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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第5章 仮面の襲撃者

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第20話 仮面の襲撃者(3)

 呆然としかけたわたしは、慌ててスマホを取り出した。


「けっ、警察……じゃなくて!」


 花園の緊急通報ボタンに指をかけた瞬間、いつの間にか眼前に迫っていた狐面が足を閃かせ、わたしの手元からスマホを弾き飛ばしてしまった。


「いったぁ……!」


 痛みに呻きながらも、わたしは生存本能を総動員し、反射的に狐面との距離を置く。

 行動不能になった弥勒寺さんに、狐面はもう目もくれず、わたしだけに意識を集中させている。


 全身を刺すような恐怖感を振り払うべく、わたしは蹲る弥勒寺さんに言った。


「弥勒寺さん、立てる!? 今、緊急通報したからすぐに救援が……来るかな、ちゃんと発信できてないかも……」


 地面に転がるスマホを横目で見、わたしは語尾を濁した。

 拾って確かめたいのは山々だが、その隙を狐面が見逃すとも思えない。


 先に動けば負ける――そんな睨み合いの最中、蹲る弥勒寺さんが苦しげに言った。


「お……逃げなさい、高遠さん……」


「嫌だ!」


 わたしは大声を上げ、深く構えて狐面と対峙した。

 初めての実戦。全身を覆う不安を振り払おうと、わたしは一層声を張り上げる。


「わたしが少しでも時間を稼ぐ! 弥勒寺さん、できるだけ早く立って逃げて! 多分長くは保たない!」


 護身の心得は最低限備えている。

 狐面の目的は不明だが、防御と回避に徹すれば、少なくともすぐ行動不能にさせられることはないはず。


 様子を窺っていた狐面は、わたしに攻撃の意志がないことを悟るや、距離を詰めて仕掛けてきた。


 狐面は体格こそ小柄だが、拳と脚を紙一重でかわすたび、鋭い風圧を感じて肝を冷やした。

 こんなスピードの使い手が初めての実戦になるなんて。


 連撃をさばききれずよろめいたわたしに、狐面は跳躍し、顔面を狙った横薙ぎの蹴りを繰り出してきた。

 回避は間に合わない。わたしは左腕を右手で支え、ガードの体勢を取る。


 狐面の蹴りを前腕で受け、わたしは呻いた。


「ぐっ……重い……!」


 飛び蹴りとは思えない力を受け止めきれず、わたしは横ざまに地面に転がされてしまった。

 直撃を受けた左腕のみならず、支えにした右手までじんじん痛む。


 これ、下手したら左腕折れたか……?


 倒れたわたしを、狐面は少し離れた所でじっと見つめている。

 弥勒寺さんはまだ動けずにいるようだ。


 抵抗の手段を奪われ、これから襲われる苦痛を想像し、目を閉じかけたその時――


 突如、一陣の烈風が吹いた。


 わたしと狐面の間に、天を衝くような大柄な人物が割り込んでいる。

 彼女を見た瞬間、わたしは全身の力が抜けるほど安堵した。


「……状況を説明しろ」


 火虎ひどら先輩の声は、初めて聞くほど低く、背中姿からも怒り心頭なのが伝わってくる。

 わたしは体を起こし、可能な限りの大声で報告した。


「襲撃者、二名負傷、一名移動不可!」


「そうかい、見たまんまだなッ!」


 火虎先輩は言い捨てると、地面を蹴って狐面に飛び掛かった。

 そのスピードのキレは狐面にも引けを取らない。


 もう安心だ。いくら狐面が相当な使い手だとしても、あの火虎先輩に敵うはずがない。


 そう気を抜いていたわたしは――狐面が火虎先輩の伸ばした右手を弾き、攻撃を往なした姿を見て目を剥いた。


 左腕で攻撃の軌道を逸らした狐面は、受け流した勢いのまま体を反転させ、火虎先輩の体側に、踵回し飛び蹴りをお見舞いした。


 持ち上げた腕を盾にして難なく受け止めた火虎先輩だったが、腕にめり込んだ狐面の足を見て不快そうな声を上げた。


「……あぁ?」


「火虎先輩!?」


 一撃を浴びせられた火虎先輩を見、わたしは息を呑む。


 まさか火虎先輩ですら――という不安がよぎりたが、火虎先輩の硬直は一瞬だった。


 腕力で強引に足を跳ねのけ、そのまま宙に浮いた狐面の足首を掴もうとする。

 狐面はすぐさま足を引き、バク宙からのバックステップで火虎先輩との距離を置いた。まるで軽業師のような身のこなしだ。


 数秒間、狐面は火虎先輩と睨み合い――やがて形勢不利と察したか、背を向けて黄昏の街に姿をくらました。

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