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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第5章 仮面の襲撃者

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第18話 仮面の襲撃者(1)

 お嬢様といえば運転手が高級車で送り迎えするというイメージだけど、桜仙花学園ではほとんどの生徒が徒歩と公共交通機関で登下校している。


 理由は単純で、生徒全員が自家用車で乗り付けると、朝夕に周辺道路が渋滞してしまうからだ。

 離宮内に巡回モノレールが敷かれたのもそれが主な理由らしい。


 やんごとなき身分のお嬢様としては庶民的な――有り体に言うなら少々危なっかしい移動手段だが、通学路を歩く彼女たちに不安の表情はない。


 その要因の一つは、もちろん自警組織【紅華べにばな】の存在。


 紅華は登下校時、二人一組になり、持ち回りで主要な通学路や駅に詰めている。

 わたしたちが修練場を初訪問した際の紅華会員は、実は下校時の当番者を除いた一部だったらしい。

 腕章を付けた紅華は、いつだって道行くお嬢様たちの崇拝の的だ。


 そしてもう一つが、桜仙花学園の学生専用スマホアプリ、通称【花園】。


 学校・行政からの通達の受信や、生徒間のクローズドSNSとして使えるそれは、紅華への緊急通報システムを兼ねている。

 発信すると最寄りの紅華メンバーに繋がり、発信者の位置情報を元に紅華が急行できる仕組みで、もちろん事が済んだら生徒たちに注意喚起の連絡をすることも可能。


 これら二柱のシステムにより、お嬢様たちの平穏な学園生活は担保されているのだ。


 今日、わたしたちが出くわした事件は、まさにその【花園】の通報によるものだった。


 その日、新人のわたしと弥勒寺さんは、火虎ひどら先輩とともに下校時の見回りを行っていた。

 火虎先輩がスマホで通報者と二言三言交わした後、ともに現場に向かうと、確かに怪しげな眼鏡の男が路傍に立っていた。


 道を検索している風ではなく、スマホを持つ手もやけに高い。好ましからぬ輩であることは一目で分かる。

 彼の死角から遠巻きに様子を窺う二人のお嬢様は通報者だろう。


 わたしと弥勒寺さんがお嬢様の護衛に付いてから、火虎先輩は不審者に接触した。


「すみませんが、そちらの方、ここにはどういったご用事で?」


 大柄な火虎先輩が低姿勢で尋ねると、男は露骨に慌てふためいた様子で弁解した。


「あ、あの僕は別に、ただ風景の写真を撮ってるだけで……」


「そうですか、では少々拝借を」


 言うが早いか、火虎先輩は長い腕を伸ばし、彼の手からスマホを掻っ攫った。

 男の抗議もそっちのけでスマホを操作した火虎先輩は、やがて画面を男に向け、毅然と言い放った。


「我が校の生徒の盗撮写真ばかりですね。このスマホはこちらで押収させていただきます。あなたはこの後、事情聴取を受けていただいた上で迅速にお帰りいただき、二度とこの近辺には近付かれませんよう」


「なっ、何だその横暴は! 返せ、僕のスマホだぞ! 警察に言うぞ!」


 男はスマホを取り返そうと手を伸ばしたが、火虎先輩は軽く腕を曲げるだけでそれをかわした。

 身長百八十センチの火虎先輩は、並大抵の男性よりも背が高い。


「この盗撮まみれのスマホを取り返すためにですか? 我が校の専属弁護士を通した後でなら、謹んでお返しいたしますよ。もっともその場合、民事訴訟で新品のスマホの何十倍もの賠償金をお支払いいただくことになりますが」


 火虎先輩の冷淡な言葉を聞き、男の顔に朱が差した。

 眼鏡の奥の目が血走り、剣呑な雰囲気が漂う。


「ずっ、ずるいじゃないかっ! お前たちは親ガチャに恵まれただけで何不自由なくのうのう暮らして、そのくせちょっと写真を撮られたくらいで大騒ぎして! 金持ちは貧乏人をいじめるのがそんなに楽しいのかよ!? 僕には写真を撮る権利さえないってのかよォォ――ッ!」


 両腕を振り回して凶行に走ろうとした男を、火虎先輩は白けた目で一瞥。


「ったく、訊いてもないことをウダウダとうるせぇな」


 慇懃な口調をかなぐり捨てて呟くや、振るわれた拳を軽くかわして男の手首を取り、思いっきり捻り上げた。

 甲高い悲鳴を上げる男を、そのまま腕力だけで持ち上げ、地面に投げ飛ばす。


 盛大に尻もちをついた男を、火虎先輩は侮蔑の眼差しで見下ろした。


「理解できなかったか? 俺は『お前を完膚なきまでに叩き潰すこともできるが、指示に従うなら今回だけは見逃してやる』って言ってんだ。そっちがその気なら、ここから先は容赦しねぇぞ」


「はっ、はいぃ、すみませんでしたぁ……」


 男はヘビに睨まれたカエルのごとく震え上がり、すっかり抵抗の意志を喪失した。

 紅華三花弁の華麗な手腕に、わたしと弥勒寺さんは感嘆の声を零すことしかできない。


「さ、さすが火虎先輩……」


「気色の悪い雑魚だったが、まぁサンプルとしてはちょうどよかったかもな」


 鬱陶しそうに鼻を一つ鳴らしてから、火虎先輩はわたしたちに言った。


「危険なのは目に見える暴力だけじゃない。子猫ちゃんたちの安全のために、お前らもしっかり目を光らせろよ」


「「はい!」」


 わたしと弥勒寺さんが威勢よく返事をした直後、通報者の二人組が深々と頭を下げてきた。


「ありがとうございました! あの方、前にも見かけた気がして、本当に気味が悪くて……」

「こんなにあっさり解決してしまうなんて、さすがは戦姫と称される紅華ですわ!」


「いえ、わたしは何も……」


 思いがけない賞賛に困惑するわたしの肩に手を置き、火虎先輩は優しい笑みを湛えて言った。


「受け取っておけ、お互いに損するもんでもないだろ」


 お墨付きを得たわたしは頷き、精一杯のキメ顔で彼女たちに宣言した。


「はい! 皆さんの安全はわたしたち紅華が守りますので!」


「キャー! かっこいいですわー!」

「頼りになりますわー!」


「え、えへへ、まだ新人ですけど……」


 黄色い声を上げるお嬢様たちの応対をしていたわたしは、いつの間にか傍から弥勒寺さんがいなくなっていたことに気付けずにいた。

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