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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第3章 紅華入会試験

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第12話 紅華入会試験(4)

 それからわたしは心機一転、勉強に交友に肉体強化に励み、さらに一週間が経過した。


 紅華べにばなの入会希望者が二十人を割った辺りから、リタイアはほぼ頭打ちとなり、わたしもイスカちゃんも弥勒寺みろくじさんも日課の過酷なトレーニングを淡々とこなせるようになっていた。

 硬くなった腕やお腹の筋肉に触るたび、わたしは成長を実感してご満悦だった。


 その日の放課後も、わたしたち候補生は鬼教官・火虎ひどら先輩の到着を待っていたのだが、今日の彼女はどこか雰囲気を異にしていた。

 いつもの引き締めた表情をわずかに緩め、口を開く。


「お前たち、今日までよくやったな」


 わたしたちは顔を見合わせた。

 これまで叱咤と挑発でしかコミュニケーションを取ってくれなかった火虎先輩から、まさかこんな労わりの言葉を聞く日が来るなんて。


 ざわめくわたしたちを順に眺め、火虎先輩は深々と頷く。


「顔付きを見れば分かる。お前たちのお嬢様筋(おじょうさマッスル)は、紅華の肩書きを背負うに値するほど磨き上げられているとな」


お嬢様筋(おじょうさマッスル)……?」


「お嬢様と筋肉マッスルを掛け合わせた造語だ」


「あっ、はい」


 独り言を聞き付けられ、わたしは背筋を伸ばした。

 火虎先輩は踵を返すと、私たちに流し目をよこして歩き出す。


「ついてこい。紅華の修練場に案内する」


 わたしたちは目配せだけで歓喜を分かち合い、カルガモの子よろしく火虎先輩の後をついていった。

 脚が長い火虎先輩は歩く速さも段違いで、わたしたちはほとんど駆け足みたいになってしまう。


 火虎先輩に先導されるまま、わたしたちは地下グラウンドに続く大型エレベーターに乗る。

 一年生は地下三階以下には降りることすらできないのだが、火虎先輩はセンサーに学生証を翳し、迷うことなく最下層五階のボタンを押す。

 停止したエレベーターから降りた途端、わたしは肌がひりついたのを感じた。


 そこは地上の運動場や地下グラウンドと同程度のだだっ広い空間だった。


 空間は十字に区切られ、マットレス、畳、リング、人工芝という四つのエリアに分かれている。

 広さと照明のおかげで全く窮屈さを感じない……どころか、ここが外だと錯覚してしまいそうなくらいだ。


 今は三十名ほどの生徒がそれぞれのエリアで手合わせをしたり、端の方で休息を取ったり話し合いをしたりしている。

 一見すると広大な空間を持て余しているようだが、彼女たち一人一人が放つ気迫と存在感は、この空間を隙間なく埋め尽くしている。

 足を一歩前に踏み出す、その行為すら気後れを抱いてしまう。


 真正面の壁面には、六枚の花弁が描かれた大きな垂れ幕が掛かっている。 

 火虎先輩の腕章にも刻まれている、紅華のシンボルマーク。


 ここが紅華の修練場。全てを兼ね備えた最強のお嬢様が集う場所。


 火虎先輩がスッと片手を挙げると、修練場に散っていた生徒たちは一斉に注目し、即座に駆け足でわたしたちの元に集まってきた。

 軍隊のような統率された動きに、わたしたちも反射的に姿勢を正す。


 彼女たちの奥から、艶やかな黒髪を靡かせ、一人の女子生徒が姿を現した。


「ようこそ、紅華の修練場へ」


 紅華会長、輝知かがち瑞月ミヅキ

 ラフなジャージ姿でもその美貌には一切の綻びがない。

 柔和な笑みを湛え、輝知会長は胸に手を当て、丁寧に一礼。


「よく茜の試練についてこられましたね。歓迎しますよ。新たなる同志にして、最強のお嬢様に成る可能性を秘めた者たちよ」


 彼女に合わせて頭を下げるわたしは、ずっと胸がドキドキしっぱなしだった。


 やっぱり間近で見る輝知会長の麗しさは格別だ。

 わたし以外の新会員もみんな、緊張したり顔を赤らめたり、恍惚の表情を浮かべたりと似たり寄ったりの反応だ。


 ただ一人を除いて。


「成る可能性を秘めた……とは、随分と俯瞰的な言い草でありますわね」


 鋭利な針のようなその一言は、わたしのすぐ隣から発せられた。

 声の主は弥勒寺八千重。敵意さえ込められた彼女の言葉に、わたしは泡を食ってしまう。


「ちょっ、弥勒寺さん……!?」


 わたしや他の新会員の慌てぶりに構うことなく、弥勒寺さんは輝知会長に物申した。


戦姫ワルキューレと称される紅華の皆様を、わたくしは崇拝しておりますし、入会試験それ自体の必要性も認めます。しかしながらお言葉ですが、輝知会長様や他の紅華メンバーは、本当に我々がこなしてきたものと同じトレーニングを達成できるのでしょうか? いえ、達成できたとして、それは実際の戦闘訓練に必要なのでしょうか? あの二週間にわたる過酷な試験が、単に我々を振るい落とすための手段でしかなかったとするなら、いささか承服しかねるのですが」


