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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第3章 紅華入会試験

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第13話 紅華入会試験(5)

 それから、わずか十分弱。


 眼前に広がる光景に、わたしたちは揃って口をあんぐりと開けることしかできなかった。


「つ……強すぎる……!」


 意気揚々と三人に立ち向かった約二十名もの武道連盟は、今、その全員が荒い呼吸を繰り返しながら床に転がっていた。


 その中心には、彼女たちと戦った三花弁が背中合わせで立っている。

 宣言通り三人とも、一度も足の裏以外を接地させることすらなく。


「これが……最強のお嬢様……」


 わたしは息をするのも忘れ、三花弁の勇姿に見惚れていた。


 紅華側が圧倒的すぎて勘違いしそうになるが、武道連盟のメンバーも決して弱くはなかった。

 特に代表の宍戸先輩は、大柄な体格と俊敏な動きで幾度となく輝知会長に組み付き、わたしはそのたびに肝を冷やした。

 少なくとも輝知会長の服を掴むことすら叶わなかった不良たちよりは、武道連盟の面々の方がよほど手練れに違いない。


 しかし、そんな彼女たちが束になってさえ、触れるまでが精一杯だった。

 どのような力の入れ方をしているのか、輝知会長は宍戸先輩のたくましい指をいとも簡単にほどき、流麗な動きでその巨体を地に転がしてしまう。


 火虎先輩も中津川先輩も、襲い来るメンバーを流れ作業のように一人一人処理し、後半は危うさを感じる局面すら皆無だった。


 まさに一騎当千の戦姫ワルキューレ

 イスカちゃんも、あの弥勒寺さんでさえも、我が目を疑うとばかりに輝知会長たちを凝視している。


 やおら宍戸先輩は半身を起こし、悔しげに唇を噛んで独りごちた。


「くぅ、やはり我々では紅華の足元にも及ばないのか……」


「戦いに勝つだけが優れた力ではありませんよ」


 宍戸先輩の元に歩み寄り、輝知会長はそう断った。

 見上げる宍戸先輩に、輝知会長は微笑んで手を差し伸べる。


「武道連盟の皆様も、とても丁寧でよい鍛錬を積んでおられる。攻防一体の足捌きに的確な受け身、そしてバランスのいいお嬢様筋(おじょうさマッスル)。試合や護身という観点では申し分のない完成度です。それゆえに変則的な立ち合いにおいては一歩譲ってしまいますが、そのスタイルを崩す必要はありません。あなた方にはあなた方の、我々には我々の目指すべき地平が存在する」


 輝知会長の言葉は、恐らくお世辞の類ではない。

 一度も倒れなかったとはいえ、滲む汗と乱れた呼吸は体力の消耗を意味しているし、何よりもその表情は終始真剣そのものだった。


 一瞬たりとも気を抜かなかったからこその、圧勝。

 手を取って立ち上がった宍戸先輩に、輝知会長は胸元に右手を当て、粛然と一礼した。


「我々とお手合わせいただき、ありがとうございました」

「「ありがとうございました!」」


 輝知会長に続き、火虎先輩と中津川先輩も同様に深々と頭を下げている。


 打ち負かした相手への礼節を忘れない。

 その誇り高き精神に、わたしは痺れるほど魅せられた。


 宍戸先輩は潔い笑みを湛え、輝知会長に礼を返した。


「……清々しいほどの完敗ですね。力のみならず、その高潔な魂、御見それしました」


「身に余るお言葉です。これからもよき好敵手として、お互いを高め合っていきましょう」


 宍戸先輩は輝知会長と固い握手を交わした後、武道連盟のメンバーを引き連れ、エレベーターで地上へと戻っていった。


 彼女たちを見届け終えた輝知会長は、わたしたち新会員に向き直り、にこやかに告げる。


「さて、いかがでしょうか。ご希望とありましたらどなたでもお相手いたしますが」


 弥勒寺さんは体側にぴったり両手を揃え、九十度に頭を下げた。


「先ほどの無礼をどうかお許しください。ひとえにわたくしの浅慮ゆえの戯言でした」


「許すなどとんでもない。弥勒寺さんの発言は極めて的を射たものでしたし、内心で同じ不満を抱いていた方も少なからずいらっしゃったでしょう。臆することなくご意見をくださったあなたに、私は深い敬意を表しますよ」


 弥勒寺さんの謝罪を、輝知会長は寛大な姿勢で受け入れた。


 力にあぐらを掻くことなく、あらゆる相手に敬意を払い、尊重する。

 これが最強のお嬢様の風格かと、わたしは輝知会長の一挙手一投足に自戒を込める。


 輝知会長はわたしたち一人一人に視線を遣ってから、ごく自然な口調で言った。


「端的に申し上げましょう。新会員の皆様には当面の目標として、今我々が見せたくらいの強さを目指していただきたいのです」


 途端、わたしたちの間にざわめきが広がった。

 つまり今しがた輝知会長たちがわたしたちに見せたのは、頂点に君臨する者としての力ではない。

 火虎先輩の入会試験同様、『紅華ならこれくらいできて当然』の基礎の範疇だったのだ。


「今見せたくらいって……」

「簡単に仰いますけど、とんでもないことなんじゃ……」

「というか、当面の目標も何も、これよりさらに上なんてもはや想像もできませんが……」


 壁を乗り越えたと思ったら、またさらなる壁。

 あの過酷な入会試験の意義は身に染みて理解できたが、顔を見合わせる新会員は、誰も彼も不安げな表情だ。

 そんなわたしたちの憂慮を吹き飛ばすがごとく、輝知会長は冷静に続ける。


「ご心配なく。強靭な肉体と確たる意志を持つ皆様であれば、いつか必ず我々と同じ力を身に付けられます」


 そして、縋るような思いで注目したわたしたちに手を差し伸べ、輝知会長は凛然と宣言した。


「お話しましょう。我々が皆様に伝授する、〝お嬢様武芸(アーツ)〟の真髄を」


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