第26話 お嬢様事変(3)
犯した罪が重く、改心の余地のない闇堕ちお嬢様は退校処分……すなわち離宮外追放に処すべき、というのが当時の紅華幹部の総意だった。
しかし、お嬢様事変も間もなく幕引きと目された頃、幹部の一人がそれに異を唱えた。
学生の自分たちが他人を改心させるなど傲慢甚だしい考えではないかと。
都合のいい生徒だけを選り好みすることが本当に離宮のためになるのかと。
あらゆる生徒とあらゆる才能を組み合わせ、前に進むことこそが、真のお嬢様の精神なのではないかと。
その理念自体は崇高だ。
しかし他者に危害を加え、それを反省しない人間など、到底受け入れられるわけがない。
彼女と他幹部の議論は平行線の一途を辿り、とうとう彼女は紅華を離脱した。
そして彼女は、数多の闇堕ちお嬢様を従え、紅華に反旗を翻したのだ。
「それが、第二次お嬢様事変……第一次を上回る被害をもたらした、破滅的なカリスマを持つリーダーによる革命劇です」
元よりその離反者は、対話による解決を望んでいたわけではなかった。
彼女は初めから、離宮のお嬢様たちを恐怖と暴力で支配しようと目論んでおり、紅華との決裂はその火蓋を切るための動機付けに過ぎなかった。
それでも、戦う大義と優れた指導者を獲得した闇堕ちお嬢様の集団は、第一次の野良とは比べ物にならないほどの猛威を振るった。
脅威は彼女たちの戦闘力だけではない。
離反者の堂々とした演説は数多のお嬢様を虜にし、一般生徒はおろか、紅華の腕利きすらも次々と彼女の軍門に下ってしまった。
やがて闇堕ちお嬢様の集団は、一時的に黎明学園を実効支配し、桜仙花学園に要求した。
二校を合併した新たな学園を作り、そこで我々の指揮下に入れ。さもなければ桜仙花学園も我々が強制的に占拠する、と。
当然のように交渉は決裂し、桜仙花学園を拠点とした紅華と闇堕ちお嬢様は激しい戦いを繰り広げ、少しずつ黎明学園の自治権を取り返していった。
激闘の末、両者は痛み分けという形でいくつかの合意を獲得した。
闇堕ちお嬢様の集団は、新規に設立した【聖イリア女子中等・高等学校】の生徒として迎え入れた。
そして、桜仙花・黎明・聖イリアの三校による【お嬢様協定】を締結し、各校の自警組織の権限や管理について厳しく取り決めた。
住み分けを徹底するという形で、今度こそ離宮にかつての平穏が訪れた。
しかし二つの事変の傷は根深く、その後の方針を巡り、これまで協力関係にあった桜仙花と黎明にも溝が生じた。
桜仙花は『今後他校への暴力的干渉を行わないのであれば事変に関しては実質不問とする』という姿勢だったが、黎明は『事変主導の責任として、聖イリアには自警組織の設置を認めず、二校の厳格な監視下に置くべき』という主張をなかなか譲らなかった。
桜仙花の穏健的な――言い方を選ばないなら弱腰な姿勢に嫌気が差した黎明は、桜仙花と聖イリアに何かしらの繋がりがあると疑念を抱き、二校関係はあわや衝突寸前まで緊張したという。
最終的に桜仙花の条件で渋々協定を結ぶ形になったが、一時的とはいえ学園を占拠された黎明がそのような強硬姿勢にこだわったのは無理らしからぬことだ。
紅華の創設者が桜仙花学園の生徒だったため、黎明学園の自警組織は【八咫烏】と名を改めた。
聖イリアへの抑止力としての都合上、表面的には協力関係にある紅華と八咫烏だが、今の両者の間には強いライバル意識が存在している――




