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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第2章 桜仙花学園の華麗なる日々

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第5話 桜仙花学園の華麗なる日々(2)

 就寝前こそ緊張で眠れるか不安だったけど、低反発マットレスのベッドはそんな緊張さえも和らげ、わたしをあっという間に快適な眠りに誘ってくれた。


 どこからか聞こえる鐘の音で目を開けると、既に朝だった。

 どちらかと言えば朝が苦手なわたしだけど、ぐっすり眠れたためか二度寝したい欲が全く湧いてこない。恐るべし高級寝具パワー。


 ライムちゃんの部屋をノックしてみたけど、返事はない。

 昨日の謝罪も兼ねて朝食くらいはご一緒したいと思っていたけど、いないのなら仕方ない。


 食堂にはホテルビュッフェも顔負けの料理が所狭しと並べられていて、わたしはスクランブルエッグとベーコン中心の朝食を頂いた。

 もっといろいろ食べ比べしたいのは山々だったけど、入学式から昨晩の二の舞を踏むわけにはいかない。


 部屋に戻って洗顔と歯磨きを済ませ、制服に着替える。

 桜仙花学園の制服は深紅のブレザータイプで、襟や裾に金の刺繍が施されている。

 高貴さと可憐さを兼ね備えたデザインで、袖を通すとシャンと気が引き締まる。


 胸元の赤いリボンが曲がっていないことを確認し、鏡の中の自分に笑顔を作る。

 うん、完璧!


 わたしは頬を叩き、通学鞄を手に意気揚々と部屋を出る。

 フロントの前を通る時、コンシェルジュのお姉さんが慇懃に挨拶をしてくれた。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」

「はい、行ってきます!」


 元気いっぱいに返事をするわたしの頬は緩んでいた。お嬢様、何て甘美な響き!

 いよいよ桜仙花おうせんか学園入学式! 気合いを入れて、行くぞっ!



 それから、約一時間後。

 自己紹介を兼ねたホームルームを終え、入学式が始まるまでの空き時間。

 クラスのみんなが楽しげに談笑する中、わたしは一人、机に突っ伏して悶えていた。


「う、うう……やっぱり早速トチッた気がするよぉ……」



 * * *



 桜仙花学園の敷地内は、まるでこの世の楽園だった。

 正門を一歩抜けただけで、わたしの視界は一気に明るく開けた。


 正面に聳える校舎は白亜の巨城めいた壮観さだ。

 煉瓦で整備された歩道の途中にも、立派な噴水や色鮮やかな花壇、休憩用のガゼボなどが立ち並び、階段の一段に至るまで息を呑むほどに美しい。


 そして、その中を闊歩するのは、それ以上に美しく淑やかなお嬢様たち。


「ごきげんよう」

「ごきげんよう。ご息災でしたか?」

「ワルシャワでの演奏会、お疲れさまでした。時差が大きいとご苦労も多いでしょう」

「春休みは芦ノ湖の別荘でゆっくり休むつもりでしたのに、従姉妹の披露宴にバンクーバーまで呼び出されまして……」


 まるで少女漫画でしか見ないようなやり取りが、そこかしこで交わされている。

 桜仙花学園は中等部が併設されており、入学式とはいえ大半の生徒は既に顔見知りのようだ。

 他所者のわたしには割って入る余地もないが、じきにわたしも彼女たちと親睦を深めることになるのだ。


 お嬢様って実際どんな人なんだろう、優しい子だと嬉しいな……

 そう思いながら彼女たちの横顔をまじまじと眺めていたら、視線に気付いたのか、訝しげな目を向けられてしまった。反省反省。


 外観に違わず、校舎内も宮殿のごとき美麗さだ。

 窓とか柱の造りからしてすっごくお洒落。

 吹き抜けの天井からシャンデリアが下がり、正面ホールに名画や彫刻がずらりと並ぶ有り様は、学校というより美術館と表現する方がしっくりくる。

 これ、うっかり壊したらいくら賠償請求されるんだろう……?


 おっかなびっくり廊下を進み、やっと教室に辿り着いたわたしは、席に着いてホームルームを待つ。

 椅子の座り心地やピカピカの床にいちいち感動していると、担任の先生がやってきてホームルームが始まった。


 担任の牛若先生は三十代ほどの物腰が柔らかい女性で、ひとまずわたしは安堵した。

 先生の簡単な挨拶を経て、クラスメイトのお嬢様たちが席順に自己紹介を行っていく。


「私、物心ついた頃からバイオリンを嗜んでおりまして、海外コンクールへの参加も何度か経験しております。同好の方がいらっしゃいましたら是非お友達になりたく……」

「デジタル技術に興味があり、在学中にNFTの持続性に関する研究と起業を行いたいと思っておりまして……」

「海外情勢の不安定さと日本政治の舵取りに不安があり、将来は外交官としての経験を積んだ上で政治に携わりたいという展望が……」


 ――んん~? これ、わたしって思った以上に場違いな存在~?


 表向き平然とした表情で拍手しながらも、順番が迫るにつれ、わたしの心臓はバクバクしていた。

 わたしがこの人たちと比べて自慢できることなんて、木登りと昆虫採集くらいしかないぞ。

 ああでもない、こうでもないと考えるうち、わたしに順番が回ってきてしまう。


「それでは次は高遠さん、自己紹介をお願いします」


 先生からわたしの名前が飛び出した瞬間、わたしは椅子を蹴って立ち上がっていた。

 せめて背筋をピンと伸ばし、わたしは上擦った声で話し出した。


「わっ、わたしは高遠たかとお陽香ハルカと言います! 出身は長野県の登坂町って所で、進学をきっかけにこちらに来ました! 得意な科目とかは……ええと、これといって無いんですけど……」


 この期に及んであれこれ考え続けていたわたしの脳裏に、あの凛々しく勇ましいお嬢様の姿が浮かんだ。


「でも、目標はあります! 紅華べにばなの一員として、輝知かがち生徒会長の隣に立てるくらいの最強のお嬢様になることです!」


 その一言を口にした瞬間、教室が不穏な空気に包まれた。

 先ほどまでとは明らかに様子を異にする雰囲気で、教室のそこかしこで小声のやり取りが交わされる。


「紅華の……?」

「あの方、自分が何を仰っているのか分かっているのかしら……」

「まぁ仕方ないでしょう、外部生ですから……」


 思いがけないクラスの反応に、わたしはおろおろと狼狽えることしかできない。


「あ、あれ……? わたし、何か変なこと言っちゃった……?」


 結局、気の抜けた拍手がパラパラ鳴るだけの微妙な空気のまま、次の人に自己紹介の番が回る。

 とめどなく脂汗を流すわたしの耳には、もはや何の言葉も聞こえてこなかった。

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