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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第7章 お嬢様会談、開幕

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第28話 お嬢様会談、開幕(1)

 翌日の放課後。

 わたしと弥勒寺さんは、輝知かがち会長に随伴し、離宮の中心地にある鐘付きの教会を訪れていた。


 【盟約めいやくの教会】と呼ばれるそこは、離宮の四方を見渡せるほどに高く、朝夕に鐘の音を離宮に響かせる役割を担っている。


 教会自体は立派な外観なのだが、周辺には他の建物はおろか人気がまるでなく、舗装された地面には草木もベンチもない。


 全体的に華や威厳がある離宮の建築物の中において、やけに無機質というか殺風景というか、とにかく異質な雰囲気を感じさせる場所だ。


 八千重ちゃんに続いて無人タクシーを降りたわたしは、教会を見上げ、身震いを一つ。


「うう、既にヤバめの空気が漂ってるような……」


「ご安心ください。私の傍にいる限りは、何人たりともお二人に危害を加えさせません」


 同様にタクシーを降りた輝知会長は、わたしの傍らに立って断言した。

 心強い一言につい頬を緩めそうになったわたしだったが、教会の鐘を仰ぐ輝知会長を見てハッとした。


 輝知会長の横顔に、いつもの柔和な笑みはない。


「ただ、向こうも一筋縄ではいかない相手です。事前にお話ししました通り、盟約の教会は中立地帯……ゆえに会談中は私の指示に従い、くれぐれも勝手な行動は慎まれますようお願いいたしますわ」


「はい、もちろんです」


 わたしと八千重ちゃんは声を揃えて応じた。


 表情のみならず、輝知会長の言葉の端端からもピリついているのが伝わってくる。

 形は違えどここも戦場なんだと、わたしは改めて気を引き締める。


 教会の内部は上下に広い円筒形で、両手を組むマリア像と、幾つもの長椅子が設置されている。

 清潔で整然としているが、大事に手入れされているというより、利用者が極端に少ないためという印象だ。リミナルスペースじみた不気味ささえ感じる。


 わたしと八千重ちゃんは輝知会長に続き、教会の内壁に沿って設置された螺旋階段を上っていく。

 簡易な柵と足場だけの階段は頼りなく、教会の床が遠ざかるほど、わたしの足は竦んでしまう。


 頭上を見たところ、教会の上端は一つの部屋になっており、この螺旋階段はそこに繋がっているらしい。


 最上段に辿り着くや、輝知会長はドアノブを回して中に踏み入った。


 まず目に留まったのは、正面の壁に掛けられた聖母マリアの油絵。

 下の教会にあるマリア像と同じ構図で、今にも動き出しそうなほど瑞々しい筆致で描かれている。


 部屋の中央には樫の円卓が設えられ、卓を囲むようにして湾曲した長椅子が三つ設えられている。

 石造りの壁面には蝋燭型ランプが灯されていて、下の教会と比べて明るさは控えめ。


 面積は意外と広いが、厳めしく閉鎖的な内観だ。


 部屋の左右の壁に嵌め込まれた窓ガラスからは、地上が一望できるようになっている。


 右の窓際には一人のお嬢様が立っており、開け放たれたそこから頬杖付いて下界を眺めている。

 そしてその傍の長椅子にも、気だるげにスマホを弄るお嬢様がいた。


 外を眺めていたお嬢様が、ドアを開ける音に反応し、こちらを振り返って言った。


「おう、来たか、瑞月ミヅキ


 ぶっきらぼうな挨拶をよこすツインテールの彼女は、かなり背丈が小さい。恐らくライムちゃんと同じくらいか。


 ただ、三白眼の鋭い眼光は自信と威厳に満ちており、おいそれと話しかけることすら憚られる。

 輝知会長と同等の猛者であることは明らかだ。


 輝知会長は片手を挙げ、小柄な少女に挨拶を返した。


「ごきげんよう。いつもながらお早いご到着ですね、譜吟フギン


「オレらが早いんじゃなくてテメェらが遅いんだよ。臨時で招集かけておきながら、随分といいご身分だな」


「だからって三十分前行動は早すぎですよー。付き合わされる方の身にもなってくださいよー」


 譜吟フギンと呼ばれたお嬢様の刺々しい言葉に、円卓にもたれてスマホを弄るもう一人のお嬢様が、間延びした声で追従した。


 明るいブラウンの髪にピンクのメッシュを入れ、伸ばした爪をゴテゴテにデコッた姿は、ダウナー系のギャルという表現がしっくりくる容姿だ。


 二人は同様に、緑のブレザーにチェックスカート、青ネクタイという他校の制服姿だ。

 桜仙花学園の制服とは大きく異なるコンセプトだが、有り体に言うならすごく格好いい。


 輝知会長はわたしたちに向き直り、順に紹介した。


「あの小柄で横柄な方は、黎明れいめい学園の自警組織【八咫烏やたがらす】の団長、佐羽足さわたり譜吟フギン。座っていらっしゃる方は副団長の湯逸ゆいつ夢二ムニさんです」


