らせるには、いい頃合いだと思うの」
そして、松戸基地との連絡が繋がると、通信先では奥で歓声が上がっているのが聞こえて来た。そして、高架や成田空港での危険性やソーラーパネルの付いた家を休憩所として活用できるように清掃してある旨を伝え、基地の無事と此方の状況に自衛隊の方でも移動の検討を始めるとの返答を貰った。
「最後になりますが、生きる屍からの感染リスクは、噛みつかれたり引っ掻かれたりする事による接触感染の可能性があります。これは、私たちの仲間が二人感染して、そこから得た知識を元にしています。もしも移動する場合は、極力接触を避け、遠距離から生きる屍を行動不能にしてから通り過ぎる事を推奨します。また、感染から自我の消失までは最低でも1日の期間があるようです。体感ですと3日がリミットになるようです」
恭平の最後の手紙から得ることが出来た貴重な知識を伝える。
令依奈と侑加は、夜の見張り番を二人でしている時に恭平からの手紙を読んだ。
翔太の予想通り、二人は手紙を見ながら涙を流したし嗚咽も漏らした。それでも耐えられたのは、恭平が凛を思い続けたて、最後はかっこつけられたからかも知れない。多分、凛の方でも寂しくなかっただろう。そう思える事が救いだった。
一通り報告をした後、無線機の電源を切って、ゆっくりと息を吐く。
三人の友達を失った悲しみは確かにある。でも、自分たちの生活基盤を作っていく為には、今を大切にしていかなければならない事も理解している。
混乱しかける頭を無理やり稼働させ、正常な思考を維持しようと心がける。
安全は担保されたわけではない。何時、生きる屍に襲われるか判らないし、生活が出来なくなるかも知れない。
そんな漠然とした不安も確かにある。
折り畳み式の小さな太陽光パネルを開き、久し振りに携帯電話の電源を入れて音楽を流す。
自然と涙が溢れて来る。自分の居場所を求めて、安住の地を求めて、身体一つで飛び出して気が付けば2週間の旅の末に見つけた場所。旅の仲間は減ったけど、今は声を出して叫びたい。
「私たちは、此処で生きていく!」
最後まで侑加達の冒険を読んでいただき「ありがとうございます」。
勉強に疲れた学生の為に書いた作品です。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
どんな世界になっても、知識は“あなた”を助けてくれます。
世界が崩壊した後「あのときこうしていれば」と悔しないよう、今を一生懸命に生きて下さい。
では、何時になるかわかりませんが、次回の作品でお会いしましょう。




