第8話 桜仙花学園の華麗なる日々(5)
桜仙花学園の学校生活は、いろんな意味でわたしの想像を上回るものだった。
まず、生徒も先生もみんな優しい。
弥勒寺さんとのファーストコンタクトがアレだったから多少覚悟はしていたけど、靴に画鋲を入れるみたいな陰湿ないじめは今のところ無く、むしろみんな平凡な外部生のわたしに親身に接してくれている。
今日の登校時に話しかけてくれたのも、内部進学組の生粋のお嬢様だ。
「ごきげんよう、高遠さん」
「うん、ごきげんよう、米村さん! 今日もすっごくいい天気だね!」
「今週末、飯島さんと学食のカフェでアフタヌーンティーをする予定なのですが、ご一緒にいかがでしょう?」
「えっ、いいの?」
「ええ、高遠さんのお話、とっても興味深いんですもの」
淑やかな彼女の微笑みは素朴で、嫌味や皮肉の色はない。
庶民のわたしにとっては当たり前のことも、離宮のお嬢様にとっては新鮮に聞こえるらしい。
輝知会長が入学式で言っていたように、桜仙花学園の生徒は心も綺麗だ。
表情はみんな活き活きとしていて、陰口や悪意の気配すらない。
家柄と能力に絶対の自信があるから、そもそも他人を扱き下ろす必要がないのだろう。
当然、学校設備も文句のつけようがない高水準だ。
カフェ併設の食堂や、可動式体育館、屋内温水プールに始まり、無人コンビニ、武道館、図書館(図書室じゃないよ!)、診療所(保健室じゃないよ!)、コンサートホール、スポーツジム、スケートリンク、地下グラウンドなんてものまである。
およそ高校生が扱うスポーツ用品や楽器は網羅して倉庫に保管されており、さながら宝物庫のようだった。
桜仙花学園の、そして離宮の財力をこれでもかってくらい体感したよ……
ただ……授業のレベルがはちゃめちゃに高い!
国数英とかの一般科目はもちろんだけど、世界中の文化芸術やマナーに関する教養まで徹底的に叩き込まれるんだよ!
最初の一週間はイスカちゃんやクラスメイトに半泣きで助けを求めながら凌ぐのが精一杯だったよ!
芸術なんてベートーベンとモナリザしか知らないよ!
でも、それを過ぎて学園生活の要領が分かってくると、だんだん楽しさの方が勝るようになってきた。
勉強も実践も難しけど決して理不尽じゃなく、蓄えた知識と論理を駆使すれば必ず解決できる。
新しい知識を得るとワクワクするし、それを使って難問を解けると嬉しい。
授業内容も通り一遍の記憶や計算ではなく、『なぜこのような事件が起きたか』『どうしてこのような法則を導き出せるのか』という掘り下げを軸としたもので、わたしは勉強という行為そのものの奥深さを知りつつあった。
学校でこんな充足感を味わうのは初めてだ。
わたしがそういう風に思えたのも、やはりイスカちゃんをはじめとするクラスメイトの存在が大きい。
身近に優秀な人、尊敬できる人がいると、『自分もああなりたい』って奮起できるんだ。
そういう意味では、弥勒寺さんは同級生の中でも頭一つ抜けていて、わたしもすごく尊敬しているんだけど……当の弥勒寺さんのわたしに対する態度はいつも素っ気ないものだ。
わたしに対する当たりが強いというより、元々彼女は人と深くつるむタイプではないのだろう。
物腰こそいつも丁寧だけど、彼女が特定の誰かと親しくしている姿は見たことがない。
本人のスペックが段違いすぎて、この学園内ですら浮いているのかもしれない。
もっとも、入学式の日に輪を掛けて弥勒寺さんの気が立っている理由には、ものすごく心当たりがあるんだけど……