 入学式の答辞で見せた敬虔な言動が嘘のようだ。


 この二週間の過酷な入会試験で、弥勒寺さんは結構プライドが傷付けられていたのかもしれない。

 輝知会長を含めた紅華メンバーの中には、一見華奢で非力な印象の生徒も多く見受けられ、そのような疑問を持つのも理解はできるけれど。


「回りくどいぞ、弥勒寺。何が言いたいんだ」


 辟易した口振りの火虎先輩を、輝知会長は片手で制し、弥勒寺さんに問う。


「弥勒寺さんのご意見はごもっともです。要するに、我々が新会員のあなた方よりも弱く体力がないのではないかと、我々が新人いびりのためにあのような試練を設けたと、あなたはそう疑っておられるのですね?」


 穏やかに問い返す輝知会長に対し、弥勒寺さんはバツが悪そうに目を背ける。


「疑うというのは少々語弊が……わたくしはただ、これまでの苦行に納得できるだけの根拠がほしいのです」


 輝知会長に気分を害した様子はなく、むしろ鷹揚に頷いて弥勒寺さんの物言いを受け止めている。


「承知しておりますよ。そう仰られる可能性も踏まえ、事前に手筈は整えてあります」


 わたしたちの背後でエレベーターのドアが開いたのは、その直後のことだった。


 地鳴りのような足音とともに、次々と新たな生徒が修練場に降り立つ。

 彼女たちが着る服は、道着やユニフォームなど統一性がなく、色もバラバラだ。


「たのもう!」


 先陣を切り、片手を挙げて声を上げたのは、柔道着を着た恵体の女子生徒だった。

 火虎先輩に匹敵する身長に加え、がっしりした肩幅を持つ彼女は、見るからに猛者の風格を漂わせている。恐らくは三年生だろう。

 突然の闖入者を、輝知会長は柔和な微笑みで迎えた。


「これはこれは、ちょうどよいところにお越しくださいました。桜仙花武道連盟の皆様に、代表の宍戸ししど様」


 その台詞でわたしは思い出した。

 初めて離宮に来た日、輝知会長が言っていた有志の護身術クラブを開いている武道連盟とは、彼女たちのことだったのだ。


 宍戸と呼ばれた代表者のみならず、背後に控える二十名ほどの生徒も精悍な顔つきで、威圧感は紅華のメンバーにも劣らない。

 どこかで見覚えのある人もいるような……と思った矢先、新会員が興奮した様子で小声を交わし始めた。


「宍戸様って、確か昨年の柔道国体優勝の……?」

「隣にいらっしゃる亀山様は、関東女子レスリングで連続入賞を果たした……」

「空手界の神童、御堂様までいらっしゃいますわ……」


 耳を疑い、わたしは小柄な連盟メンバーをまじまじと見た。


 空手の御堂さんは、確かに新聞で何度か見たことがある。

 あどけない童顔とは裏腹に、ジュニア世界大会への出場経験を持つ天才空手少女。

 すごい同世代がいるもんだなぁと思っていたけど、まさか桜仙花学園のお嬢様だったとは。


 固唾を呑んで見守るわたしたちの前で、宍戸代表は野太い声で念を押す。


「敬愛する輝知会長といえども、勝負は本気でやらせていただきますよ。我々が勝てばお約束通り、武道連盟の予算を十倍に引き上げていただく」


「ええ、無論です。予算のみならず、この特別修練場を差し上げるとともに、この場にいる我々全員もあなた方の軍門に下るとお約束いたしましょう」


「ちょっ、輝知会長……!?」


 呆気に取られるわたしたちの目の前で、輝知会長と宍戸先輩はとんでもない言葉を交わし合っている。

 ろくすっぽ口を挟む間もなく、宍戸先輩は意気揚々と話を進めていく。


「ようし、それでは早速五本勝負といきましょう。御堂さん、試合の準備をなさい。そちらの先鋒はどなたが……」


「こちらの事情で申し訳ないのですが、五本勝負では今年の新会員たちには少々示しが付きませんの」


 宍戸先輩の話を遮り、輝知会長はそう言った。

 口を噤んだ宍戸先輩に対し、輝知会長はハンドサインで背後の紅華メンバーを下がらせ、胸元に右手を当てて宣言した。


「今ここにいらっしゃる連盟のメンバー全員、()()()()私がお相手いたします。()()()()()()()()()()()()()()()()、それで構いません」


 一瞬わたしたちは――恐らくは武道連盟の人たちも含め――輝知会長の発言を理解しかねていた。


 唖然とする一同に対し、輝知会長率いる紅華メンバーは、当然の成り行きだと言わんばかりに趨勢を眺めるばかり。

 自分たちの今後の運命がかかっているにもかかわらず。


「な、何ですとぉ……?」


 耐えがたい屈辱を受けたと言いたげに、宍戸先輩と連盟メンバーたちのこめかみがピクピクと痙攣する。

 涼しい表情の輝知会長の背後に、唐突に二つの影が差す。


「おいズリィぞ瑞月、半分よこせ。こちとら新人教育に時間取られて腕がなまってんだ」


「茜、自分だけ会長にいいところを見せようったってそうはいきませんよ」


 紅華三花弁の火虎ひどらアカネ、そして中津川なかつがわ翠子スイコ

 指の骨を鳴らし、腕を伸ばし、二人の副会長は臨戦態勢に入っている。


 輝知会長は苦笑し、宍戸先輩に念を押す。


「やれやれ、仕方ありませんね。三人になりましたが差し支えはございませんか? 勝敗の条件は同様、一人でも倒せば皆様の勝ちで結構です」


 その一言で、宍戸先輩の硬直が解けた。

 後方に控える連盟メンバーを振り返り、大声で彼女らを鼓舞する。


「後悔しても知りませんよ! 行きますよ、あなたたち!」

『サー!』


 鬨の声とともに、荒波のごとき大群が三人に押し寄せる。

 手を伸ばせば触れる距離に近付いても、三人の表情は凪いだまま、そして――

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