第27話 お嬢様事変(4)
「掻い摘んでの説明ですが、事変から現在に至る流れは粗方そんなところですわね」
「うん。一応補足しておくと、紅華のシンボルの六枚花弁は、初代紅華の幹部が六人だったところから来ているんだよ。今は三人が卒業して、離宮の学生として残っているのは終息当時に高一だった輝知会長と、黎明の生徒、そして聖イリアに行った離反者。輝知会長と同じように、他の二人もそれぞれの高校と自警組織のアタマを張ってるって話だけど」
八千重ちゃんとイスカちゃんの言葉を聞き終えても、わたしはしばらく声を発することすらできなかった。
想像を絶する説明の連続に、脳がオーバーヒートしたかのようだった。
初めて離宮を訪れた時、わたしの無邪気な発言に輝知会長が口ごもった理由がようやく分かった。
今の美しく穏やかな離宮は、二年前の血と闘争を代償にもたらされたものだった。
イスカちゃんの『紅華は離宮を救った戦姫』という発言も、比喩ではなく言葉通りの意味だったんだ。
そして、今も――その火種は燻り続けている。
ごくりと生唾を呑み込み、わたしは最初の質問に立ち戻る。
「それじゃあ、八千重ちゃんが言っていたのも、事変に関することで……?」
「ええ。わたくしのかけがえのない友人は、第二次お嬢様事変の終わり際、闇堕ちお嬢様となってしまったのです」
当時に想いを馳せているのか、八千重ちゃんは手のひらをじっと見つめている。
その瞳に宿るものは、失望、悲愴、悔恨。
そして、何より――それらを塗り潰すほどの激情。
「ともに暴力に怯える日々を過ごし、紅華の鮮烈な活躍に憧れ、誇り高き最強のお嬢様になろうと誓い合ったのに……彼女は謀略と暴力で他人を屈服させる道を選んだ。事変終息後の動向は知れませんが、彼女はまず間違いなく、聖イリア校の自警組織【メビウス】に所属していることでしょう」
覚悟を決めるかのごとく、誓いを立てるかのごとく、八千重ちゃんは拳を握って宣言した。
「名は『蓮野ウテナ』。わたくしは、どうしても彼女に一発入れなければ気が済まないのです」
同じ自警組織として、他校のメンバーと顔を合わせる機会もあるだろう。
ことによれば、戦わざるを得ない時も来るかもしれない。
その名を胸中に刻み込んだわたしに、八千重ちゃんは思い出したように水を向けてきた。
「そういえば陽香さん。スマホを無くしたということは、もしや輝知会長からの連絡も受け取っていないのでは?」
「輝知会長からの連絡? ……あ、そういや火虎先輩に言われてたっけ、輝知会長に報告して処遇を決めるって……」
やっぱり除名か、そうでなくとも何かしらのペナルティがあるのかな、火虎先輩に口答えみたいなこともしちゃったしな……
というマイナス思考が顔に出ていたのか、八千重ちゃんはフッと口角を上げた。
「陽香さんが懸念するような悪報ではないですよ。わたくしと陽香さんに対する、お嬢様会談への出頭要請です」
「お嬢様会談!?」
その単語に素早く反応したのは、わたしじゃなくてイスカちゃんだった。
毎度のことながら、わたしには何のことやらさっぱりだ。
「……って、何?」
「桜仙花・黎明・聖イリアの三校の代表で執り行われる会談です。本来新入りが顔を出せる代物ではないのですが、襲撃者の件での事情聴取ということで、幹部代理としての参加が認められたそうです」
イスカちゃんは八千重ちゃんとわたしを見比べ、引き攣った表情でぼやく。
「何ていうか……弥勒寺さんは言うまでもないけど、陽香ちゃんも相当持ってる側の人だよね。良いか悪いかはさておき……」
「えっ、お嬢様会談ってそんなにヤバい集まりなの……?」
縋るように問うわたしからさりげなく目を背け、イスカちゃんは頬を掻いて答えた。
「いやー、ヤバいって言うとちょっと誤解を招くけど……個人的な意見としては、今のあたしなら絶対に参加したくない、かなー……」
――絶対ヤバい集まりじゃん!