「はいはい夢二ですよー、みんな大好き夢二ちゃんですよー」


 湯逸さんはだらけきった姿勢のまま、申し訳程度に左手を挙げてひらひらと振った。


 彼女たちの左腕の腕章に刻まれたシンボルは、六つの鳥の足跡。

 組織名から考えるに、背中合わせで立つ二羽の八咫烏の足跡、という意匠か。


「おいゴラァ、瑞月テメェ!」


 唐突に佐羽足さわたりさんの怒声が響き、わたしと八千重ちゃんは思わず体を竦ませた。


 もしかして怒らせちゃった……? というわたしの懸念は、見事に杞憂に終わった。


「誰がちっちゃくて強くてかわいい方だ! 褒め殺しでご機嫌を取ろうったってそうはいかねーからな! ふはっははははー!」


 佐羽足さんが腰に手を当て、小さな胸を反らして高らかに哄笑したものだから、わたしはすっかり反応に窮してしまった。


 ――あれー? 八咫烏のトップって、まさかのお調子者―?


 言葉を失うわたしたちに代わり、スマホから片時も目を離さないまま湯逸さんが横槍を入れる。


「団長ー、その笑いどころに困るギャグ、ぶっちゃけサゲなんでやめてくださーい」


 自分の団長相手に随分な毒舌ぶりだ。

 この短いやり取りで、彼女たちが一癖も二癖もあるお嬢様だということは十二分に理解できた。


 笑いの波が去った佐羽足さんは、そこでようやくわたしと八千重ちゃんに視線を向けた。


「ところで瑞月、その二人は何だ? お嬢様会談の参加者は、代表と幹部の二人ってのが通例のはずだが」


「紅華の新会員の、高遠たかとお陽香ハルカさんと弥勒寺みろくじ八千重ヤチエさんです。今回の議題に関する人物でもあるので、特別にお招きさせていただきました。差し支えありましたら下がらせますが」


「オレは構いやしねぇが、お嬢様会談に新入りを連れてくるとはいい度胸だな。よっぽどお気に入りか?」


 値踏みするような目で眺めながら、佐羽足さんは一歩、また一歩と近付いてくる。

 五歩目を深く踏み込んだ佐羽足さんは、低い体勢で構え、声を張り上げた。


「それじゃあ、ちょっくら――試してみっか、夢二ムニ!」


「はーい」


 座ってスマホを弄る湯逸夢二さんが、気だるげに返事をした直後。

 瞬きの一瞬で、湯逸さんは立ち上がり、わたしたちを視界に捉えていた。


 人間離れした敏捷力に驚く間もなく、佐羽足さんと湯逸さんは残像と化し、わたしと八千重ちゃんに迫った。


 固く握られた佐羽足さんの拳が、わたしの鼻先一ミリで停止している。

 横目を向けると、八千重ちゃんも湯逸さんの長い爪を額に突き付けられていた。


 一拍遅れてやってきた烈風が、わたしたちの髪を乱す。


 仮に寸止めでなければ大怪我は確実。

 しかし、わたしたちは微動だにしていない。


「……へぇ、避けも防ぎもしねぇか」


 拳を引き、佐羽足さんは獰猛に口の端を吊り上げた。


 わたしたちが『動けなかった』わけではなく『動かなかった』ということは、佐羽足さんも分かっていたようだ。

 答え合わせは八千重ちゃんの口からもたらされた。


「輝知会長から『指示するまでは勝手な行動を取るな』と厳命されておりますので」


「大した肝っ玉と忠誠心だが、感心しねぇな。身に危険が迫っても命令を優先するなんてのは、思考停止の奴隷と変わらねぇぜ」


 立てた人差し指を挑発的に振る佐羽足さんに、八千重ちゃんは尚も平然と切り返す。


「身に危険? 思考停止? 一体何の話をされているのです」


「うん。だって佐羽足さんも湯逸さんも、全然当てる気なかったですよね?」


 八千重ちゃんに続いて、わたしがそんな問いを返すと、佐羽足さんは驚き顔でまじまじとわたしたちを見た。

 ややあって佐羽足さんは額に手を当て、八重歯を剥き出しに高笑いした。


「くっ……ふははっ! こいつは一本取られた! なるほど瑞月が気に入るわけだ!」


 そして首を回し、背後の湯逸さんに煽るような言葉を掛ける。


「オレも気に入ったぜ、紅華の新入り。おい、夢二も負けんじゃねーぞ」


「あのー、だから笑いどころに困るギャグやめてくださいってばー」


 茶髪の先を指でいじいじしながら、湯逸さんは不服そうに返事をした。


 その直後、背後のドアが開き、淑やかな声が聞こえてきた。


「お取り込み中のところに失礼いたしますわ」


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