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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第9章 VSマスカレード

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第39話 VSマスカレード(5)

《盟約の教会・上層 円卓の間》


 集団の先頭に立つ狐面は、目の前で起きたことを理解できていない様子だった。


「バッ……バカな……こんなバカなことが……!」


 床を蹴ったコシュカは、無防備な瑞月を背後から()()()()()()脇を素通りし、最も近い狐面の喉笛を引っ掴んで床に叩き付けた。

 背中を強打した狐面は、たった一撃で白目を剥いてしまう。


 二人の狐面は矛先を変え、コシュカに殺到したものの、今度は八咫烏によって妨害された。


 譜吟は瞬きの間隙で狐面の死角に入り、脇腹への肘鉄で入口側に吹き飛ばした。

 残る一人の狐面に、夢二が足払いをかけ、体勢を崩したところに膝蹴りをお見舞いする。


 仰向けに転がり、悶える狐面たちに、コシュカ・譜吟・夢二の三人が吐き捨てる。


「ウテナがこの程度の使い手にやられるとは、全く情けない」


「んだよ、勿体ぶって出てきておいて、やっぱり雑魚じゃねぇか」


「はー、とんだ肩透かしですねー。ガチで何しに来たんですかー?」


 寸時唖然とした後方の狐面は、慌てた様子で気絶したウテナをコシュカに見せつけた。


「正気ですか、富良様! こちらには人質がいるのですよ!? 今ならまだ――」


「ウテナ、いつまでそのような醜態を晒しているのですか」


 コシュカが非難の言葉を掛けると、ウテナの肩がわずかに動いた。


 狐面が反応するより早く、ウテナは彼女の顎を掌底で突き上げる。

 不意の攻撃を受けた狐面は、床に横ざまに倒れ、あえなくダウン。


 瞬時にコシュカの元に戻ったウテナは、苦渋の表情で詫びた。


「申し訳ありません、少々不覚を取ってしまいました」


 片手で側頭を押さえるウテナを見て、気を遣った瑞月が申し出る。


「我々に任せて下がっても良いのですよ」


「お気持ちだけで結構ですわ。やられっぱなしでは私の気も済みませぬゆえ」


 固辞するウテナが向き合う相手は、あくまで狐面だ。

 ウテナのみならず、コシュカを含めたその場の全員が、他校そっちのけで狐面と対峙している。


「ありえない!」


 離宮の三大勢力が肩を並べる様を見て、狐面は絶叫した。

 仮面越しでも分かるほど動揺し、声高にコシュカを問い詰める。


「紅華と八咫烏が我々に与しない可能性は多分に想定しておりました。しかしなぜメビウスまでもが我々と対立し、あまつさえ他校の自警組織と共闘するのです!? 離宮の覇権を虎視眈々と狙い、他校と明確な対立関係にあるあなた方が!」


「浅はかですね。『敵の敵は味方』などという軽薄な考えで、我々がどこの馬の骨とも知れないあなた方と結託するとでも?」


 対するコシュカの瞳に、狐面に対する興味や友好など微塵もない。

 傍らの仇敵、輝知瑞月には目もくれず、ただ狐面だけを視界に収めている。


「あなたは我が校の大事な同胞を傷付けた。そして我々メビウスは、何者であろうとも如何なる理由があろうとも、同胞に刃を向ける者を決して許さない。あなた方と対立する理由は、それ以外に必要ありません」


 コシュカの眼差しは、獲物を逃がさぬ虎のそれだ。

 窮地に陥った狐面は、救いを求めるように視線を彷徨わせる。


「ぐう……し、しかし、ならばなぜ紅華と八咫烏は……!」


「勘違いすんじゃねーよ」


 狐面の台詞を遮った譜吟は、一歩踏み出し、コシュカと瑞月を親指で指し示した。


「確かにオレたちはこいつらのことを煙たく思ってるよ。性懲りもなく妙な悪だくみする聖イリアも、ついでにお高く留まった桜仙花もな。第三次お嬢様事変とまではいかずとも、いつか何らかの形で決着を付けなきゃならねーと思ってる。けどな、それはオレたちが、オレたちの意志で戦うと決めた時の話だ。雑魚の指図で振りかざす拳なんざ持ち合わせちゃいねーんだよ」


「長いんでバカでも分かるように要約しましょうかー? 『余計なお世話』、『他所者はすっこんでろ』、つまりそういうことなんですよー」


 譜吟に続き、夢二が間延びした声で補足した。

 瑞月は譜吟の横に並び、滔々と狐面に語り掛ける。


「我々はお互いのことを理由なく憎み、反目し合っているわけではありません。たとえ通う学校や掲げる理想、それを実現するための手段に相違があろうとも、魂の根幹に根差す想いはただ一つ」


 そして胸元に右手を当て、凛然と響く声で宣言した。


「すなわち、お嬢様の危機に立ち上がる志。そこに学校や主義の違いなど関係ないのですよ」


 桜仙花学園【紅華】会長・輝知瑞月。


 黎明学園【八咫烏】団長・佐羽足譜吟、副団長・湯逸夢二。


 聖イリア女子校【メビウス】副総代・富良コシュカ、蓮野ウテナ。


 決然と立ちはだかる五人を見上げ、床に伏す狐面の数名が恍惚とした声を上げた。


「かっ……かっこいいですわ……!」


「ちょっ、いきなり何を言い出すのですか!」


 狐面の一人が慌てふためいた様子で叱りつけるも、時すでに遅し。

 一人、また一人と彼女たちは狐面を取り、床に額を擦る勢いで平伏する。


「大変申し訳ございませんでした! 皆様のお力やご理念を軽んずるあまり、このようなとんでもない狼藉を……!」

「如何様にでも償いはいたします! ですからなにとぞ、なにとぞ寛大なご処分を!」


「チィッ、日和りましたか……!」


 最後に残った狐面は舌打ちし、円卓の間を脱しようと駆け出した。


 しかしノブに手を伸ばした途端、ドアは勢いよく外側に開いた。

 勢い余って外にいた人物の胸元に衝突した狐面は、呆気なく円卓の間に弾き返されてしまう。


「おいおい、お嬢様会談はいつから仮面舞踏会になったんだ?」


 紅華三花弁、火虎茜。

 並んで立つ五人のお嬢様と、惨めにへたり込む狐面を見比べ、茜はニヤリと笑う。


「楽しそうだな、俺も混ぜろよ」


「今まさに終わったところですよ、茜」


 腰に手を当て、瑞月は淡白な言葉を返す。

 皮肉にも自分が挟み撃ちにされる形となり、抵抗も逃走も封じられた狐面は、がっくりと項垂れた。


「ここまで、ですか……」

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